【提言/海老原清治 奥田靖己】
えびはらせいじ。千葉生まれ。2002年欧州シニア3勝で賞金王。還暦過ぎて飛距離を伸ばす超ベテラン。2019年日本プロゴールドシニアで3連覇達成
おくだせいき。大阪生まれ。1993年日本オープンなどツアー6勝。シニア2勝。ゴルフのわびさびを追求。2020年も全英シニアオープンマンデー挑戦
プロだってドキドキする
奥田 たとえばコンペで比較的スタート時間が早い組だと、見物人が大勢おりますけど、それが初心者にとって初めてのコンペだったら……。
海老原 そりゃ、ドキドキ指数マックスだ(笑)。
奥田 その場からはよ逃げたい、いう気持ちがドキドキになるんやろな。誰でもそういう経験をして、いつの間にかスタートホールでドキドキせんようになっていく。
海老原 でもね、その場面でフェアウェイに飛ばせたら、その人のスウィングは悪くないと思います。
奥田 だんだんと「みんな、オレの1発目を見ておけよ」と自信が持てるようになる。ええ緊張感いうか「ええドキドキ」になる。だから、普段の練習でも1発目が大事。最初からええ球が出るように緊張しておいたほうがええです。
海老原 練習中、一休みしたあとの1発目も大事ですね。
奥田 休憩したあとの1発目でええ球が出たら、だいぶようなっているいうことですから。
海老原 でも、いっぱい練習して、よいスウィングを作っても、コースでのドキドキで失敗する人のは「悪いドキドキ」だね。
奥田 この前、トップでシャフトが眉毛の前にくるアマチュアと回りまして。トップで「ディアマナ」って書いてあるのが見える人は初めてやったけど、それでドローのものすごいええ球打つんですわ。すごいオーバースウィング。それで当たるのってびっくりする人、たまにいます。
海老原 すごいオーバースウィング。それで当たるのってびっくりする人、たまにいます。
奥田 やっぱりコースに出たらスウィングやない。ハートですわ。
コースに出たら技術よりもハート。だからドキドキ指数の自己可視化が大事になる
海老原 どんな格好で打とうとフェアウェイにいけばいい。
奥田 思わず「ナイスショット」と(笑)。その人のスウィング、直そうと思わなかったです。
海老原 技術は練習場で作ればいいけど、コースに出たらハートです。だから「ドキドキ指数」が大事になる。プロだって優勝争いすれば、やっぱりドキドキしますし。
奥田 勝つ人のドキドキと、負ける人のドキドキは違いますね。
海老原 優勝争いしていて負けちゃう人は、「こうなったらまずいんじゃ」「こうすると失敗するんじゃ」って考える。まだやっていない先のことを心配しています。
奥田 マイナス思考からくるドキドキですな。
「ドキドキ指数には善玉と悪玉がある」(奥田)
海老原 でも勝つプロは「よし! あそこに打とう」という前向きで緊張感あるドキドキです。同じドキドキでもよいのと悪いのがあって、アマチュアだって同じ。
奥田 ドキドキ指数でも、善玉菌と悪玉菌がある。
海老原 ハハハ。善玉と悪玉。オクちゃん、上手いこと言うね。そういえば、僕がこの前、日本プロゴールドで勝ったときは「善玉ドキドキ」、言い換えれば「ワクワク指数」が高いことが多かったな。
海老原プロの日本プロゴールド最終日バックナインの「ドキドキ指数」
「善玉と悪玉が入り乱れ。でも『よーし!』が多かったので勝てました」(海老原)
【10H 善玉4】「よーし、行くしかない!」
トップと3打差。「もう行くしかない」と腹をくくると、前日は右も左もダメと悪いドキドキだったのが、フェアウェイの真ん中しか見えなくなった。こうなると振り切れてよい結果に。2オン2パットのバーディ。
【11H 善玉3】「ある程度まで行けば大丈夫」
ティショットが木の根元。次打も出ず4打目勝負の残り50Y。前2ホールのパットも入っていたのである程度までいけば大丈夫と、よい緊張感は保ったまま打って寄せワンのボギー。「ボギーで上がらなくちゃ」だと体は動きません。
【14H 悪玉1】「ここで2打差はまずいよな」
パットを決めきれず3オン2パットのパー。同組で優勝争いをしていた山本善隆プロはバーディ。「山本プロとここで2打差に開くのはまずいと少し悪いドキドキになってしまった」。次のホールのパットも決めきれず。
【17H 善玉5】「フェアウェイのあそこへ打つ!」
ただただワクワクしていた。ティショットは「フェアウェイのあそこへ」と振ってど真ん中に飛んだ。アップヒルの残り80YをSWで「しっかり振るぞ」と集中して打つ。なんとチップインイーグル!
【18H 善玉3】「よーし、これが最後の勝負だ」
首位に並ぶ。ティショットが狙いより左にいき木の根元。でも落ち込まずに、転がして土手に当ててグリーン手前へ。「ショートする弱気だけは嫌だった」。3オン2パットのボギーもプレーオフへ。
【ティショット 善玉2】「無理に叩かずにきれいに振ろう」
右奥の池が絡む1Wと左のクロスバンカーが絡む3Wで迷う。しかし「3Wできれいに振ろう」と前向きになってナイスショット。
【セカンドショット 悪玉4】「池はヤダな。ライも悪い……」
ライが悪く池越え。「池も嫌だし、最近ライが悪いところからミスが多い」とマイナスに。ハーフトップするも池は越える。
【グリーン手前 悪玉1】「池を越えたからよし。でも寄せないといけない」
グリーン手前カラー。きちんとスウィングしてのハーフトップだったし池も越えたので前向きになるが「どうしても寄せたい」と思ってダフる。
【グリーン 善玉4】「よーし、入れるぞ!」
入れないと終わる2.5mのパット。「絶対入れる。まだあと2ホールあるんだ」と集中力が増してナイスパー。
奥田 よいドキドキの時はどんな感じでプレーしておるんですか?
海老原 神頼みです(笑)。
奥田 神さまお願い、ですか!?
海老原 「自分はただ振るだけだからあとは神さまお願い!」って。
奥田 いや、その「ただ振るだけ」いうのが大きいんですわ。悪いドキドキの人は、先々のことを心配してまともに振れんようになる。お願いは先にしておいて、あとは自分が狙ったところへ振っていく。だからエビさんは強いんやね。
「自分の悪玉が出る弱点。僕は池!」(海老原)
海老原 それに、この試合の「ドキドキ指数」を改めて考えて気づいたけど、僕ってやっぱり池が苦手なんだと……。
奥田 エビさんに弱点があるんですか。しかも池とは(笑)。
海老原 いやいや、僕は池のコース育ちじゃないし、長年の確率でわかる。池絡みはやっぱり今でも悪いドキドキ感があるんです。
ドキドキ指数後編に続く(週刊GD2019年8月6日号より)