カーボンコンポジットの幕開けは、2003年プロギア「デュオ」

プロギア「TR-X DUO」
15年前の1本が、現在の流れを作った
世界初のカーボンヘッドは1982年のミズノ「バンガード」だと言われている。しかし、ミズノが"グラフィモン"(グラファイト+パーシモン)と呼んだように、パーシモンの代用品でフルカーボンのボディにスチールソールを組んだものだった。そしてドライバーはパーシモンからメタル、チタンへと移行していく。
そして、2003年に登場したのがプロギア「デュオ」。現在とほぼ同じ「カーボンクラウン+チタンボディ」という構造で、そのやさしさと飛距離から爆発的なヒットとなる。

クラウンがチタンよりたわむことを利用してスピン量が減少。現在の「高打ち出し&低スピン」と同じ理論だった

発売当時のカタログ。ボディには「強く、軽く、剛性の高い」チタンを採用。クラウンには「軽量で強度が高く、加工しやすく、復元力のある素材」が求められカーボンに白羽の矢がたった
これを契機に各社からカーボン複合がこぞって発売されるが、時は「フルチタン+高反発」の全盛期でもあった。カーボン特有の「こもった打音」が敬遠され、いつの間にか影を潜めてしまった。

2007年発売のSQ SUMO²(ナイキ)とFT-i(キャロウェイ)、独特の打音で「カーボン=音が悪い」の印象に
時は経ち2015年、テーラーメイド「M1」が登場
トッププロも納得の「打音」と「打感」に改善され、すぐさまPGAツアーで実績を上げると、続々と新モデルをリリースしゴルファーの支持を集める。

ツアープロが使い、結果を出した、M1(テーラーメイド)とGBBエピック(キャロウェイ)
昨年はキャロウェイの「GBBエピック」が記録的な大ヒットとなり、カーボンコンポジット ドライバーが市場を席巻。今年になって国産メーカーも相次いでカーボンコンポジット ドライバーを発売。いまや一大ムーブメントとなった。
カーボン複合の利点は「低重心化」「最適重心化」、そして「ヘッド内部を複雑にしやすい」から!
カーボンコンポジット本来の強みとは何か? 30年前にカーボンクラウンの実用新案を取得していたクラブ設計家の松尾好員氏に聞いた。
「カーボンコンポジット構造は、軽量なカーボンクラウンを採用することで余った重量を適切な場所に配することができ、低重心化や高い慣性モーメントを実現できるというメリットがあります」(松尾)
「ですが、最大のメリットはカーボンを貼る場所、つまりクラウンが大きく開いているので、ヘッドの内部構造を複雑に作りやすいということ」。つまり、クラブ設計の自由度にあると言う。

スリクソンZ585
上の写真はスリクソン初となるカーボンコンポジット構造のドライバー「Z585」。クラウンは「CFRP(炭素繊維強化プラスチック)」、ボディは経比重チタン「8AL-2V」、フェースはチタンにアルミ5%と鉄を1%添加した「スーパータイエックス51AF」を採用。
そして、チタンヘッドの内部には様々な凹凸やリブが配されているのがわかる。これでヘッドのたわみ、反発性能、つかまり具合、慣性モーメント、打音、打感、を調整している。
クラブメーカーにとっては、理想のカタチと性能を引き出すための理想の素材と構造ということか。
「カーボンは音が…」は昔の話となったのか? 最新モデルの「打音」に注目
最新カーボンコンポジット・ドライバー8モデルを堀越良和プロが試打。球が上がりやすい、初速が出るといった特徴のほかに、カーボンコンポジットで気になる打音にも注目した。クラウン内部の構造解説はクラブ設計家・松尾好員氏。通常は見ることができないカーボンクラウンヘッドを分解して裏面と内部もチェック!

【試打解説】堀越良和プロ
ギアに精通した試打のスペシャリスト。年間に打つクラブは数百本、一度打てばその打音と打感を忘れないという

【構造解説】松尾好員(クラブ設計家)
30年も前に「カーボンクラウン」で実用新案を取得。数多くのクラブを手掛けてきたクラブ設計家
M4(テーラーメイド)
「開放的な打音はカーボンとは思えません。普通ならチーピンになりそうなくらい打点をトウよりに外しても左へのミスにならない"ストレートボール製造機"。球が上がりやすく、低スピンの中高弾道で効率よく距離が稼げます」(堀越)

M4

「フェース寄りのソールを大きく凹ませた「ハンマーヘッド」。半円状のリブで打感と打音を向上させています」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】トウ側のV字状の凹みで立体的なクラウンに
ツアーB XD-3(ブリヂストン)

