魚介豚骨でもとんがった味は要らない。老若男女が食べられる優しい味
白地に赤いラインが入った看板が目印の「渡来人」。店構えは店前に駐車スペースがある、いたってオーソドックスなロードサイド店風情。
「いらっしゃいませ!」。お店の戸をガラガラッと開けると明るい声が届いてくる。麺屋 渡来人の店内にはカウンター席に畳の小上がり、全部で20席だという。休日の昼どきになると、ここが5回転以上することになる。開店前に時間を割いての取材。入口にある券売機に、一番人気とマークが付いた「味玉ラーメン(850円)」を注文しつつ話しを聞いた。
麺屋・渡来人のご主人は中野澄さん。オープンは2007年、今年で12年目。中野さんは地元・大洗の出身ではなく、東京でサラリーマンをしていたという。「実はラーメンとは別の仕事で、ここ大洗に何年か住んでいたんです。その後、大洗を離れたのですが、いざラーメン屋を始めようと思った時、最初に浮かんだ場所が大洗でした。田舎に住みたい、という気持ちもあり、東京へのアクセスも良く、何より色々な人にお世話になって住みやすい場所でもありました」
話しを伺いながらカウンター席で待つことしばし。味玉ラーメンが運ばれてきた。
魚介と豚骨、ダブルスープの匂いが鼻をくすぐる。良いあんばいに黄身が溶ろけた味玉、メンマ、ナルト、カイワレにチャーシュー。クコの実がアクセントになっている。まずスープをひと口。魚介豚骨ラーメンのスープにしてはとくに優しい。魚介特有のザラッついた舌触りはなく、クセなく深い。「魚介豚骨ラーメンは、店の特徴を出すために奇抜なものも結構ありますが、うちはそういう意味ではかなりマイルドです。なかには、もっとインパクトが欲しいというお客さんもいますが、そこは達観しています」
店主自身が「いちばん美味しい」と感じた製麺屋の麺で作る
麺は中太でツルツルシコシコ。スープを絡ませるほどに止まらくなる。『手打ち』を謳う麵屋も多いが、渡来人は違う。中野さんが各所を食べ歩いたなかで、もっとも美味しいと感じた東京の『三河屋製麺』の麺を使う。「手打ちのラーメンも色々食べてきましたが、三河屋製麺さんよりもうまいと思ったこと、あまりないなあ(笑)」。ラーメン、みそラーメン、つけ麺で、それぞれ麺を使い分けている。
ホロホロとして柔らかなチャーシューは改良を重ねて今に至った。「肉と脂のバランスが良い肩ロース肉にこだわっています。開店当初は、よくあるバラロール(※バラ肉を巻きたこ糸で縛り煮るチャーシュー)でしたが、脂身を残すお客さんが多かった。うちのお客さんは子供からお年寄りまで幅広いので、この柔らかホロホロが合うと思っています」。半熟の味玉をほおばり、スープを一滴も残さずに、あっという間に完食。
かつお節値上がり中!「でも出汁のコストは削れない。かつお節なのに削れない、 なんてね」
当時は珍しかった魚介豚骨スープで勝負した渡来人だが、最初の半年はヒマだった。その魚介豚骨を活かしたつけ麺を出したところ、あるラーメン専門サイトが飛びついて、それとともに客足が伸びていったと振り返る。ある意味、順風満帆と言えそうだが、麵屋として、開店時から続けていることがある。それが、毎日必ず店のラーメンを食べること。
「自分が『本当に食べたい』というものを作りたいと。どうしたって味がブレるんですよ、自分の体調もあります。そのブレがお客さんへ出せる範疇に入るよう、毎日開店前に食べています。今日醤油味が薄い、と思ったら、もしかしたら醤油をすくうやり方が雑なんじゃないのか? とか、自身のオペレーションエラーに対する戒めです」
最後まで飲み干したマイルドなスープについて。港町・大洗だけに地元産の魚介系の出汁なのではと聞くと、「それはないですよ(笑)」と即答。東京のお気に入りの乾物屋さんから取り寄せた煮干し、かつお節、ソーダ節、さば節の特徴をバランスよく配合する。「花かつおではなく、蕎麦屋で使う厚削りです」と付け加えながら、「かつお節はずっと値上がり続けて、今ではコストが一番かかっています。でも、コストを削るわけにはいかない、かつお節、なのに削れない(笑)」とダジャレを披露した中野さん。
「渡来人」に込めた、3つの意味
行列店にありがちな、ぶっきらぼうな職人気質とは真逆の、丁寧で優しいキャラクターの店主そのまま、深くて優しい味の魚介豚骨ラーメン。最後に、「渡来人」の由来を聞いた。
「店名には3つの意味があるんです。ひとつは大洗の地元人ではなく他所から来た者、アウトサイダー。ふたつめは、やってみよう! のトライ。みっつめはラグビーのトライ。成功するっていう意味があるんです」
ラーメンのシメは「なめらかプリン」。一日限定30個、あれば注文!
補足だが、渡来人は食後のプリンも人気。「自家製なめらかプリン(280円)」は一日限定30個。これも優しいまろやか味で、ラーメンの食後に合う。
脱サラ後、次の仕事に向けて、ある企業がもつ迎賓館の厨房で働いた時の経験を活かしたという。ラーメンの後を考え、しつこくならないように生クリームは使わず、卵白も少なめ。「卵黄と卵白の配合は企業秘密(笑)」とのこと。
麺屋 渡来人は、常磐道/北関東道経由で東京から2時間、水戸大洗ICを下りて国道51号線を大洗市街方面に走り、涸沼川を渡ってすぐ左折すると近くにある。アクセスする道路は、渡来人のオーナーさんいわく「地元の人もあまり通らないようなマイナーな道」というように、お店の場所は決してわかりやすくはないので、カーナビを頼りに行ってみよう。駐車場は7台分用意されている。