ストレスが溜まった昨シーズンから巻き返すべく、松山英樹の2019年シーズンが本格的にスタート。ここ数年、世界最高クラスと評される「アイアンショット」の精度は相変わらず絶品だ。アイアンのスウィングにフォーカスして、プロコーチの内藤雄士が分析する。

松山英樹
まつやまひでき。1992年2月生まれ。愛媛県出身。米ツアー5勝、日本ツアー8勝。過去、4大メジャー大会においてベスト5フィニッシュ6回。2017年には世界ランク2位まで上がる。「日本で最もメジャータイトルに近いプレーヤー」であることに変わりはない。

フェースを開いて使う

まず、トップのフェース向きに注目してください。松山プロのフェースは体の正面側を向き、トウが完全に地面を指しています。これは、フェースをオープンに(開いて)使っている証拠です。

重心距離の長い現代のクラブは、いったんフェースが開くとスクェアに戻りにくいという性質があります。そのため、現代ではフェースを閉じて使う選手が増えたのですが、松山プロはオープンに使う数少ない選手なのです。

松山プロが非凡なのは、それ以降です。通常、フェースをオープンに使うと、腕をローテーションさせてスクェアに戻したくなるものです。しかし、松山プロには、その動きがありません。

画像: 松山のようにフェースが正面を向いているのはフェースを開いて使っている証拠。ダスティンのようにフェースが真上を向いているのはフェースを閉じて使っている証拠

松山のようにフェースが正面を向いているのはフェースを開いて使っている証拠。ダスティンのようにフェースが真上を向いているのはフェースを閉じて使っている証拠

画像: ダスティン・ジョンソンのトップではフェースは真上を向き、閉じている

ダスティン・ジョンソンのトップではフェースは真上を向き、閉じている

ダウンで左わきを締めて手元を体に引きつけ、左手甲を地面に向ける動きによってフェースをスクェアに戻すので、シャフトにねじれが生じないのです。このねじれのない動きが、正確無比なアイアンショットを生み出しているのです。

リリースが誰よりも早い

シャフトをねじらない動きとともに、インパクトの手元の位置が非常に低い点にも注目してください。これは、ダウンにおける上半身と下半身の捻転差のリリース、そして、クラブのリリースが誰よりも遅い証拠です。

並みの選手であれば、ダウンへ切り返した瞬間、上下の捻転差が最大になります。しかし、松山プ
ロは、インパクト直前、手元が腰の高さに下りてくるあたりが最大になっています。この捻転差のリ
リースが遅い選手ほど、インパクトの手元の位置は低くなり、高い再現性と大きなパワーを生み出す
ことができるのです。
 
18年シーズン、松山プロは思うような成績を挙げられませんでした。それは、左親指の故障と、そ
れによる練習不足が大きな要因だったと思います。親指に痛みがあるとダウンの引きつけが甘くなり、インパクトで手元がわずかに浮く恐れがあります。

ほんの数ミリかもしれませんが、一流の選手にとっては大きな誤差になるのです。また、松山プロは、人の何倍もの練習をすることで自信をつけ、プレーのリズムを構築する選手です。それが思うようにできなかったことが結果に影響を及ぼしたのは想像に難くありません。

【ポイント①】ウィークだからオープンになる
正面から見ると、松山のグリップはかなりウィーク。ウィークグリップで握ると、フェースをオープンに使うスウィングになりやすい

【ポイント②】捻転差のリリースがとても遅い
通常、上下の捻転差はダウン初期に最大になるが、松山はダウン後半に捻転差が最大になる。手首でタメを作りすぎず、捻転差をキープすることで飛距離と方向性を両立させている

【ポイント③】手元の位置が誰よりも低い
捻転差のリリース、クラブのリリースの遅いプレーヤーほど、インパクトの手元の位置は低くなる。この手元の低いインパクトが、松山の調子のバロメータとも言える

本人に話を聞いたところ、その痛みは完全になくなり、練習も思うようにできるようなったそうです。そうであれば19年は18年以上の成績を残すことは間違いないでしょう。

正直に言って、松山プロが調子のいいときのアイアンショットは世界最高峰です。それは、A・ス
コットが世界ランク1位になったとき、1990年代にN・プライスがメジャーを連勝していたときなど、限定的な高いレベルに比するものだと言っても過言ではありません。

グリーン左が全面池の左奥のピンに、ロングアイアンのストレートフェードでピンの根本を狙っていく。今年は、そんなショットが見られるのではないでしょうか。

【解説】内藤雄士
ないとうゆうじ。プロコーチ。日大ゴルフ時代、米国にゴルフ留学し、最新の理論を学ぶ。そ
の後、丸山茂樹、平塚哲二、矢野東らのコーチを務める。ラーニングゴルフクラブ代表。

週刊GD2019年1月29日より

This article is a sponsored article by
''.