ジャーマンステンレス製パターの市場価格は、なんと数十万~400万円オーバー
憧れのプロと同じクラブを使ってみたくても、ドライバーやアイアンは同じスペックでは打ちこなすのは困難。でもパターは違います。
石川遼のエースパター「オデッセイ ブラックシリーズ iX#9」や渋野日向子の「ピン シグマ2 アンサー」など、私たちアマチュアだって、彼らとまったく同じクラブを使うことができるのです。
でも、2019年のマスターズで劇的な優勝を飾り、ZOZO選手権でPGAツアータイ記録の82勝目を挙げた、タイガー・ウッズが使用している「タイトリスト ニューポート2 GSSプロト」となると話が違ってきます。
ニューポート2はスコッティ・キャメロンの定番モデルであり、多少デザインが違うとはいえ、タイガーと同形状のクラブを手にするのは難しくありません。問題は使われている素材です。
私たちが、ゴルフショップで見かけるスコッティ・キャメロンのパターに使われているのは、多くがSUS303と呼ばれるステンレス。SSSと刻印されているモデルもあり、ご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。
でもこれは、タイガーのエースパターに使われているGSS(ジャーマンステンレススチール)とは、まったく別物。
GSSが何かは後述しますが、GSSを使ったパターは非常に珍しく、スコッティ・キャメロンやピレッティなどほんの数社が製造していますが、その価格は数十万~400万円ほど。
もはやコレクションの対象に近く、コースで気軽に使うには相当な勇気が必要です。
同じステンレス製でありながら、一桁ではきかない価格差。その違いはいったい何なのでしょう。
ステンレスとは「ステン・レス」さびにくい鋼鉄のこと
そもそも、ステンレス(SUS)とは、"Staine less steel"のことで、"Stein less"=「さびにくい」"Steel"「鋼鉄」。つまり「錆びにくい鋼鉄」のこと。
おおざっぱにいうと、ステンレスとは主成分の鉄にクロムを12%以上添加した高合金鋼(特殊鋼)のことで、クロムを加えることで表面に酸化膜ができ、鉄よりも錆びにくくなっています。
ちなみにアイアンでよく使われる軟鉄もその名の通り"鉄"ですが、
軟鉄は成分の99%が鉄で残り僅かが炭酸マンガン等…。
ステンレスは成分の75%が鉄で残りがニッケルクロム等となっています。
鉄の含有量が多い軟鉄はその名の通り打感が軟らかく、含有量の少ないステンレスは硬くなります。
ではステンレス製であればどれも同じかというと、ことはもう少し複雑です。
ジャーマンステンレスってなんだ?
現在、多くのパターに使われているステンレスはSUS304とSUS303です。
ホームセンターなどで切り売りされているステンレスの丸棒の多くはSUS304で、耐食性に優れているので腐食(錆び)が問題になる環境に適しています。
しかし、SUS304は削った面が硬化するという特性があるため、鋳造(溶かしたステンレスを型に流し込んで成型)には適しても、削り出しには適していません。
一方SUS303は、SUS304に硫黄やリンを添加して削りやすくしたもので、耐食性は304に劣りますが、塊から削り出しやすくフェース面の細かなミーリングなども施しやすい金属です。
キャメロンに代表される一体成型の削り出しを売りにしたパターの多くがSUS303を使っているのはこのためです。
ジャーマンステンレスもSUS303なのですが、問題は、このSUS(Steel Use Stainless)の部分。
日本ではJIS規格によって鋼種規格が定められていますが、アメリアではANSI、ドイツではDINと呼ばれる規格を採用しています。
これらの規格ごとにステンレス鋼に含まれる鉄分、炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄、ニッケルなどの割合が微妙に違うことから、打感や打音が違ってくると言われているのです。
ジャーマンステンレスは打感がいい?
ドイツ規格ジャーマンステンレスの打感は「硬くて軟らかい」プロ好み!
ジャーマンステンレスはその名の通り、ドイツ規格のステンレス。クロムの含有量が多く、硫黄成分が少ないため、日本やアメリカ産のSUS303よりも硬めになっているのだそう。
そのため、打感は硬く感じますが、ボールが吸い付くような感覚もあり、トッププロたちの言葉を借りると、その打感は「ソリッドでマイルド」とのこと。
「硬くて軟らかい」
何とも不思議な言い回しですが、その適度な硬さが、タイガー・ウッズをはじめ、PGAツアーの高速グリーンでプレーする選手たちに好まれる由縁なのかもしれません。
ジャーマンステンレス製パターを選んだトッププロ
リッキー・ファウラー
ニューポート2タイムレスGSS(スコッティ・キャメロン)
松山英樹
ニューポート2タイムレスGSS(スコッティ・キャメロン)
藤田寛之
スコッティ・キャメロン プロトタイプ
他にも、
ゲーリー・ウッドランド「ニューポート プロトタイプ」
アーニー・エルス「 Ca&Coニューポート2 GSS」
セルヒオ・ガルシア「 ニューポート2 GSS」
アダム・スコット「ニューポート2 GSSスラントネック」
宮里優作「Circa GSS」
など、多くのトッププロがスコッティ・キャメロンのジャーマンステンレス製パターを手にしてきました。
いつかは、タイガーをはじめトッププロと同じ打感を体験してみたいと思うゴルファーは多いのではないでしょうか。
非常に高価なパターなのでなかなか手にする機会がないのが、一番の問題なのではありますが……。