8月の全米プロゴルフ選手権、10年ぶりのメジャー制覇を目指したタイガーウッズ。トータル14アンダー、2打差の2位タイで優勝には届かなかったものの、全盛期を思わせる圧倒的なタイガーチャージを見ることができた。完全復活の手ごたえを感じさせる現在のスウィング、アイアンショットをテーマに吉田洋一郎プロに解説してもらった。

タイガー・ウッズ( Tiger Woods)。数々の金字塔を打ち立ててきた、誰もが知るスーパースター。故障やプライベートでのトラブルで、近年はオモテ舞台とは縁がなかったが、今季1月より本格復帰。メジャーで優勝争いにもたびたび顔を出し、復活の予兆あり。

ヘッド先行型の「ナチュラル軽スウィング」に!

PGAツアーの勝利数79勝。世界中では100以上の勝利を挙げ、メジャー優勝は14回。2000年の全米オープンから、全英、全米プロ、翌01年のマスターズに勝ち、メジャー4連勝をした、タイガースラムはいまだに語り草となっていますよね。

そんなタイガーですが、最後のメジャー優勝となった2008年の全米オープンを境に、復活を絶望視する声も出るほど、体の故障に次ぐ故障で、長い低迷期に陥ることになります。

しかし、今年の全英と直近の全米プロの活躍で、その低迷期から見事にカムバックしてきました。

その原動力が、新生と言いたくなる今のアイアンショットに詰まっているように見えます。

以前に比べて圧倒的に軽く振っている印象です。インパクトで球を操るという「インパクト感」が消えています。

以前のタイガーのアイアンは、いわゆるノックダウンショットが象徴するように、インパクト感が基本でした。他のプレーヤーにはできない天才的なアジャスト能力を活かし、インパクトの強弱、当て方、そして入れ方で、自在に球をコントロールしていました。

ノックダウンショットで見られる動きとして顕著に表れるのは、インパクト後のフォローの形です。以前のタイガーなら、左肩→左グリップ→シャフトを一直線に保った、手元先行型のフォロースルーになっていました。要はヘッドの先まで、ヘッドを走らせる量まで、すべてを支配していたのです。

しかし、現在のタイガーは手元よりヘッドが先に動く、ヘッド先行型。手元を中心に左腕とヘッドが“くの字”になっています。

これはインパクトからフォローにかけて、ヘッドをしっかりリリースしている証拠。インパクトをこれまでの『一点集中』ではなく、『ゾーン』でとらえているのです。

つまり、ドライバー型のゾーンスウィングをアイアンに取り入れ、自然なリリースとゾーンでとらえるインパクトを実現させました。結果的に、以前よりヘッドスピードも上がっています。

これがインパクト感のない“軽く振っている”ようなスウィングの真相です。

現在の、下半身主導で縦の反力を活かすスウィングは、リリース加減をコントロールする動きとは相性があまりよくありません。

彼のコーチであったクリス・コモの教える地面反力スウィングとの相性がよかったこともあるでしょう。

インパクトを作りにいかず、スーッと振るだけ

後方からのアイアンショットです。ダウンスウィングからフォローにかけて、自分では一切操作せず、ヘッドの動きに任せて、自然にリリースしているのがわかります。

意図的に加速させたり、エネルギーを一気に放出させることがなくなり、ヘッドの動きに任せた自然な等速的な動きです。そのぶん力感や迫力は消えています。

あえて「鈍感に」「イメージしすぎない」というオートマチックなゾーンスウンングへの変化が、復活への道だと考えたのではないか、と推測します。

体への負担も圧倒的に少なくなっています。

年齢とともにスウィングは変化するもの。タイガーはそれを上手に変化させ、今、手ごたえを感じているはずです。彼のメジャー復活優勝はゴルフファンなら誰もが願っていること。今後の活躍が本当に楽しみですね。

【解説】吉田洋一郎プロ
週刊GD連載「Dr.クォンの反力打法」でおなじみ。D・レッドベターをはじめ、世界の名コーチのもとを訪れ、最新理論を直接吸収。探求・研究に余念がないスウィング構築のスペシャリスト。トータルゴルフフィットネスでレッスンを展開

PHOTO/Tadashi Anezaki

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