ゴルファーを悩ませ続けてきた、いまわしき球「スライス」。直そうとしてもうまくいかず、直ったと思ってもまた顔を出す。だが、スライスの原因と仕組みを正しく知れば、克服できるのではないか。日本のゴルフが大衆化して60年、スライス格闘60年史。

62年前のあの日、スライスとの長い長い闘いが始まった

画像: 1957年第5回カナダカップを制した中村寅吉(右)と小野光一(左)

1957年第5回カナダカップを制した中村寅吉(右)と小野光一(左)

1957年10月27日、霞ヶ関CCで行われた第5回カナダカップで日本の中村寅吉、小野光一ペアが団体優勝、中村は個人でも優勝を果たす。この歴史的快挙はテレビで初めて全国に生中継され、日本中が歓喜の渦に包まれた。そしてゴルフは民衆に広く知れ渡り、第一次ゴルフブームが到来。コースも練習場も急激に増えていったが、初めてクラブを握った人々のボールは右に曲がるばかり……。それはスライスとの長い戦いがはじまりだった。

60年前の1959年、都内練習場のランドマーク「芝ゴルフ場」オープン

カナダカップ前年の1956年日本のゴルフ人口は20万人、ゴルフ場数は74にすぎなかった。それが、カナダカップ後にはゴルフ人口は40万人に倍増し、ゴルフ場数は100を超える。10年後には600コースに、15年後には1000コースを超えた。ゴルフ人口もうなぎにのぼりに増え続けたが、その数に比例してスライサーは生まれていた。「日本人ゴルファーの8割がスライサー」だとまことしやかに言われ、スライスに悩むゴルファーは練習場で球を打ち、テレビのレッスン番組を見てうなずき、レッスン書を読み漁った。

そして、東京タワーの足元、港区に「芝ゴルフ場」がオープン。お昼休みと会社帰り、サラリーマンが集まった。

画像: 1959年芝ゴルフ場開場。都心にありながら広大な敷地に3階建て。バブル期には1日1500人が訪れた

1959年芝ゴルフ場開場。都心にありながら広大な敷地に3階建て。バブル期には1日1500人が訪れた

ゴルファーが増え、「スライサー」も激増

画像: 1952年開場の東京多摩川ゴルフ練習場。スライスで右ネットを越えて川へ打ち込むゴルファーが後をたたず、昔は専門の回収業者も存在した

1952年開場の東京多摩川ゴルフ練習場。スライスで右ネットを越えて川へ打ち込むゴルファーが後をたたず、昔は専門の回収業者も存在した

画像: ゴルファーが増え、「スライサー」も激増

運よくスライスから脱却できたゴルファーもいたが、多くが悩みつづけることとなった。その違いが、「なぜボールが右に曲がるのか」を知るか知らないかにあった。いまも当時も変わらないスライスの原因。改めて坂詰和久プロコーチに話をきいた。

【スライスの原因】
油断すると開こうとするクラブがいけない

── なぜ、われわれゴルファーの大半はスライスに悩まされてしまうのでしょう?

坂詰 最大の原因はクラブの構造にあります。基本的にゴルフクラブというのは、フェースが開きやすくできているのです。フェースが開いた状態でインパクトすれば、ボールには右回転のスピンがかかります。だから多くのゴルファーがスライスに悩んでしまうわけです。

── フェースが開きやすい構造というのは?

坂詰 野球のバットやテニスのラケットなどは握る部分の軸線上に重心があります。それに対してゴルフクラブはヘッドの重心がシャフトの軸線からズレた位置にあるわけです。ここに問題があります。ゴルフクラブというのは構造的に「ヘッドの中心がシャフトの軸線上に並ぼうとする」性質を持っているので、スウィング中にフェースは自然と開こうとしてしまうのです。

