「反力打法」でお馴染みのクォン教授が「非常に興味がある」と前々から関心を持っていたのが、「虎さん」ことチェ・ホソン。果たしてあの独特のスウィングは、生体力学的に理に適っているのか。最先端の機器を使用した解剖がスタート。
画像1: 【チェ・ホソン】反力打法のDr.クォンがフィッシャーマンズスウィングを解剖。片足で回ると飛距離が伸びるその仕組み

【左・チェ・ホソン】
25歳でゴルフを始め、1年後にプロテスト合格。昨年カシオワールドオープンで5年ぶりに優勝。「虎さん」の愛称で親しまれ、独特のスウィングは日本のみならず海外でも話題に。
【右・ヤン・フー・クォン】
テキサス女子大教授。バイオメカニクスの世界的権威でプロアマ問わず数多くのスウィングを分析。地面反力など「外力」を利用するスウィングで、自身も300Yを超える飛距離を誇る。

最先端の機械でスウィングを計測

クォン やあ、はじめまして。

虎さん(ホソン) こんにちは。なんですか、ここは⁉

クォン 今日は虎さんのスウィングを計測させてもらおうと思う。

虎さん すごい機材ですね。私は今までスウィングのデータを計測したことはありません。感覚を大事にしているので。

クォン 感覚で作り上げたスウィングなんだね。私はバイオメカニクス(生体力学)という分野を研究しているのだが、フォローで体をスピンさせる虎さんのスウィングには非常に興味がある。ぜひこの機械を使って計測させてもらいたい。

虎さん これで何を測るんですか?

画像: こんなに肌を見せたの奥さんぐらいダヨ

こんなに肌を見せたの奥さんぐらいダヨ

クォン モーションキャプチャによって体の各関節の動きを計測すると同時に、地面に埋め込まれた「フォースプレート」という機械によって、どれだけ地面の力を利用できているかを可視化することができる。

虎さん ……難しいことはわかりませんが、面白そうなのでやりましょう!

クォン では、ノーマルのスウィングと、体をスピンさせるスウィングの2パターンを計測することにしよう。

画像: テスト中のチェ・ホソン

テスト中のチェ・ホソン

テスト方法

VICON(バイコン)と呼ばれるモーションキャプチャシステムを使用し、12台の超高精度カメラで体の動きをデジタルデータ化。さらに地面反力の大きさと向きを計測できる「フォースプレート」と組み合わせることで、地面の力をどれだけ効率よく回転のパワーに転換しているのかを分析できる。

画像: テスト方法

【ノーマルスウィング270Y】「フォローで体を回すと15ヤードは飛距離が伸びる」(虎さん)

【スピンスウィング285Y】「左足の地面反力を利用して強い縦軸の回転を生んでいる」(クォン)

フォローで体でをスピンさせるとHSが2m/s上がった

クォン お疲れさま。たくさん打たせてしまったね。

虎さん 疲れました(笑)。室内だと弾道が見えないので、スウィングのイメージが出にくかったですね。

クォン まさに感覚派だね。でも、データを見ることも大事だよ。感覚だけを頼りにしていると、誤った方向へ進んでしまうこともある。体にどこか痛いところはないかい?

虎さん 雨が降ると腰が痛みます。

クォン 腰が痛くなるのは、思うに下半身が適切に使えていないからじゃないかな。

虎さん 自分としては、柔軟性が低いことが原因じゃないかと思っている。(ゴルフを始めた)25歳の頃は、普通のスウィングだった。でも、歳とともに柔軟性が落ちてきて、それを補うために編み出したのが今のスウィング。骨格上、体を上手く右に回すことができないから、テークバックで腕を体の正面に高く上げるようにしました。

左腰が痛むのは右に乗れていないから

画像: 虎さんはテークバックで右に体重が移動せず、常に左足体重で振っているために、左腰に負担がかかりやすいとクォン教授は指摘

虎さんはテークバックで右に体重が移動せず、常に左足体重で振っているために、左腰に負担がかかりやすいとクォン教授は指摘

クォン なるほど、それでバックスウィングが上半身主導になってしまったんだ。

虎さん 手元とクラブの一体感は強く意識しています。インパクト後に回転するのも、260〜270ヤードぐらいで飛距離が伸び悩んでいたことから、試行錯誤を重ねた結果、自分で編み出しました。これをやると、10〜15ヤードは飛距離が伸びます。

クォン フォローで体を回転させることに関しては、とても理に適っていると思う。

虎さん 私は常に自分にとっての合理性を追求しています。

クォン そういう意味では、虎さんも立派な科学者だね。

虎さんは縦軸回転

虎さん 回転するのは、教授の理論とも合致しているのですか?

