ゴルフ場設計者としては超一流。23歳のときから50年近くコース設計に賭けてきた井上誠一。その情熱から生まれたコースは、いま「名コース」として評価を受けている。そこで、井上式のコース造りのポイント、苦労を聞いてみたら、意外な意見がでてきた。インタビュアーは、当時のプロ野球ユース司会者の佐々木信也氏(月刊ゴルフダイジェスト1979年4月号に掲載)。1981年に逝去された井上誠一、生前の生声と本音が聞こえる貴重なインタビューです。

井上誠一へ佐々木信也がインタビュー

──(佐々木) 井上さんにお目にかかるというので、きのうの晩、ゴルフのガイドブックを見て調べてきたんです。まあ、たくさんあるんで、びっくりしました。

井上 たくさんないですよ、数は。

── いやいや、「33」(1979年当時)ですか。

井上 そうですか私、自分で勘定したことがないものですから。しかし、仕事のキャリアの割にすれば、本当は少ないんです。

── しかし、正直言いまして、私の好きなコースがたくさんあるんです。それでびっくりしたんですがね。超一流ばっかり。

井上 とんでもない。

── 具体的に言わせていただきますと、私が好きなのは鷹之台に大洗、それから東京よみうりがあって、龍ヶ崎があります。それに那須が好きですし、戸塚も好きです。

画像: 上空から見た大洗ゴルフ倶楽部

上空から見た大洗ゴルフ倶楽部

井上 恐れ入ります。

── 調べたところですと、昭和6年、霞ヶ関が手始めですか。

井上 そうです。まだ本当の小僧っ子でしたから、あれは勉強させていただいたようなもので。

── いかがですか、33コースも設計なさって、その中でいちばん気に入っているコース、会心の作は。

井上 会心の作というのは自分ではちょっとありませんけどね。結局、ゴルフコースはその場所の立地条件に左右されてしまいますから、立地条件のいいところにやらせてもらったのが、結果的にいいコースになっているといって差し支えないと思うんです。そういう意味から言いますと、大洗とか、
龍ヶ崎がいいんじゃないでしょうかね。まだ知られていませんけれども、名古屋の南山CCが、私はわりあい気に入っているんです。

画像: 龍ヶ崎カントリー倶楽部 10番ホール(419Y・P4)

龍ヶ崎カントリー倶楽部 10番ホール(419Y・P4)

── 私は井上さんが設計された33コースのうち、プレーしているのが「21」あるんです。でも、
南山はまだやっていません。

井上 地形のわりに土地がゆったりしていますので、あまり無理しないで造れたものだから、プレーヤーも気分がいいと思います。人によって受け取り方はさまざまですがね。

── 個人的な趣味では、白杭がチラチラ目について仕方がないのは、あまり好きじゃないんです。

井上 白杭もあまり目立ちません。それでもビギナーには無理かもしれません。

── むずかしいんですか。

井上 少し緩めてあるというか、自然のいろんなハザードを強く利用してつくったものですから、ティからいきなり転がっていくようなゴルファーでは、ゴルファーとは言えないけれど、そういう人には無理なんです。ですけれども、まともにプレーできる方は非常に面白いと思います。したがって、好き嫌いが両極端です。

画像: 南山カントリークラブ 16番ホール(498Y・P5) 通称「南山ガーデン」

南山カントリークラブ 16番ホール(498Y・P5) 通称「南山ガーデン」

── どちらかというなら私も一度行って、嫌いになって帰ってきたりして(笑)

井上 その場合は南山コースじゃなくて、「さんざんコースだ」という声が出るんじゃないですか(笑)