── 開いたフェースをインパクトまでにスクェアに戻さないかぎり、フェースが開いた状態でインパクトを迎え、右回転のかかったボールになってしまうんですね。

画像: 【スライスの原因】 油断すると開こうとするクラブがいけない

スウィング中にフェースが開くと、開いたままインパクトを迎えやすい

画像: トップではフェースが45~60度空を向いた状態がベスト。トウが地面を指しているのはフェースが開いている証拠

トップではフェースが45~60度空を向いた状態がベスト。トウが地面を指しているのはフェースが開いている証拠

画像: ダウンではフェースがやや地面に向き、前傾した体と平行な状態がスクェア。フェースが体の正面もしくは空を向いていたら開いている

ダウンではフェースがやや地面に向き、前傾した体と平行な状態がスクェア。フェースが体の正面もしくは空を向いていたら開いている

スウィングの途中でフェースが開くと、どうしても開いたままインパクトを迎えやすい。スライスから脱出するためにはポジションごとのスクェアなフェース向きを知り、それに近づけることが大切。

クラブでスライスを防げ。さまざまに工夫されたモデルが続々登場

スライスの原因はフェースの開きだと分かっているのなら、フェースが開かないようなクラブは作れないだろうか? もちろん誰もが考えてきたが、クラブのデザインはR&Aの規則で細部まで規制されている。そのルール内でスライサーを救おうとしたクラブが生まれ、当然のごとく人気を博してきた。最新モデルにはその工夫が生かされている

1995年 フックフェースでフェースを開きにくく

画像: セイコーSヤードT.301 極端なフックフェースだが「スライスしないで真っすぐ飛ぶ」と口コミで大人気に

セイコーSヤードT.301
極端なフックフェースだが「スライスしないで真っすぐ飛ぶ」と口コミで大人気に

2014年 ウェートカートリッジで重心距離を短く

画像: テーラーメイド「r7クアッド」 4カ所のウェートカートリッジを入れ替えることで重心位置が調整可能に。ヒール側を重くすればヘッドが返りやすくなった

テーラーメイド「r7クアッド」
4カ所のウェートカートリッジを入れ替えることで重心位置が調整可能に。ヒール側を重くすればヘッドが返りやすくなった

2009年 フェース角が変えられる調整機能付スリーブ登場

画像: テーラーメイド「R9」 シャフトの挿し方を変えることでロフト、フェース角、ライ角が変えられる調整機能ドライバーの先駆け

テーラーメイド「R9」
シャフトの挿し方を変えることでロフト、フェース角、ライ角が変えられる調整機能ドライバーの先駆け

現在 各種調整機能は標準装備

画像: テーラーメイド「M5」 スリーブだけでなくウェートをスライドさせて重心距離、重心深度を変えられるモデルが主流に

テーラーメイド「M5」
スリーブだけでなくウェートをスライドさせて重心距離、重心深度を変えられるモデルが主流に

【スライス脱出法】
フェースをスクェアにキープして、もうスライサーとは呼ばせない! 

ヘッドの大きな最近のクラブは、スウィング中にフェースが開くとスクェアに戻しづらいという特徴がある。そこで、まずはスウィング中にフェースをスクェアにキープする感覚を身につけることが大切。

大事なのは左腕の使い方。左手に下敷きのような板状のものを持ってスウィングしてみましょう。アドレスとインパクトではいたがスクェアになる(面が目標を向く)ように。(坂詰プロ)

画像: テークバックとフォローでは面が45度空を、アドレスとインパクトでは目標を向くように

テークバックとフォローでは面が45度空を、アドレスとインパクトでは目標を向くように

バックスウィングとフォローで腕が地面と平行になったときには面が45度空を向くように。

バックスウィングでは左腕が左に回旋する動き、ダウンからフォローでは左腕が左に回旋する動きを感じ取ってください。

実際に球を打つときは右手でクラブを下ろすのではなく、ヘッドの重さに任さて、左腕を左に回旋させながら真下に落とすことが大切です。ダウンからインパクトにかけて手元が体に近いところを通るようになれば、フェースは自然にターンして、スライスを矯正することができるでしょう。

スライスの歴史、メカニズム、クラブ、練習法……スライサー撲滅の日はきっと近い!?(了)

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