現在、日本で食されている鴨肉は、明治時代末期に食用として交配されたアイガモか、野生のマガモのもの。各地で飼育されるアイガモは、1年を通して食べられるのに対し、渡り鳥であるマガモは冬しか獲ることができないこともあり、かつては冬を知らせる食材として庶民たちに親しまれた。今回はそんな鴨を使った料理の元祖を巡った。

ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです

江戸から続く元祖の味を求めて

現在、国内で広く流通しているのはアイガモ。なかでも北京種のアヒルをイギリスで品種改良したチェバレー種は、脂の甘みとコクが強く、国内に流通するアイガモの大半を占める。

飼育法や餌により多少の違いはあるが、総じて肉を取る目的で飼育されたアイガモは臭みがなく、身が柔らかいのに対し、野生のマガモは野趣あふれる香りを持ち、歯ごたえもしっかりしている。

アイガモが全盛の現在も、鴨鍋や鴨南ばんにネギが添えられるのは、マガモに必須だった匂い消しの名残だろう。

ところで、今回のテーマである鴨南ばんは江戸時代中期に生まれたという記述が、資料の端々に残されている。それらによると、当時の江戸で流行していたぶっかけそばに鴨肉と縦に割いたネギをのせ、現在の鴨南ばんの形にしたのは、日本橋馬喰町にあった蕎麦屋「笹屋」だそう。

そんな中、元祖鴨南ばんを掲げる店を神奈川県の湘南で発見。「元祖は東京では…」というわずかな引っかかりとともに店を訪れてみることにした。

あっさり出汁に赤身の旨味。思わず人に教えたくなる

画像: 「治兵衛の鴨南ばん」初代が出していたレシピを再現した150年の歴史を感じる味

「治兵衛の鴨南ばん」初代が出していたレシピを再現した150年の歴史を感じる味

「6代目の時代までお店は馬喰町にありました。38年前に先代が暖簾分けをした際、ご縁のあったここ湘南台へ店を構えたのです」とは"元祖鴨南ばん本家"の8代目店主・小林敦広さん。

開店当初は馬喰町の本家とともに営業していたが、本家が暖簾を下ろしたことから、初代の味を受け継ぐ唯一の店となったわけだ。

「初代である笹屋治兵衛が作っていた鴨南ばんは、マガモ肉3枚とたたき骨2本に、短冊状に切った長ネギを入れ、"鴨"と書かれた漆塗りの蓋をして出していました。看板メニューである"治兵衛の鴨南ばん"は当時のスタイルで作らせていただいています」と店主。

画像: 蕎麦のお供に"鴨わさ"もどうぞ

蕎麦のお供に"鴨わさ"もどうぞ

「1羽余さず鴨を使う」「肉だけでなくガラから出汁をとる」など、作り方も再現しているそう。鴨南ばんの起源の味やいかに。早速たのんでみることに。

10分ほどして到着。蓋を開けると湯気に乗って鴨の香りが漂う。柚子の香りもまた心地よい。

出汁をひと口…普段口にしている味との違いに驚く。一般的に鴨南ばんと言えば、出汁を覆うくらいに広がる鴨の脂と強めのカエシが特徴だが、治兵衛の鴨南ばんは拍子抜けするほどあっさりしているのに、不思議と深みを持つやさしい味わい。

柑橘の香りが鼻を抜け、蕎麦に手を出す前にあやうく飲み干してしまいそうになるほどだ。

毎日店の奥で打つという二八の蕎麦をすすると、少しゆるめの麺にツユが染み、これまた止まらない。噛むほどに味わいが増す鴨肉は、赤身肉の旨さをあらためて教えてくれ、ネギの甘みもたまらない。

あっという間に丼の底は、鴨の骨が2本だけ。江戸っ子たちはとんでもなく旨いものを食べていたという事実に、なぜか嫉妬…。

画像: 当時の旨い店が紹介される、いわば江戸版ミシュランに治兵衛の店も掲載されていた。鴨が渡ってこない夏場は穴子などを出していたようだ

当時の旨い店が紹介される、いわば江戸版ミシュランに治兵衛の店も掲載されていた。鴨が渡ってこない夏場は穴子などを出していたようだ

元祖鴨南ばん 本家:
神奈川県藤沢市湘南台2-22-17
TEL.0466-45-5033
営業時間:11:00~20:30
木曜定休
公式ホームページ

月刊GD2019年12月号より

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