2018年、「TOTOジャパンクラシック」を制して、米ツアー2勝目を挙げた畑岡奈紗。米LPGAツアーのトッププレーヤーとなり、いまメジャー初優勝に一番近いと言われる彼女のスウィングを、プロコーチ・中井学が分析する。

畑岡奈紗
17歳のとき、アマチュアとして出場した日本女子オープンで優勝。翌年から、米国ツアーを主
戦場に戦う。JLPGAツアー3勝。USLPGA ツアー2勝。2018年の最終ランクは賞金145万ドルで5位

早めのコックは筋力とバネの証

まず注目してもらいたいのが、手首のコックとアームローテーションを早めに使うテークバックです。女性プレーヤーにとって、ゴルフクラブは重いものです。そのため、多くの女子プロは、クラブの重さを体全体で支えながらテークバックする傾向にあります。

一般的にはレートコックでローテーションの少ないテークバックになりやすく、クラブが外に上がってインサイドから下りてくる軌道を描きやすいのです。しかし、畑岡プロの場合は、テークバックの初期から速いテンポで手首のコッキングを行い、アームをローテーションさせています。

その結果、クラブは早めにスウィングプレーンに乗り、バックスウィングとダウンスウィングがほぼ同じ軌道を描くようになるのです。このような動きができるのは上半身に筋力とバネがある証拠。

クラブの行きと帰りに差の少ない軌道が、彼女の正確性、安定感の源になっていると言えるでしょう。

椅子に座るように沈み込むダウンスウィング

ダウンスウィングの写真に注目してください。トップから少し体が沈み込み、イスに座るような形、いわゆる「シットダウンポジション」に入っているのがわかります。これは、上体を脱力させた状態で、前傾角度と頭の位置をキープしたまま両脚で地面に踏み込むことで実現される動きです。

このポジションに入ることでダウンにおける体の開きは抑えられ、ナチュラルなドロッピング(クラブを落とす動き)が可能になって、クラブを正しい軌道に乗せることができるのです。

画像: 「トップからダウンへ切り返した瞬間、体が沈み込み、イスに座るような姿勢になる状態のこと。このポジションに畑岡の強さの秘密がある」と中井コーチ

「トップからダウンへ切り返した瞬間、体が沈み込み、イスに座るような姿勢になる状態のこと。このポジションに畑岡の強さの秘密がある」と中井コーチ

畑岡プロは、このポジションから両脚を徐々に伸ばすことでクラブを加速させ、さらに脚を伸ばし切ったところで下半身にブレーキをかけて、カウンター効果によってヘッドを走らせています。

これは、下半身を使い切っている選手特有の動きで、この加速感の素晴らしさも彼女の魅力と言えるでしょう。とくに、アイアンショットにおける前傾角度の安定、上下動やムダな力感のなさ、動きの余裕は抜群で、その完成度は女子ツアーでもトップクラスと思われます。

シットダウンポジションが素晴らしいアイアンのスウィング

ただし、ドライバーにやや不安要素が見て取れるのも事実です。ダウンスウィングでわずかに骨盤が起き上がり、顔が右に傾いて、インパクトの左肩に力感があるのがわかります。

これは、ドライバーをアッパー軌道で打って飛距離を稼ごうとしているためだと思われます。体の小さな彼女が、米ツアーで戦うためには仕方がない部分かもしれませんが、さらに上を目指すときの課題であることは間違いないでしょう。

アッパー軌道で飛距離を稼ぐドライバーショット

【解説】中井学
なかいがく。プロコーチ。米国留学中から、独自に理論を構築。現在は、自らツアーに参戦しつつ、多くのプロ、アマチュアを指導する

PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Tadashi Anezaki、Shinji Osawa

週刊GD2018年12月4日号より

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