2011年の2強対決。712AP2とMP‐59の再来の予感!
もう7年前のことになる。タイトリスト「712AP2」は前作の初代AP2の人気を維持したままフルモデルチェンジを行った。AP2は鍛造ボディの複合アイアンとして、ブレードアイアンに匹敵する打感を発揮し、それでいながら「やさしさ」を加味した未来形ツアーモデルとしてPGAツアーだけでなく世界のツアーで使用率を高めていた。
その背景にあったのはドライバーに端を発する「飛距離重視」がアイアンにもやってきた。打球を巧みに操る時代は終焉を迎え、短い番手でピンを直線的に狙うことのできるクラブにプロの興味が移っていった。ブレードアイアンにとどまるか、それともAP2のような機能性アスリートモデルにするか。2010年初代AP2の登場によってプロのアイアン選びは揺れ動いていた。
そんななか2011年にミズノが登場させたのが「MP‐59」だった。ヘッドには「Tiマッスル(Tiはチタンの意)」の文字が刻まれていた。キャビティ部を比重の軽いチタン合金で埋め、顔はブレードアイアンのようにシャープだった。しかも、ミズノの専売特許である打感をよくするという「鍛流線」は失われていない。通常、鍛造アイアンと言われるものの多くは、ネック部とフェース部を溶接する製法がとられているため、金属組織が途切れ打感を損なっている。ミズノはここに着目し、ネック部とフェース部を一体鍛造することで生まれる「鍛流線」を切ることなく成形することでミズノ独特の打感のよさが生まれた。「MP‐59」は口コミで広がり、クラブ契約など「しばり、しがらみ」のないプロの多くがMP‐59を使用するようになった。
当時、ゴルフダイジェスト誌で何度も「タイトリストVSミズノ」のアイアン特集を掲載した。ヒューマンテストをしても2モデルが抜きん出る結果がしばらく続いたが、ミズノがMP‐59の後継「MP‐15」へ、タイトリストが「714AP2」へモデルチェンジした2015年頃には、タイトリストが優勢となった。ミズノは“世界のアイアンマン”ルーク・ドナルドが活躍し、ルークが使うミズノのアイアンは注目された。一方タイトリストは2013年ジョンディアクラシックでPGAツアー初優勝を飾ったジョーダン・スピースがその後飛ぶ鳥落とす勢いで躍進。「714AP2」が放つ切れ味鋭いアイアンは人気に直結し、AP2は3代目にしてアスリート系アイアンの頂点を不動のものとした。
しかし、スピースが「716AP2」をほとんど使用せず、「714」を使い続けたこと。MP‐59以来、ミズノは良品を出すもののなかなかビッグヒットにつながらず、その他のメーカーも、2強を脅かすヒット商品を得られるずにいた。
アスリート系アイアンでビッグヒットを起こすことは容易ではない。「顔と打感」は高度に求められるが、結局のところ個人の好みが左右する。飛距離に関しては、この手のアイアンを求めるゴルファーは「飛びすぎ」を嫌がるため、飛距離競争にならない。2018年のダスティン・ジョンソンが400ヤードをあわやホールインワンという出来事が起爆剤となったM3、M4のように、誰かが使って大活躍というストーリーが後押しして、徐々に人気が高まるのがアスリート系アイアンの特徴である。
ミズノは2017年7月、「118と518」のアスリートモデルを含む3モデルを第1弾として、「ミズノプロ」の名を復活させた。新生ミズノプロは試打をしてフィッティングしないと購入できないカスタム専用モデル。当初、フィッティングしないと買えないことに疑問符を付けた人も多かったが、発売するやその販売法がアスリートの間で話題となり、ミズノの選択は「吉」と出た。その結果、ミズノはフィッティングから得た膨大なゴルファーのビッグデータをもとに商品の開発が可能となった。
5代目となった「718AP2」は、アスリート系アイアンのゴールドスタンダードとも呼ばれるように「完成形」に達したともいえる。ジョーダン・スピースも「718AP2」へのシフトは早く、その性能を後押しした。ミズノはミズノプロ「318」と「718」を追加。これでアスリートモデルは4モデルとなり、タイトリストのMB、CB、AP2、AP3の4モデルとガチンコ勝負の舞台が整った。
1年遅れのアドバンテージを生かせるか。国産鍛造勢とキャロウェイ、ピン
今回、週刊ゴルフダイジェスト編集部はこの秋発売されるアスリート系アイアン8モデルを中山カントリークラブに持ち込み、試打監修に伊丹大介プロ、試打はクラブ工房を主宰するシングルハンディの山﨑康寛さん(ヘッド速度45m/s)にお願いし実施した。