「安く造れ」主義のところでは設計したくない

画像: 南山カントリークラブ 9番ホール(436Y・P4)通称「ああ無情」

南山カントリークラブ 9番ホール(436Y・P4)通称「ああ無情」

── コースを設計なさるときは、その近所に泊まり込んでしまうんですか。

井上 このごろは足の便が良くなりましたからね。

── 南山を造られたときは、どのぐらい名古屋に滞在なさったんですか。

井上 滞在って…。ちょっと専門的になりますけれども、ゴルフコースをこしらえるときには、ブルドーザーなんかが入って現場の仕事が着工する以前の仕事にわりあい時間がかかるんです。それで、着工してしまいますと、あとは図面を現場に流してやればいい。それから形ができたものを見にいけばいいということで、月に1回、あるいは2カ月に3回程度行けばいいんです。

── ということは、ブルドーザーが入るまでが大事ということになりますね。つまり、地形を見て歩くのが大切なんですか。

井上 まあ骨組みですね。

── 現地を詳しくごらんになって、それと地図をみながら想を練るわけですね。

井上 プランニングとデザイニングというのは別なんです。プランニングがしっかりしていないと、いくらデザインが良くてもいいコースにならない。プランニングの段階で練られるだけ練って、
クラブハウスの向きとか、クラブハウスの使い方とコースとの結びつきとか、あるいは進入道路のとり方とか、駐車場の位置とか、収容台数とか。

画像: 南山カントリークラブ造成時の井上誠一(写真中央)

南山カントリークラブ造成時の井上誠一(写真中央)

── そこまでやるんですか。

井上 もちろん、そこまでやらないと気が済まないものですから。

── 私はコースだけかと思っていましたが…。

井上 クラブハウスのデザインは、素人だからやりませんけれども、俗に動線といいますが、つまり玄関がどっち側にきたほうがいいか、ロッカーからの出口はどこにするか、1番、9番あるいは10番、18番の結びつきの線が無理なくいくか、あるいは駐車場から玄関へはどう行くとか。そういう配置を建築屋さんのほうでやりやすいように、コースないしは入り口の道路とか、練習場だとか駐車場だとか、あるいはロッジとか、付帯設備が収まるように骨組みをしっかりこしらえないとまずい。そうでないといいコースはできません。

── コースによっては18番が終わってからさんざんコンクリートの上を歩かされて、それから玄関から入ったりするところもありますね。あれはいやですね。最初にコースの予定地を見にいって、
どうやろうかと構想を練る井上式のやり方は?

井上 クラブハウスの位置や向きがちょっと変わっただけでもレイアウト全体が変わりますから、そこで時間がかかっちゃうわけです。

── クラブハウスの位置から、まず決めるんですか。

井上 それはひと口には言えないんですけれども、クラブハウスの位置から決めるときもあるし、極端なことを申し上げれば、ここにこういうホールをとったら非常にいいな、という場面があるでしょう。

画像: 南山カントリークラブ設計時のスケッチ

南山カントリークラブ設計時のスケッチ

── 地形から考えて…。

井上 地形とか、いろんなファクターがありますけれども、そうなると、何とかしてそれを生かしたいと思ってしまう。どっちが主になるか、従になるかというのは、テンビンにかけてみましてね。ただそのとき、安くつくれという考え方の施主の仕事はやりたくないから、断っちゃうんです。やはり、何もかもまかせるからやってくれ、と言われれば気分がいいから、いいコースがおのずとできる。