クォン 虎さんほど回ってしまうのは一般ゴルファーにはオススメしないがね(笑)。でもスピードを出す方法のひとつとしては正しい。スウィングスピードを上げるのに寄与する「回転力」は、正面から見た「前後軸の回転」と、真俯瞰から見た「縦軸の回転」の2つによって生成される。虎さんの場合は後者を上手く利用しているといえる。

虎さんは縦軸の回転を利用して飛ばしている

画像: スウィングに必要な回転力は、体の正面側から見た「前後軸の回転」と、コマのよう「縦軸の回転」がある。虎さんの「スピンスウィング」は、縦軸の回転を最大限に利用している証だという。

スウィングに必要な回転力は、体の正面側から見た「前後軸の回転」と、コマのよう「縦軸の回転」がある。虎さんの「スピンスウィング」は、縦軸の回転を最大限に利用している証だという。

虎さん 縦軸の回転……。

クォン わかりやすく言うと、頭の上から串を刺し、その串を持ってクルクル回すイメージ。フィギュアのジャンプのような回転のことだね。

虎さん なるほど。

クォン 詳しくは後述するが、データを分析すると、左足の地面反力を利用して実に効率よく縦軸の回転力を生み出していることがわかる。スウィングスピードも、フォローで体を回転させたときは、通常時より2〜3m/sも上がっている。ただし……。

クォン先生の「軸」の説明はこちらをチェック↓

画像: 「スピンスウィングは力学的にも理に適っている」(クォン)

「スピンスウィングは力学的にも理に適っている」(クォン)

虎さん ただし?

クォン 問題は、バックスウィングで重心がほとんど右に動いていないこと。つまり右への体重移動がほとんど行われていない。

虎さん 自分では右足に体重を乗せているつもりでしたが……映像を見るとたしかにそうです。

画像: 「もっと飛距離を伸ばすには……その試行錯誤の結果、この打法を編み出しました」(ホソン)

「もっと飛距離を伸ばすには……その試行錯誤の結果、この打法を編み出しました」(ホソン)

クォン 体に負担が少なく、かつ効率よくスピードを上げるには、自分の筋力といった「内力」ではなく、重力や地面からの反力といった「外力」を利用してあげることが大事。そのためには、右、左、右と足踏みするようなリズムで、しっかりと体重を移動させる必要がある。今のようにずーっと左足に体重が乗ったスウィングだと、左サイドへの負担が大きくなってしまう。

虎さん たしかに左の股関節に痛みが出ることが多いです。

クォン まずはリズムと自然な体重移動。この2つを意識するといいと思う。

虎さん わかりました。でも、1度に2つのことはしない、というのが私のポリシー。多くを求めると、何も得られないことがある。まずは右への体重移動。これだけは意識しようと思います。

ティの長さは10センチ

虎さんのこだわりはティペグにも。アメリカでしか手に入らないというルール上限の4インチ(約101mm)のティを使用し、80mmの高さにして打っている。「キャリーを稼ぎたい雨の日はさらに高くするよ」と虎さん。ドライバーのフェースには、ティの打痕がくっきり。「ドローのときはトウ寄り、フェードのときはヒール寄りに打痕がつくんだ」

クォン教授おすすめドリル

おもりを持ってステップ素振り

アドレスの体勢から、右足に体重を乗せて腕を右に、左足に体重を乗せて腕を左に、と足踏みに合わせておもりを左右に揺らすようにすると、自然な体重移動が身につけられる。

画像: オモリを持って体を動かすと自然な体重移動が覚えられる

オモリを持って体を動かすと自然な体重移動が覚えられる

PHOTO/Tadashi Anezaki

週刊GD2019年6月18日号より

2019年レッスン オブ ザ イヤーを受賞したDr.クォン&吉田洋一郎プロの書籍、好評販売中↓

This article is a sponsored article by
''.