【解説/江連忠プロ】
東京都出身。高校卒業後、米国に渡り、ジム・マクリーンの元で最新のティーチングメソッドを学ぶ。その後、片山晋呉、諸見里しのぶ、上田桃子ら、多くのプロを育てる。日本におけるプロコーチの草分け的存在
【最先端】スウィングを科学で可視化する時代
タイガー・ウッズがプロデビューし、その飛距離で他を圧倒したのが1996年。それから23年の間に、ツアープロの飛距離は伸び続け、タイガーの登場時よりも30~50ヤードも飛ぶようになりました。(江連)
弾道測定器がゴルフを変えた
タイガー登場以降、世界はパワーゴルフへと突入していきました。昔の選手と比べリズム感や優雅さはなくなり、パワーでコースをねじ伏せるスタイルです。今、ツアープロに求められているのはインパクト付近の再現性です。
現在は「トラックマン」などの弾道測定器によって、今まで見えなかったインパクト付近のクラブ、ボールの挙動が明確に分かるようになりました。いま自分はどんな入射角度、フェース向き、軌道でボールをとらえていて、ボールにどんなスピンがかかっているのか、それを逐一チェックできます。
ボールをどう飛ばし、操るか、科学によって証明されたのです。すると選手たちはみな、自分のパワー、クセを生かしながら。そのなかで理想のインパクトゾーンに近づける努力をするようになります。一見個性を生かしているように見えるけれど、求めるのはインパクトとボール(スピン)のデータを揃えることだけ。
ゴルフが科学的になったがために、スウィングの人間的、芸術的な部分が求められなくなってしまったとも言えるでしょう。いずれにしても、データを重視し、科学でスコアを作る。それが現代のスウィングなのです。
完成度ではタイガーが上!?
世界ランク1位にもなった、ダスティン・ジョンソンのスウィングを見てみましょう。大きなスウィングアークや、起き上がらないインパクトなど、彼に学ぶべき点はあると思います。しかし、残念ながら強烈なシャットフェースで、ハンドファースト&ダウンブローに当てていくスウィングは、彼の人並み外れたパワーがあってこそのもの。誰にでも真似できるものではありません。
DJはともかく、アダム・スコットやジェイソン・デイのように教科書的で多くのプレーヤーのお手本になるような選手もたくさんいます。
しかし、彼らよりもベン・ホーガンやニック・ファルド、タイガー・ウッズのほうがスウィングの完成度は高かった。僕はそう思うのです。
僕は自然体であることを最も大切にしています。体とクラブに無理、ストレスがない。リズムがいい。バランスがいい。しなやかでいて躍動感がある。そして、脚力が使えている。
そういう観点で言えば、少し前の時代にゴルフスウィングは完成してしまたような気がします。
現代はデータ重視のあまり、大事なものが置き去りにされている。そんな気がしてならないのです。
【未来のスウィング】最先端のギアを使いこなす。それが未来の最先端
クラブにストレスをかけないことが大切
将来、ゴルフスウィングがどうなっていくのか、それは僕にもわかりません。ただひとつ言えるのは、最先端のクラブを使いこなすスウィングこそが、最先端のスウィングであるということ。
クラブの性能どおりに振ったときに、クラブどおりの高さ、スピンの球が出るということです。たとえば、トップから上体の力で急激に切り返したとします。すると、その瞬間にシャフトはねじれ、クラブは暴れて、あるべきポジション、描くべき軌道から外れてしまう。これがクラブにストレスをかけるということです。
現代のクラブはシャフトが長く、ヘッドが大きいために、小さなストレスでも大きなミスに直結しやすい。それだけに、クラブにかかるストレスは極力取り除く必要があるのです。
クラブにストレスをかけないために、いちばん大切なのはムダな力みを取ること。とくに上体や首回りの力みは、クラブのストレスにつながりやすいので注意が必要です。
未来的なのはジョーダン・スピース
そいういう意味で最も未来的なスウィングをしているのは、ジョーダン・スピースでしょう。彼の動きは一見硬く見えますが、アドレスからフィニッシュまで力みがなく、他のトップ選手と比べ、クラブにストレスがかかっていません。
ダウンとフォローのシャフトの角度がキレイに揃っているのがわかるでしょうか。これはクラブの動きを邪魔していない証拠。クラブをねじらず、ストレスをかけず、クラブが行きたい方向に行かせている証拠です。またダウンからインパクトにかけて、体が起き上がらないのも力みのないためです。
ゴルフクラブはこれからも進化を続けていくことでしょう。そのギアに、ストレスをかけないスウィングこそが、その時代にマッチした未来のスウィングの姿だと思います。