── 井上さんなら、いまでもたくさん頼まれるんじゃないですか。

井上 いえ、もう歳ですからね。仕事もできません。この不景気ですから、計画はいろいろあるでしょうけど、なかなか動かないですね。それと規制が厳しくなりましたし…。

東京よみうりは私の意図したコースではない

── テレビや雑誌を読むゴルフファンがだれでも知っているコース、ホールといいますと、東京よみうりの18番は大変有名ですね。例のパー3ですが…。

画像: 東京よみうり18番ホール(224ヤード、パー3)プロでも難しい日本シリーズの名物ホール。後ろに見えるのは1987年に立て直された現在のクラブハウス

東京よみうり18番ホール(224ヤード、パー3)プロでも難しい日本シリーズの名物ホール。後ろに見えるのは1987年に立て直された現在のクラブハウス

井上 あれはテレビではいいかもしれないけど、コースとしては、私がそういうことを言うのはよくないんですが、決して満足できない。

── どうしてですか。

井上 プライベートな話になりますけど、いまのよみうりの使い方は、アウトとインが逆なんです。いま18番になっているのが、9番のつもりでこしらえたんです。それと私のプランでは、いま駐車場になっているところを練習場にして、クラブハウスはいま広場みたいになっているところに置き、その空き地を買ってもらうつもりだったんです。ところが正力(松太郎)さんは、ゴルフのことは全然ご存じない。しかも、取り巻きにいろいろ言われて、いちばん肝心なところの買収があと回しになり、それで現在の位置関係になっちゃった。

── しかし、あのクラブハウス(現存せず)はユニークというか…。

井上 私は気に入らないんです。

── 私も最初びっくりして、これは面白いと思うだけで、気に入りませんね。

井上 決してクラブハウス向きでもないし…。あれ、バックミンスター・フーラーという建築家がアストロ(フーラー)ドームの構想でやったわけでしょう。どうしても、それを使いたいというのが正力さんの考えだったんです。使うなら使うでいいけども、そんならちゃんとした場所につくってもらいたかった。

画像: 斬新だったドーム型のクラブハウス

斬新だったドーム型のクラブハウス

── あれだけ広いから冷暖房効果は悪いですし、ドームの中にもうひとつ建物を建てて暖房したり、クーラーを入れたりしていますしね。

井上 雨は洩るし、どうしょうもないです。

── というと、井上さんの会心の作じゃないんですね。

井上 いま使っている18番のパー3にしても、初めはあんなに長くなかったんです。だんだんティを後ろへ下げていって、いまじゃ向かい風だったら、飛ばない人はドライバーで打つんじゃないの。

── プロでも、だいたいドライバーです。

井上 名物ホールというのは変わっているとか、まともでないから名物ホールというわけじゃないです。ただギャラリーが囲むには、まことにすり鉢で都合がいいってだけです。

── これまでにつくられたコースで思い出話といいますか、あのコースを造るときは苦労したんだよ、というような印象に残っているコースはございますか。

井上 そうですね、いろんな意味でね、建設上苦労したのは那須です。これは昔の話で機械力も何もないときです。

── オープンが昭和11年ですね。ということは手がけたのは、その2、3年前になりますかね。

画像: 那須ゴルフ倶楽部の開場は1936年。写真は1955年開場の日光カンツリー倶楽部の造成風景。重機の登場は60年代に入ってから

那須ゴルフ倶楽部の開場は1936年。写真は1955年開場の日光カンツリー倶楽部の造成風景。重機の登場は60年代に入ってから

井上 4年ぐらいかかっています。

── 4年かかったんですか。

井上 あそこは半年しか仕事ができないでしょう。冬は雪ですから。それから材料を搬入できない。トラックが上がらないのです。途中でエンジンを冷やさないとね。まだ自動車の性能も悪かった。

── 私は昭和8年生まれですから、私が生まれたころ、ちょうど那須を一生懸命つくっていらしたわけですね。しかし、まあ自然の地形を実にうまく使って、そのままコースにしたような感じですね。

井上 あれは現在なら、あのクラブハウスはあそこに置かないで、もっと上へ持っていっています。それで別荘地とゴルフ場とをかみ合わせて、総合的に開発したい、というのが計画だったわけです。現在は別荘地が下で、クラブハウス、コースという形になっていますが、できれば上から別荘地、クラブハウス、ゴルフコースとしたかったんです。そうしますと、別荘からゴルフコースは自分の家の庭のようになるわけです。

