トッププロの隣りでともに戦う「プロキャディ」。近いからこそ見えるもの、感じることがある。プロのバッグを担いできた経験豊富な2人、松山英樹のキャディ進藤大典さん、イ・ボミの元キャディ清水重憲さん、「一流プロのプレー」から「キャディという仕事」まで語ってもらった。

進藤大典さん
1980年京都府生まれ。A型。明徳義塾中高、東北福祉大ゴルフ部出身。宮里優作、谷原秀人、片山晋呉などのキャディを務め、2013年から松山英樹の専属に。キャディとして日本ツアー13勝、米ツアー5勝。「キャディは黒子だと思います」

清水重憲さん
1974年大阪府生まれ。B型。高校までは野球部、近畿大学でゴルフ部に。田中秀道、谷口徹、上田桃子、イ・ボミなどのキャディを務める。キャディの勝利数37勝は最多。賞金王・女王も4回サポート。「キャディには几帳面さが必要です」

トッププロには自分の長所を伸ばせる人が多い

── お二人がキャディをしてきたプロたちについて、その強さの秘密を教えてください。

進藤 (松山)英樹、谷原(秀人)さん、(片山)晋呉さんたち、それぞれに強さや長所があると思っていて、晋呉さんは、スウィングの正確性を追求し、規律というかルーティンの大切さをしっかり持たれているので再現性や集中力が高い。谷原さんは、柔軟性や向上心、フィジカルの強さがある。40歳であれだけ欧州で頑張れるのはすごいです。

清水 確かに、その二人だけでも反対の感じの強さやね。

進藤 谷原さんはドバイに住んで、チャレンジ精神がすごい。その場所で楽しめるう強さも持っています。そして、英樹の強さは、集中力の高さです。そして、距離感が鋭いので、風が吹くときも、気温が高くてボールが飛ぶときも、まずズレないです。

清水 距離感が?

進藤 はい。ショットの技術はもちろんですが、クラブ選びもズレない。そこができずにミスする選手もいますが、そういったミスが年間を通してほぼない。まあ、自分のミスに厳しい人間でもあるので、ちょっとしたミスでも自分に対してすごく怒るんです。それがあの、クラブから手を放して、というシーンになる。

「英樹の距離感は鋭い。クラブ選択のミスジャッジがない」(進藤)

画像: 「英樹は今年アメリカ7年目ですけど、ジャッジがずっとブレない」。技術だけでなく距離感のよさ、気づく能力が判断力につながっているとも

「英樹は今年アメリカ7年目ですけど、ジャッジがずっとブレない」。技術だけでなく距離感のよさ、気づく能力が判断力につながっているとも

清水 自分で自分を?

進藤 はい。だから、すごくストレスが溜まる生き方だと思います。

清水 僕は、トッププロには自分の長所を伸ばしていける人が多いと思っています。気づけるというか。(イ)ボミプロなら「素直さ」、(上田)桃子プロなら「攻める姿勢」です。もちろん、プロのいいところを引き出していくのは僕たちの仕事でもあると思う。新しいプロについた時、まず長所を探します。当然弱点もあるので、「そこの平均点を上げると、いいところが生きてくる」という表現にして伝えたり。言葉選びは難しい。

進藤 ノリさん(清水)は、選手への声の掛け方がプロですよね。

清水 女子プロは声を掛けたほうがいい人が多いから、そう感じるんでしょう。

進藤 絶対必要ですよね。大坂なおみ選手を実際に見たことがありますが、結構自分の気持ちを吐露するから、そこでコーチが「いや大丈夫」と言う感じでやっていて。精神的な支えが女性アスリートには必要な気がしました。

清水 トッププロは完璧主義者が多いので、自分をコントロールするのが難しい場面も出てきます。

進藤 女子プロも完璧主義者ですか?

清水 ボミも桃子もそうですね。鈴木愛ちゃんもそう。自分のちょっとしたミスが許せない。僕の知る限りで言うと、谷口(徹)さんも完璧主義者ではある。でも、自分を許せる部分もあるんです。結構早い段階でメンタルトレーニングを取り入れていたとも聞きました。自分に甘くするということではなく、試合に限っては自分を許してあげるというのも大事なんでしょう。

「ボミは完璧主義者。気持ちを楽にするのも僕の仕事」(清水)

画像: 選手をポジティブな気持ちにさせる言葉を選び伝える。「試合では“自分を許せる”ほうが、結果につながります」(清水)

選手をポジティブな気持ちにさせる言葉を選び伝える。「試合では“自分を許せる”ほうが、結果につながります」(清水)