弾道データ「フライトスコープ」で5球計測し、上下2球を除く3球の平均値。使用ボールはテーラーメイドTP5Xを使用した。
【ミズノプロ319】
鍛造の打感直結!アイアンはこのシンプルさがいい
「構えた感じは小ぶりのプロモデルなのに球が上がってコントロールもしやすいです。ソールもラウンドしていて抜けがいい」(山﨑)
「構えただけでボールを包み込むイメージが沸きます。さすがミズノのアイアンを感じます。軟鉄の繊細な打感もいいですね」(伊丹)
【ミズノプロ719】
ミズノ史上最高反発を達成した鍛造アイアン
「抜けのいいソール形状で楽に球が上がります。スウィートエリアも広くやさしいです」(山﨑)
「ブレードアイアンをそのままひと回り大きくしたようなシャーフな顔がいいですね。319よりも弾くのにスピンが入る感じがあるのでコントロールがしやすかったです」(伊丹)
【ブリヂストンゴルフ・ツアーB X‐CB】
BS顔の安心感。このルックスが好きな人多いはず
「厚いソールですが絶妙な削りで抜けがいい。キャビティですがブレードアイアンのような打感がします」(山﨑)
「癖のない顔でとても構えやすい形状をしています。BSの真骨頂といった感じがします。軟鉄のしっかりした打感でボールを弾きすぎず、球を抑えられるのでコントロールがしやすいです」(伊丹)
【ブリヂストンゴルフ・ツアーB X‐CBP】
「モーダス105」の振り心地を引き出すレシピをBSは知っている
「打ち込んでも払ってもいいソール形状です。ミスヒットにも強く、オートマチック感覚でボールが上がってくれます」(山﨑)
「X‐CBと顔は似ていますが、こっちは弾き系ですね。打感も軽く、上に弾く感じで楽にボールが上がります。ちょっとダフッてもそこそこ飛ばすことのできるソールをしています」(伊丹)
【ダンロップ・スリクソンZ785】
打てば打つほど、このソールの潜在能力に驚くはず
「ウェッジのようなソール形状をしているので、どんな打ち方でも対応できそう。許容範囲の広いアイアンだと思います」(山﨑)
「フェースのミーリングが効いてインパクトで球が滑りにくくなっています。山切りソールはヘッドが上から鋭角に入っても抜けてくれます」(伊丹)
【ダンロップ・スリクソンZ585】
飛距離も魅力。女子プロ注目間違いなし
「構えやすいいい顔をしています。スピンはちょっと少なめですが、弾く感じでボールが上がりやすい。広めのソールは払い打つタイプに合っていると思います」(山﨑)
「オーソドックスな顔を好む中級者から使えるアイアンです。シャフト次第では打ち出し角はもっと上がるはず。ダンロップ契約の女子プロは、みんなこれを使うんじゃないでしょうか」(伊丹)
【キャロウェイ・ローグプロ ブラックバージョン】
セミグースながらフェード、ドローが打ち分けやすい
「球がフェースにコンタクトしている時間が長く、とにかく打感がいいですね。ソール全体で地面をとらえ、抜けもいい。日本のメーカーにはない感覚があります」(山﨑)
「フェースにボールが乗ってくっついてから弾く感じの打感。『すべり感のない弾き』とでもいうのか、今まで味わったことのない新しい打感です。『プロ』の名の通り、抜けもよく、コントロールもしやすい。黒いヘッドは小さく見せる効果があるのでシャープさがアップします」(伊丹)
【ピン・i210】
ボールが上がる。見た目よりやさしい
「スピンが多めで球は高めです。バックフェースに配された樹脂の効果なのか多感は非常にマイルドです。鍛造が柔らかく、ステンレスは硬いといいますが、素材による違いは感じません」(山﨑)
「インパクトでボールがフェースに喰いつく感じがあります。スウィートエリアも広く、少し芯を外しても飛距離が落ちませんでした。ソールには丸みがあるのでラフからの抜けもいいと思います」(伊丹)
2018年秋のアスリートアイアンは「整った顔とやさしさ向上」
この秋発売になる8モデル打ち終わって試打監修の伊丹大介プロは「それぞれ特徴がありますが、相対的にやさしくなった」という感想をもった。「ミズノは軟鉄鍛造の気持ちい打感、スリクソンはソールの抜けのよさ、ブリヂストンは『ツアーステージ時代』のいい顔に戻りました。ピンはステンレス素材を感じさせない打感の柔らかさと、球が上がってミスへの強さ。いちばん驚いたのはキャロウェイです。これまで経験したことのない『新しい打感』を発見しました」(伊丹)