画像: 那須ゴルフ倶楽部 10番ホール(402Y・P5) 奥に見えるのがクラブハウス

那須ゴルフ倶楽部 10番ホール(402Y・P5) 奥に見えるのがクラブハウス

── 山の上からポコポコ歩いてコースへこられる。

井上 しかも、そうすれば眺望も良くなるし、コースは非常に親しく、身近になりますね。

── それが逆になってしまったわけですか。

画像: あるがままの地形が生かされた那須ゴルフ倶楽部

あるがままの地形が生かされた那須ゴルフ倶楽部

井上 当時の機械力では、逆にせざるを得なかったということです。

── せっかくの構想がほかの状況から果たせないというのは、やはり残念なことでしょうね。

ゴルフ場は、コース向きの地形があるところにつくるべきだ

── 最近のコースはブルドーザーが発達しているんでしょうか、フェアウェイもまっ平らで、那須みたいなうねりがなくなって、何かつまらなくなった気がしますが…。ゴルフというのはまっ平らなところでやるべきものですか。

井上 そこがむずかしいとことですね。本当の意味でゴルフそのものを楽しんでいらっしゃる方というのが、わりあい少ないんじゃないかと思うんです。いいスコアが出れば喜んでいるという方が多いんじゃないでしょうか。

── その傾向は、日本人の場合、とくにそうですね。

井上 だから、ぼくはいつも言うんだけど、日本のゴルフはゴルフじゃなくて「日本のゴルフ」だね。

── なるほど。私はハワイが好きで、1年に2回ぐらい行くんです。そこで、アメリカ人の夫婦なんかと一緒にプレーすることがあるんですが、彼らはスコアカードをつけませんね。

井上 エンジョイしているだけですからね。

── アメリカ人のゴルフを見ていると、ゴルフの楽しみ方というのは、これが本当じゃないかと。チョコレートをとったとられたでスコアカードにがっちりスコアをつけるのは、とくにハワイみたいなところに行ってゴルフをすると間違っているんじゃないかと、しみじみ思います。日本人はゴルフの楽しみ方がへただなあ、と思うんですけど。

井上 それは、ゴルフだけとは思いませんが…。

── いや、痛いところを。まさにそのとおり。

井上 野球はどうですか、楽しみ方は。

── やっぱりまじめですね。プロ野球だったら、職業としてお客さんにお金を出してもらって見せる野球です。一生懸命やらなきゃいけないんだけれども、一生懸命の中にお客さんを楽しませる要素がないと、プロと言えないと思うんです。たとえば、劇的なホームランを打ったバッターが外野手だったら、守りに行ったときに、外野のお客さんがバァーッと拍手してくれるときに、ちょっと手をあげて、「拍手してくれてありがとう」と言えばいいのに、それができないんです。せいぜい帽子のひさしに手をあてるくらいで、歯がゆくなります。

井上 盛り上がりが、アメリカあたりに比べると少ないわけですね。

── プロゴルファーでも、劇的なパットを決めると、アメリカの選手は喜びをからだじゅうで表しますね。

井上 ギャラリーの見方も全然違うでしょう。ゴルフをエンジョイするというよりも、自分のプレーに何とかプラスになるものをと、レッスンがわりに見ている感じが強い。

── そういうところは確かにありますね。ところで、井上さんのお考えとして今後、ゴルフ場はますます増えていくのでしょうか。

井上 以前のように、年間に50とか100コース誕生することはないと思います(注/このインタビューは1979年のもので、バブル経済前に行われたものです)。アメリカなどと違って国土に制限がありますからね。あの国ではゴルフ場に向くいい地形があるから、そこへコースを造ろうというやり方です。なにしろ国土が広い。

井上 日本のように土地が空いているからというだけで、山の中でもどこでも無理に造るというのでは造成費もかかりますし、となると入会金も高くなる。入会金を高くしたのでは入り手がないから、安くして人数を増やす。会員が増えれば、行ってもプレーができない、という悪循環を生むだけで、そうした状況は今後、なくすべきでしょうね。

── ゴルファーにしたら、ちょっと寂しい感じですけど、まあ、日本は狭いですし、仕方ありませんね。

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