2017年はアマチュアの金谷拓実が日本オープンで2位になり、2016年は畑岡奈紗が日本女子オープンに優勝する(プロ入り後の2017年も連覇)など、JGAのナショナルチームに所属する選手の活躍が目立つが、その立役者ともいえるのが2015年にヘッドコーチに就任したガレス・ジョーンズ氏だ。選手たちからも「もっと早く出会いたかった」と高く評価されるジョーンズ氏に話を聞いた。(週刊GD2018年1月30日号記事より)

ガレス・ジョーンズ(Gareth Jones)
JGAが派遣する海外試合に日本代表として出場するナショナルチームのヘッドコーチ。2014年に軽井沢で開催された世界アマで惨敗し、危機感を感じたJGAに招喚され2015年に就任。日本と同様に一時低迷したオーストラリアのナショナルチームを復活させた手腕が評価された。1971年英国生まれ

ゴルフでは事前の“準備”がいちばん大切なんです

画像: ガレス・ジョーンズ氏

ガレス・ジョーンズ氏

GD 日本のナショナルチームヘッドコーチに就任して約2年が経過しましたが、日本の選手にどんな印象を持っていますか。

ガレス チームに合流した当初から、ゴルフに対する真剣さや、練習にまじめに取り組む姿勢には、とても感心しています。練習に「ノルマ」があれば、サボらずにきちんとこなすところは、日本チームならではのものです。

GD その日本チームは、14年に自国開催された世界アマチュアチーム選手権で惨敗していますが、合流当初、チームにかけていると感じたものは何でしょうか?

ガレス これははっきりしていて、ひとつはロングゲームの練習量に対して、ショートゲームの練習量が圧倒的に少なかったことです。私がヘッドコーチを兼任しているオーストラリアのナショナルチームでは、ショートゲームの練習の割合は65%以上で、これは日本以外のほとんどの国では一般的な割合と言えます。日本の場合、施設面での問題もあり、打席でのショットの練習が主になり、トップレベルのアマチュアでも、芝からのアプローチ練習や、天然芝グリーンでのパッティング練習ができる場面が少ないというのは、非常に問題だと感じました。

GD チームの強化合宿などは、ショートゲームの重要性を繰り返し伝えたと聞きます。

ガレス そうです。そのかいもあって、今ではチームが一丸となって、ショートゲームの強化に取り組んでいます。

GD ナショナルチームからプロ転向した畑岡奈紗選手も、ショートゲームには定評があります。

ガレス ナサはゴルフにおけるショートゲームの大切さを証明してくれていると思います。彼女は決して体格に恵まれているわけではないので、飛距離の面では米ツアーで苦労していましたが、それでも日本ツアーに帰ってきて、大事な試合で2連勝できたというのは、ショートゲームの安定があるからこそです。

GD 16年の米LPGAツアーQスクールには、畑岡選手のキャディとして参加していますが、その際どのようなアドバイスをしたのでしょうか?

画像: 16年の米LPGAツアーQスクールは、畑岡選手のキャディとして参加したガレス・ジョーンズ氏

16年の米LPGAツアーQスクールは、畑岡選手のキャディとして参加したガレス・ジョーンズ氏

ガレス いつもチームで話していることと全く同じです。ゴルフでは事前の準備(planning)がいちばん大事で、試合のラウンドでの出来は、コースの下調べに基づいたゲームプランをいかに忠実に実行できるかにかかっています。練習ラウンドでは徹底した情報収集を、試合のラウンドではプラン通り、迷わずにプレーすることを徹底させました。

GD 事前準備と本番のゲームプランについて、もう少し具体的に教えてください。

ガレス よく言われているように、コース攻略の基本はグリーンから逆算して、最後にいかに簡単なパットを残すかということです。そのために練習ラウンドでは、グリーン情報をできる限り詳しく収集します。そのうえで、グリーン上の「ゼロライン」を見極めて、ゼロラインが残るエリアにボールを運ぶことを軸に攻略プランを立てていきます。

GD 「ゼロライン」とは?

ガレス 完全に真っすぐなラインということです。どのピンポジションに対してもゼロラインになるエリアが分かっていれば、打つべきショットがより明確になるので、迷いが生じる余地も少なくなるわけです。

GD 当然、グリーンのそのエリアを狙いやすいポジションに、ティショットやセカンドショットを打つ必要があるわけですね。

ガレス その通りです。チームではプラン通りにボールを打っていけるエリアを「インポジション」、そうでないエリアを「アウトポジション」と呼んで区別しています。例えば、軽い左ドッグレッグのホールで、ピンがグリーンの左端に立っている、ピンの手前にはバンカーがある、という場合、グリーンを狙うのにベストな地点はフェアウェイの右サイドです。この地点を中心として、おおむねフェアウェイにあり、ピン筋にバンカーがかからない範囲が「インポジション」となり、それ以外の範囲が「アウトポジション」です。仮に、ミスでボールがアウトオブポジションに飛んでしまったら、必ず次のショットでインポジションに戻すということを徹底しています。ミスした時に「ヒーローショット」で、そのミスを一気に挽回しようすると、スコアを1打以上落とすリスクが高くなります。先ほどのホールの例でいうと、もしティショットを左にミスしてラフに入れてしまった場合、無理にバンカー超えのピンを狙うのが「ヒーローショット」です。しかし、私のチームでは必ずフェアウェイのインポジションに戻して、そこからパーを狙うのが基本です。

画像: グリーン上の完全に真っすぐなラインがゼロライン。そのエリアに打つための最適な場所がインポジション

グリーン上の完全に真っすぐなラインがゼロライン。そのエリアに打つための最適な場所がインポジション

GD 堅実ではありますが、消極的ということではないでしょうか。

ガレス 消極的なわけではありません。単に無駄なリスクは侵さないだけです。1ホールだけでなく18ホール、試合であれば3~4ラウンド全体を考えれば、もっといい条件で冒険できるチャンスは必ずあります。それ以外のところで無理をしてしまうと、せっかく奪ったバーディを無駄にしてしまうことになるのです。テニスでもセカンドサーブは安全に行きますよね。ダブルフォルトばかりでは試合になりませんから。

(後編につづく)

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