ツアーB XD-3
「打音は乾いた低めの音で上級者好み。初速が抜群に速く、中弾道の強いライナー系で飛んでいきます。やや浅めの重心設計なのか、インパクトに向かってロフトが立つ方向にはたらき、それが低スピンの強弾道を生んでいると感じ。使い手の"気持ちよさ"を考慮した繊細なこだわりは、国産ブランドの真骨頂ですね」(堀越プロ)

「ソールのT字型リブに加え、斜めにリブを配置。ヘッドのたわみや強度、打音をコントロールしています」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】表面の金属弦は見えず、シリアル番号のみのシンプルな仕上がり
TW747 460(本間ゴルフ)

TW747 460
「乾いた打音は昔の『egg』を彷彿とさせますね。ディープフェースなので高弾道とはいきませんが、中弾道の強い球が打てます。構えやすく安心感があるのに、操作性が高いのが特徴。つかまりもほどほどで左に行きにくく、振れば振るほど飛ばせるのでアスリートでも使いやすい」(堀越プロ)

「フェースを支えるリブをソールとクラウン内部に配置していますね。非常に複雑な形状です」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】東レが開発したばかりの最新素材カーボンプリブレイク「ET-40」を採用。強度を高めるための9本のリブが特徴的
スリクソンZ585(ダンロップ)

Z585
「乾いた金属音という感じで気持ちいい。つかまりがよく、ボールも楽に上がってくれます。トウ上やヒール下に当たっても、飛距離と方向性が安定。やさしさが際立っていますね。スリクソンはちょっと敷居が高いと感じていたアベレージや、飛距離の落ちてきたシニアの競技志向ゴルファーによさそうです」(堀越プロ)

「リブと凹凸を増やしウェートで低重心化を図っています。安定した高弾道で飛ばすための設計ですね」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】編み目のないシンプルな仕上がり
ローグ スター(キャロウェイ)

ローグ スター
「打音はカーボンの乾いた感じと、チタンの弾く感じが混じった飛びそうな音。プロや上級者が使うのもうなづけます。ヘッドの座りがよく安心感があり、ライ角がややアップライトに感じるので、やさしく球がつかまりそうなイメージが湧きやすいです。安定して飛距離アップしたい方向け」(堀越プロ)

「クラウンとソールのたわみを抑制する2本の柱が特徴的です」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】カーボンを3方向から編み込んでいるため、編み目は格子状でなはくひし形
Mグローレ(テーラーメイド)

Mグローレ
「ソールにもカーボンが配されているからか打音の響きは少なめ。HS38m/s前後の人が飛ばすには、スピン量よりも打ち出し角が重要という結果が出ているのですが、それを考慮したのでしょう。どこまで上がるのかなと思うくらい打ち出し角が高い。前に行く推進力も強いのでしっかり飛びます」(堀越プロ)

「ソールにもカーボンを使っているのがわかります。M4と形状が似ていますね」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】表面はシルバーだが裏を見るとM4とほとんど同じ形状であることがわかる
RS-F(プロギア)

RS-F
「音が高くて気持ちいいです。ルール"ギリギリ"の高初速と謳っていますが、まさにその通りで、とにかく初速がでる。しかも高初速エリアが広いです。フェードの"F"なので左に行きにくく、強い中高弾道が打てるのでアスリートには嬉しいはずです」(堀越プロ)

「カーボンにしてはシンプル。ソールのフェース寄りとバック部の肉厚化で上下の打点のズレに強くなっています」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】表面は塗装されておりカーボンであることがわかりにくいが、裏から見れば一目瞭然
イーゾーンGT(ヨネックス)

イーゾーンGT
「打音はカーボン感がありますが、打感は抜群です。フックフェースでつかまりがよく、450ccとう体積とやや長めのシャフトでヘッドが小さく感じ、操作しやすい印象です。HS40前後でも楽にボールが上がります。芯が広いためミスヒットにも強いですね」(堀越プロ)

「五角形の溝などトウ・ヒール方向にリブを配して剛性をアップしています」(松尾)

【カーボンクラウンの裏面】軽量化な新素材カーボンを使用。ハニカム状の凸部でクラウンの強度を確保している
2018年、飛ばせるドライバーヘッドはカーボン複合という答えが出た。ネックだった打音も改善された。次なる「ヘッド構造革命」は、どのメーカーが、どんなアイデアで出すのだろうか。
週刊GD2018年11月20日号より