進藤 女子プロに、その「許し」を伝えるのが、ノリさんの役目でもあるんですね。

清水 ボミには、「ケンチャナ(大丈夫)」という言葉をよく言ってました。男子のほうが、ただ「大丈夫」と言っても、何の根拠があって、となる。女子は大丈夫と言っていると、本当に大丈夫になることも多い。

進藤 僕が声をかけるのは、ピンチ、逆境になっているときです。たとえば日曜日のバックナインでリーダーズボードを見て、「あと4打、いけるね」と確認のし合いをしたり。それでさらにグッと集中力が高まって追い上げていく感じはあります。英樹は、自分でボソッと言ったりすることがあって、それを僕が拾って雰囲気を作っていくというのが多かった。「バーディ、バーディ、バーディで上がろう」と言ったこともあったけど、だいたい返事は返ってこない(笑)。でも、結果を出してくれるので、英樹なりに実は聞いていて、言葉はなくても「そんじゃやってくるよ」くらいで結果、上手くいく感じだったのかもしれません。勝手な僕の解釈ですが。

── キャディという仕事については、どう考えていますか?

清水 僕は、キャディが天職というか、好きで楽しくやらせてもらっています。キャディは、ほかのスポーツにない珍しいサポートの仕方。一緒にロープのなかに入って、プレーはしてなくても一緒にしている感覚にはなります。

進藤 キャディをやっていて楽しいことは何ですか?

清水 もちろん結果が出ること。一番が優勝で、上位に入るのは楽しいよね。

進藤 僕は、相談し合ったジャッジが上手くいった時は嬉しいですね。

清水 そうだね、打っているのはプロだから、あくまで自己満足。それでも嬉しい。そういう意味はボミが調子がよかったときは、まるでファミコンなどのゲームをしているようでした。距離を言って風を言ってこのクラブでこんな感じで打ってほしいという話をしたら、そのイメージが再現されるように球が飛んでいくことがあった。

「イメージを超えるボールが出ると鳥肌が立つ」(清水)

画像: 絶好調時のボミはイメージ以上のボールを打つこともしばしば。「ピンの5メートルについたらいいというのが1メートルについたり。鳥肌ものです」

絶好調時のボミはイメージ以上のボールを打つこともしばしば。「ピンの5メートルについたらいいというのが1メートルについたり。鳥肌ものです」

進藤 確かに。「3番ウッドでカットのちょっと吹かしめで球の高さを出して、左バンカーから左側に乗せて」という話をし合って、本当にそのとおりにバーンといったとき。「ああ完璧だ」と結果が出たときはやっぱり一番楽しいです。

清水 たまにイメージを超えることもある。英樹はたくさんありそうだな。

進藤 アプローチはよくあります。あと、英樹はラフとかトラブルショットのとき。これは無理だな、という場所からでも、「どこ見てるの」という感じで打って、グリーンに乗せてしまったりします。

「相談しあったことが上手くいったときは嬉しい」(進藤)

画像: 二人で話し合い、イメージが重なり、そのまま完壁な結果を生んだとき、「最高に嬉しい気分になります」

二人で話し合い、イメージが重なり、そのまま完壁な結果を生んだとき、「最高に嬉しい気分になります」

清水 近くにいるだけにウキウキできるよね。それにしても、キャディって体力的にはたいへんです。最近、1年間で歩く距離を計算したら、約20キロのキャディバッグを担いで、鹿児島から青森くらいまで歩いている。

進藤 僕、万歩計のデータを見ると、1日2万6000歩とか普通に歩いてましたよ。26キロくらい。

清水 それはまたすごいな。

進藤 コースチェックも含めて朝から。アメリカはティーングエリアから距離が長いですしね。

清水 男子と女子と違うからな。試合日数も含めて。

進藤 僕の場合はロシアくらいまで行っちゃうかも。だから、体のケアは絶対にやったほうがいいですよね。USオープンなどは、キャディ専用のホスピタリティがあるんでんす。カイロ(プラクティック)もアロマも全部です。

清水 それはエエなあ。ほかにも日米の違いは?

