王 青木選手を語るには、まず今年の大活躍から始めなきゃね…。
青木 王さんからそれいわれると本当に恐縮します。王さんの実績に比べたらぼくなど足元にも及ばないですから。
王 そんなことはないよ。今日はお互いに遠慮はやめて、ガンガンしゃべろうよ。はっきりいって僕は満足のいく年ではなかったと思います。チームも優勝できなかったし、僕自身も今一つ乗れなかった。
青木 王さんの場合、タイトルを、特にホームラン王には絶対にならなければファンが承知しないという宿命を背負っていますから。ありがたいことだけれども強い精神力がいると思うんです。
王 それはあなたにもいえると思う。どの世界でも“優勝する”ということはこりゃ大変なことです。その壁を破るには力だけではない。力以上の精神力がいるということですよ。
青木 ぼくはたまたま一年よかった。しかし王さんは10年以上もずっとそれをやり続けているんですから。持続する精神力を僕は大いに見習いたい思っているんです。
王 だからぼくはあたなには来年、これ以上頑張ってとか、期待するとかは言いません。それを言われるとつらい気持ちになると思うんです。一年思いきり頑張った。それ以上にとまわりがいうのは少し残酷な気もするんです。そんなことは当人が百も承知なんですから。ただファンとしては、“望む”きもちがそう言わせるんで、これはありがたいことだと思います。これをバネにしていかねばと思うんですよ。
青木 その通りです。一生懸命、今年以上に頑張る、としか僕の口からは言えないんですね。いくら口で言っても終わった後の成績からその数字をみてくれとしか言えないのが勝負ですから。ただ、今年の成績に恥ずかしくないようにやるだけですよ。
王 ぼくも来年とその心に期している。だからゴルフも今ちょっと控えているんです。ゴルフをやらないと朝少しでも時間が空きますからね。オフはこれまでちょっと忙しすぎました。たしかにゴルフと野球とは共通点はありますが、突き詰めるとやはりゴルフはゴルフ、野球は野球ですからね。
青木 実はこの間、野球やったんですよ。そしたら、低めの球は打てるんですね。しかしいわゆるベルトのあたりの球はものすごく高すぎて打てない。それにものすごく近目にくる感じです。ぼくら遠い球ばかり打っていますから野球の席に立つとこわいですね。下を向く修正が付いているんですね。当たれば飛びますよ。球を打つ筋肉というのはゴルフも野球も同じじゃないでしょうか。
野球は球筋が鋭いことが絶対条件
王 ゴルフは人間の本能を抑えるところがあるでしょう。野球でもバントなどはそうですが、はやる心を抑えるということがゴルフには多いですね。それにあとはっきりいえるのは、球筋が違うということです。野球の場合は、球筋が鋭くなくちゃいけません。いくら大きな当たりでもゆるやかだったら外野手にとられるでしょう。ホームランなら別だが…。ゴルフは球筋がいくらゆるやかでも思ったところへ運べばいい。野球では球筋が鋭いことが絶対条件となります。
青木 基本的にはその通りですが、ゴルフでも天候や地形によってその場に最も合った球筋があるわけです。思ったところに飛ばすためには鋭い球を打つ必要性も出てきます。しかしまあ、野球では本能的に反射神経で処理し、ゴルフはこっちで打ちたいけども、急がば回れ式に処理しなければならないところが多いとは思います。これに近いのはピッチャーじゃないですか。自分で組立て、思うところへ投げる。時には本能を抑えて。死んだ球に生命を与えるという考え方が似ています。それに投手は投げるとき手からギリギリいっぱいまで離さないでしょう。これもゴルフの打ち方の“溜め”と似ています。投手がゴルフの上達が早いというのはここに理由があるんじゃないですか。
王 確かに投手のほうが上手い人が多いですね。野球もゴルフもスウィングの“心”は同じだと思う。ぼくはね、球を日本刀でスパリと斬るような気持ちで打つ。球の芯だけを見ているんですよ。バッターボックスでボールの芯が見えたらこりゃ本物だと思いますね。
青木 ぼくもそうです。ゴルフの球というのは野球の球よりは小さいが、それでも直径4センチちょっとはあるわけです。しかし、その大きさのどこを打ってもいいわけじゃない。打つべきところは一点なんです。フェースの一点で球の一点を打つ。結局、芯と芯との勝負ですね。そのためにはどういうスウィングをすればいいかということです。
王 そのスウィングだけれども青木選手のははたから見て決して美しいとは言えない。しかし、本当にいいスウィングとはその人に合ったスウィングということですからね。
いいスウィングは個性的なものだ
青木 ぼくのスウィングはもう自分だけで作り上げたものですから。
王 それがいいんです。例えば米の野球選手はすごく個性的だ。
青木 ピート・ローズって人はすごくかがみこんだスタイルですね…。
王 そうあなたのスウィングだって理にかなっていると思います。人のまねしてはいかんのです。そりゃ最初は基礎があります。その基礎の上に自分のものを作り上げていくものだ。だからいいスウィングは個性的だといったんです。オレは野球でも同じことで、それに加えて今年のあなたは悪い体調の時はそれなりのゴルフをするようになったと思う。考え方が柔軟になったんじゃない?
