ニューモデルの謳い文句として頻繁に使われる「慣性モーメント」。大きければ大きいほど曲がらず飛んでやさしいという印象があるけれど、これって一体何なのだろう? いまさら聞けない疑問にクラブ設計家・松尾好員氏がすべて答えてくれました!

Q.慣性モーメントとは?
A.簡単に言うとモノが回りやすいか、回りにくいかを数値で表したもの。物体が回転運動する際に、その回転軸に対してどれくらいの「慣性(抵抗)」があるかを数値化したもので、数値が大きいということは慣性が大きく、軸回転しにくいということを示しています。英語では「Moment Of Inertia(MOI)」

慣性モーメントで変わるのは「最大」ではなく「平均」飛距離

画像: これが慣性モーメント測定器

これが慣性モーメント測定器

辞書で「慣性モーメント」を引くと、どの辞書にもおおよそ「軸の周りを回転する物体の慣性の大きさ」という定義が載っている。はっきり言って分かりにくい。そして、これがゴルフクラブとどういう関係があるのか? クラブ設計家の松尾好員氏に改めて尋ねると、

「要するに、何かモノが回転する際に、クルクルと回りやすいのか、回りにくいのかを表す数値ということになります。慣性モーメントの値が大きいほどモノは回りにくいということです」と説明してくれた。

では、メーカーのカタログなどでよく目にする「大きな慣性モーメントで曲がらず飛ぶ」というのはどういうからくりなのだろうか?

画像: 慣性モーメントで変わるのは「最大」ではなく「平均」飛距離

「クラブメーカーが慣性モーメントの大きさを謳う場合、それはヘッドの水平方向に対する『周りにくさ』を指しています。ヘッドの重心点を通る地面に対して垂直な線を回転軸とした場合のヘッドの回転しにくさを計測した値のことで、一般的には『ヘッド左右慣性モーメント』と呼ばれます。この値が大きいとフェースの芯を外してヒットしてしまった場合に、その衝撃でフェースの向きが変わってしまう度合いが小さくなるので、左右に打ち出されるミスの幅が狭くなり、なおかつ、ミスヒットによるエネルギー伝達効率の低下が抑えられて、飛距離ロスを最小限に食い止めるということになります」

「通常、芯を10mm外すと飛距離は約10ヤード落ちますが、慣性モーメントを高めればそれを8ヤードにできるというわけです」

プロでさえ毎回芯でボールをとらえることはできないのだから、当然、慣性モーメントは大きいに越したことはないということだ。ここで勘違いしたくないのは、慣性モーメントの大きさによって「最大飛距離」が伸びるわけではないということ。

伸びるのはあくまでも「平均飛距離」だということをまずは頭に入れておきたい。

慣性モーメントが高くなると、ボールはつかまりにくくなる

慣性モーメントを大きくするには、ヘッドを大きく、重くするのが一番効果的なのだそう。ドライバーヘッドの大型化の歴史は、いかにして慣性モーメントを大きくするかというメーカーの工夫の歴史ということができる。

そもそも慣性モーメントの概念は「ピン型パター」や「キャビティアイアン」などにみられる「周辺重量配分」という形でゴルフクラブに導入された。

画像: もともと慣性モーメントという概念は「ピン型パター」などで「周辺重量配分」として導入された

もともと慣性モーメントという概念は「ピン型パター」などで「周辺重量配分」として導入された

当然、各メーカーはドライバーにも応用したいと考えたはずだが、当時は素材がパーシモンだったため、せいぜいバックフェースに金属を埋め込んで重心深度を深くすることくらいが精一杯だったのだ。

画像: パーシモンは重くなってしまうため大型化が難しかったが、金属のプレートで重心深度を深くするなど工夫されていた

パーシモンは重くなってしまうため大型化が難しかったが、金属のプレートで重心深度を深くするなど工夫されていた

それがメタルヘッドになり、さらに比重が軽く強度が高いチタンに移行、製造技術の進歩とともにヘッドが大型化していき、慣性モーメントも高くなっていったがその道のりは決して平たんではなかった。

画像: メタルヘッドの登場でヘッドの大型化が本格化

メタルヘッドの登場でヘッドの大型化が本格化

「ヘッドの体積が460ccに到達するまでの時代は、各メーカーがどれだけ大きいヘッドを作れるか、限界に挑戦していた時代と言えます。しかし、この時代はヘッドの大型化と同時に長尺化の時代でもありました。ヘッドを大きくしても、重くなってしまうと振り切れなくなってしまうので、ヘッドの重量を増やすわけにはいかず、むしろ軽くすることが求められていました。慣性モーメントを上げるには重くしたいが、長尺化に対応するためには軽くしないければいけないという状況だったのです」

「そこで異素材(例えばカーボン)を併用したハイブリッドモデルや、部材を極限まで薄く加工するなどの技術を駆使したモデルが多く世にでました。画期的だったのは史上最大慣性モーメントを謳ったナイキの『サスクワッチ』シリーズの四角いヘッド『SUMO』です。見た目のインパクトもあり、四角いヘッドを他メーカーが追随するなど、ブームになりましたが、このモデルを境に単に高慣性モーメントを追及する流れは終焉を迎えたと言えます」

画像: 四角形ヘッドの「SQ SUMO」(左)は驚異的な数値を実現したが、それはボールのつかまりにくさも抱える諸刃の剣だった

四角形ヘッドの「SQ SUMO」(左)は驚異的な数値を実現したが、それはボールのつかまりにくさも抱える諸刃の剣だった

「というのは、ヘッドを大型化してヘッド左右の慣性モーメントを上げていくと、必然的にシャフトの中心を回転軸とした『ネック軸回り慣性モーメント』の値も上がってしまい、フェースを閉じるのに手こずってしまう、つまりはボールをつかまえるのに苦労するドライバーになることがはっきりしたからです。実際『SUMO』は私自身も含め、当時試打した人のボールがことごとく右に飛んでいたのを記憶しています」

「『SUMO』の慣性モーメントはルールの上限値に近いものでしたが、現在のドライバーの慣性モーメントは平均で4200gcm²と一時に比べるとかなり抑え気味です」

現在は各メーカーとも、ヘッドの製造技術の向上(同体積でもより軽く作れる)によって生まれた余剰重量を利用して周辺重量配分を進め、一定の高慣性モーメントを保ちつつ、打ち出しの初期条件(初速・打ち出し角・スピン量)の適正化に取り組んでいる。

画像: 写真はローグ(キャロウェイ) ヘッドが後方に大きく拡大され、見た目にも低重心。カーボンクラウンの面積を大幅に拡大することで多くの余剰重量を生み出し、周辺部に配置している

写真はローグ(キャロウェイ) ヘッドが後方に大きく拡大され、見た目にも低重心。カーボンクラウンの面積を大幅に拡大することで多くの余剰重量を生み出し、周辺部に配置している

今では当たり前になったウェートによる重心位置調節機能も、活用できる余剰重量が大きくなったことによる副産物だ。

ドライバーの慣性モーメントの歴史は、今、まさに成熟期を迎え、ゴルファーが史上最もその恩恵にあずかれる時代に突入したといっても言い過ぎではないだろう。

週刊GDより

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画像: golfdigest-play.jp
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