進藤 アメリカのコースは、クラシックコースとモダンコースがある。最近だとラフはそれほど長くなくて、フェアウェイの刈り込み部分を増やして、グリーンを外すとこぼれていくようにしている。そこからパターで打つのか、アプローチでキャリーでいくか、クッションを使っていくか、多くの選択が選手に与えられて、見ているほうもそれを楽しむ感じに変わっています。また、ショー的に考えているので、ピンから多少外れても傾斜で戻ってきたりします。

清水 アメリカに挑戦するなら、実際に行くしかないな。

進藤 はい。日本で育ってから行くという感覚ではなく、世界で戦うため、自分で出て行く。

清水 女子は飛距離で劣るということはないけれど、アプローチが大事だと思うんです。たとえば黄金世代など若い女子は、ショットは飛んで曲がらないけど、アプローチはまだまだ。(宮里)藍ちゃんはやっぱりすごかったですよ、アマチュア時代から。

進藤 男子は、今年日本で行われる「ZOZO選手権」が一番の近道。優勝できたらPGAツアーのフル参戦チケットをもらえるんですよ。東京湾のアクアラインみたいなものです。

清水 上手いこと言うね。日本のコースだし、よりチャンスはありますよね。

進藤 僕の立場でゴルフ界に貢献できるとしたら、キャディさんの地位向上、全体的な底上げです。アメリカはキャディの地位が高いですし、プロ意識も高い。ノリさんみたいな人がたくさんいます。

清水 大ちゃんの年収を言ったらエエねん(笑)。そうしたら、なりたい人は増える。それこそアメリカンドリーム。でも僕も、キャディをしたいという人が増えてほしいと思う。プロゴルファーを目指す子の仕事のひとつの選択肢としてプロキャディもあってほしい。

「今までの経験を若いプロに伝えるのも使命です」(清水)
「キャディという職業をもっと知ってほしいです」(進藤)

画像: 「僕らの経験を若いプロにも伝えれば、何年か後に世界で活躍する選手が出てくるかもしれません」(清水)「テレビ解説が、キャディという職業の認知にもつながるはずです」(進藤)

「僕らの経験を若いプロにも伝えれば、何年か後に世界で活躍する選手が出てくるかもしれません」(清水)「テレビ解説が、キャディという職業の認知にもつながるはずです」(進藤)

進藤 キャディの仕事は、いろいろな人と知り合えるのも素晴らしいと知ってほしいですね。

清水 一般ゴルファーの方に伝えたいのは、日本の男女ツアーとも面白いから見に来てほしいということ。男子ツアーの人気がないと言われますが、皆さんの倍近く飛ばすんですよ。迫力があります。久しぶりに去年、堀川未来夢のバッグを担いだら、最初ボールを追えなかった。もちろん、トーナメント会場の見せ方の工夫などは必要だと思います。

進藤 僕が思うのは、予選が終わった土曜日に、プロたちがスタートした後の空いているコースを使い、アウトインで4組ずつお客さんを入れるなんていいと思うんです。プロの後に同じコースを9ホール回る。各人にプロキャディも付ける。権利を企業や個人に買っていただければ、収入にもなり、予選落ちしたキャディさんのセーフティネットにもなる。アマチュアの方にも「プロキャディがいるとこんなに違う」と思っていただきたいです。予選落ちしたキャディの収入などを考えていたら、こういう発想になったんです。

── 今年のお二人の活動と目標を聞かせてください。

清水 僕は、新垣比菜プロのキャディをメインにやっていきます。大ちゃんは?

進藤 英樹のキャディを何試合かしつつ、テレビ解説を。ノリさんの試合を観戦します。

清水 解説でしょ(笑)。基本はアメリカの男子?

進藤 そうですね、ゴルフネットワークさんが多いと思うので。こうして解説させていただけることに感謝しつつ、もっと勉強して、今のショットがどのくらい難しいか、たとえばグリーン右手前に乗ったショットでも、どんな経緯があって乗ったのかなど、伝えたいと思っています。

清水 話があればスポットでもバッグを担いでほしいな。アメリカの経験を日本のプロにも伝えてほしい。最近僕らも感じますが、今まで経験したことを若いプロに伝えるのも使命かなと思います。

進藤 もう一つ、子どもとの時間も大切にしたいです。6年間本当にできなかったことなので。

清水 好感度上がるで(笑)。僕の目標はまずは1勝です。結局、それが重なっていくと賞金ランクの上位争いになりますから。

進藤 ノリさん、50歳になるまでに50勝してくださいね。

清水 あと13勝、難しいなあ。大ちゃんに負けないよう、頑張るわ。

進藤 キャディを出発点とする者同志、目標に向かってお互い頑張りましょうね。

画像: 生涯現役を目指す清水。進藤は海外経験を様々な分野に役立てたいと考えている

生涯現役を目指す清水。進藤は海外経験を様々な分野に役立てたいと考えている

週刊GD2019年3月12日号より

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