1980年代に放映された伊丹十三監督のヒット映画「タンポポ」。これをきっかけに世に広まった"ふわとろ系"オムライス。多くの店が生まれては消えたが、今でも根強い人気を誇りつづけるのが日本橋「たいめいけん」と銀座「喫茶You」だ。感動的でさえある"ふわとろ"ぶりに迫った

ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです

東京の両雄を紹介する前に、まずはオムライスの歴史

大人から子供まで広く愛されるオムライス。その発祥は諸説あるが、明治時代の終わり頃、銀座の「煉瓦亭」で従業員への賄いとして作られた〝東京説〞と、大正末期、心斎橋にある「北極星」で胃腸が弱い客に出されたという〝大阪説〞の二説がある。

前者は片手で簡単に食べられるように、お米を卵に混ぜて焼いた、いわばご飯入りオムレツ、後者はマッシュルームや玉ねぎ、トマトケチャップをお米と一緒に炒めたものを卵に包んだ、今どきの「オムライス」だ。

時代は移り、昭和5年。日本橋三越でオムライス入りの〝お子様ランチ〞が誕生し、人気を博したことを受け、一気に世の中へ浸透することになる。

そこから30年ほど経ち、いわゆる〝ふわとろ系オムライス〞が自然発生的に生まれることになるが、これを世に広め加速させたのが、伊丹十三監督のヒット映画「タンポポ」だ。

売れないラーメン屋が再起を目指すコメディ映画だが、作中、浮浪者に扮した〝のっぽさん〞こと高見映が、子どもにオムライスを作るシーンがある。

ケチャップライスの上にきめ細やかなオムレツが乗り、その中央にスッとナイフを入れると、トロトロの卵がごはんの上に広がって…うぅ、たまりません…。

オムライス好きからすれば、衝撃的なこの1シーンが、100年以上のオムライス界の歴史を動かしたことになる。

スッとナイフを入れると、黄金の中身があふれ出す

今回、紹介するのは、「タンポポ」後、雨後の筍のように増える〝ふわとろ系〞の中で、圧倒的な存在感を放ち続ける2皿。日本橋の寵児と銀座の雄、トロトロな戦いの火ぶたが切って落とされた。

画像: たいめいけんのオムライス

たいめいけんのオムライス

流行のきっかけとなった日本橋の〝たいめいけん〞。余熱で卵が固まってしまわぬよう、はやる気持ちを抑え、スッとナイフを入れると、半熟卵があふれ出し、チキンライスにとろけ出す。

「昔からある味や香りを守りつつ時代ごとに素材や出汁をちょっとずつ変化させているんですよ」とは3代目の茂出木浩司さん。テレビや雑誌に多く出演している名シェフだ。

画像: ナイフを入れれば半熟卵があふれだす

ナイフを入れれば半熟卵があふれだす

スプーンでひとすくいし、口に入れると…バターの香りと卵のコクが広がり、チキンやマッシュルームがゴロゴロ入ったチキンライスが存在感を示す。骨太だが上品な味わいであっという間に完食、いや、むしろ一気に飲み干したと言うか…。

画像: レトロモダンなコースターもいい味、出してます

レトロモダンなコースターもいい味、出してます

たいめいけん
1階はカジュアル、2階は本格的な洋食が楽しめる。
中央区日本橋1-12-10
℡。03-3271-2465
11:00~ 21:00(11:00 ~15:00、17:00~21:00)
定休日:1Fは1/1、1/2、2Fは日祭日

プルンプルンと揺れるオムライス「喫茶You」

映画が生んだ新定番を日本橋で楽しんだ後は、歌舞伎座から一歩奥に入った場所にあるノスタルジックな喫茶店〝YOU〞へ。

店内を見渡すと、ほとんどの客がオムライスを食べている。若い女性や外国人観光客が目立つが、それもそのはず。SNSでオムライスの皿を揺らした〝プルプル動画〞が拡散し、客層がガラリと変わったという。

画像: 喫茶Youのオムライス

喫茶Youのオムライス

画像: ふわふわプルンプルンの食感がやみつきに

ふわふわプルンプルンの食感がやみつきに

テーブルに置かれたオムライスを見ると、わずかな揺れでプルンプルン。ず〜っと見ていたい気持ちを抑え、口に入れると、生クリームとマーガリンの濃厚だが爽やかな風味が広がる。

「オムレツの味を引き立てるため敢えてシンプルにした」と言うケチャップライスはあっさりしていて、お米の粒が立っている。細かく刻んだベーコンと玉ねぎが混ざり合い、食感の変化も楽しい。

喫茶You
創業40年以上の歴史を持つ老舗。ナポリタンやサンドウィッチなど、喫茶店の王道メニューも豊富。プラス50円すれば、いずれもテイクアウト可能
中央区銀座 4-13-17
TEL.03-6226-0482
11:00~ 21:00
休・年末年始

軍配なんてどうでもよくなってきた。年齢や性別、国籍だって問わず「はぁ〜」と骨抜き。癒し効果たっぷりの2皿、東京にあり!

月刊GD2019年5月号より

This article is a sponsored article by
''.