青木 ええ、おかげ様で。去年、ある試合で体調が悪くてゴルフやる状態ではなかったんです。それでそこそこやれました。これならばいい体調の時にはもっといいはずだと思ったんです。それにマスターズでは貴重な経験をしました。ゴルフは結局、耐えることだ…さっきの本能を抑える話と重複しますが、その状況に応じて自分をその中に溶け込ませることだと思ったんです。
王 それが“我慢のゴルフ”という言葉になって表れたわけね。
青木 そうです。(しみじみと)ゴルフは我慢だと思います。それにこれは一度王さんに聞きたかったんですけど、スランプね、あの状態を抜け出すのに練習、練習の一本やりだと聞いたんですけど。
スランプ脱出法はまったく違う2人
王 まったくその通りです。ぼくはスランプを脱するには自分を徹底的に痛めるしかないと思う。自分を徹底的に痛めこわし、その中から光明を見いだすしかないという考えです。だから言葉はいらない。たしかに助言はいただきますが、それとても自分で探さなければ完全に納得がいかないから、結局打ちまくるしかありません。
青木 ぼくはまったく逆なんです。何もしないのです。一日でも二日でもゴロリと寝転がっています。悪いときにいくらじたばたしたってどうしようもないと考える性格なんです。そのうち治るだろうと、そういう意味では楽天的ですね。
王 そういう考え方があってもいいし、ぼくだってそうしたこともあります。これはその人それぞれの考え方があるでしょう。ただ、ゴルフの場合は自分一人の問題ですからやりやすいところがありますね。野球は団体のゲームだし、スランプにもいろんな要素が絡んでくる。だからスランプの原因さえどこにあるかわからない場合が多いんです。そういうときにがむしゃらに練習する方が一番いいと思っている。ぼくはこれでスランプを克服してきたしね。
青木 そうですね。ゴルフは実にメンタルなもので、技術より精神的なものが左右する場合が多いんです。だから精神を高揚させていくにはどうすればいいかということを一番最初に考えなければいけないんです。2~3日ゴロゴロしていると、そのあとは猛烈にゴルフに対する意欲がわいてくるんですよ。
結局は我慢だ。ゴルフは80~85%のミスで成り立っているゲーム
王 野球でも精神と肉体が一致しなければいい成績は残せませんが、ゴルフのほうがメンタルな要素は多いでしょうね。たとえば、あなたは我慢のゴルフといって、心は燃えているのに抑えつける。この抑えつけたフラストレーションをどこで吐き出すかということも興味あるな。
青木 たとえばプレー中押し黙っている人がそのフラストレーションを抑えつけたままかというと、そうでもないかもしれないんです。やはりその場、その場で自分の形で発散していくしかないと思っているんです。ぼくの場合は、ゴルフ場を出るともうゴルフのことはきっぱり忘れるようにしているんです。人から聞かれない限り、ゴルフのことは考えません。王さんはどうなんですか?
王 心の底では絶えず野球があるが、それこそ寝る時間まで野球じゃ体が保ちませんよ。寝るといえば睡眠ほど運動選手に大切なものはないですから、防音で光をシャットアウトした部屋を作り、そこで寝るようにしています。
青木 ぼくの気持ちの切り替えは早いほうです。失敗をいつまでもくよくよと考えてもしょうがないでしょう。ゴルフは80~85パーセントのミスで成り立っているゲームですから。本当に満点というショットは、例えば70でまわれば、その内10打ぐらいしかないです。このミスの幅を1パーセントでも少なくするのが大事なんですね。反面、ミスは当然出るものだと最初から認めているから、それが出てもカッカしない。もっとも今だからこういえるので、ちょっとまえまではカッカばかりしていた(笑)。
王 ただしその失敗は次からはしちゃいけないということだよね。そうやって上達し、そして自分が出せる最大限の力で、成績をコンスタントに残していければ最高だね。
青木 王さんはそうやってきたじゃないですか。
王 まだまだとぼくは思っているよ。よく高年齢になってくると集中力が鈍ってくるというが、これは仕方ないとしても努力である程度まで補えると思うんです。
青木 王さんは努力の成果を信じているし、また実際そのとおりにやってきたでしょう。やはり信じることは、信じられるものがあるということはこれに勝るものはないと思うんです。
王 集中力といえばぼくもかなり集中できる方だが…頭が空っぽの状態になることがある。あなたのプレーぶりをみて集中力も相当なものじゃないかと思ったよ。
青木 我慢のゴルフの裏にはコンセントレーションできるから、それに耐えられるということがあるともいますね。ぼくも30の半ばを過ぎた。自分の気持ちをコントロールできる年齢だと思うんです。
王 それくらい自分を第三者的に見れなければもう心配ないと思います。それにあなたのゴルフは今年で1ランク上にいったと思う。だから青木選手と一緒に回る人は威圧を感じちゃうんでしょう。
青木 それは王さんには敵わない。王さんににらまれたら新人投手など小便漏らしちゃいそうじゃないですか(笑)。
王 相撲でよく“格が違う”なんていうけれどこれは自分で作れるものじゃないね。周りがそう見るんだ。あいつには勝てない、そういう風に回りが見ると自分までなにか王者になったような気持ちになっていくものだよ。ニクラスがそうでしょう。自分はちっとも変わらないと思っているのにね。
青木 王さんなどその典型ですよね。威風堂々としてまさに王者そのものだ。しかし話してみると、気さくで、いつまでも同じ付き合いをしてくれる…。
王 偉ぶったところで本当にその人が偉くなるわけではないですからね。人柄までわかることはないはずです。偉ぶってもそのメッキはすぐはがれるものです。またそういう謙虚な気持ちを持っているということだと思うんです。
青木 ぼくもその気持ちでいきたい。そして来年はゴルフ界での王選手を目指して頑張りたいと思います。(了)
(週刊ゴルフダイジェスト昭和54年1月3日号)