ナイキゴルフがクラブ事業を撤退、その工房を使ってスタート
「アーティサンゴルフ」は、テキサス州にある6人だけの小さなクラブメーカー。ナイキゴルフがクラブ事業を撤退した後の施設を引き継ぐ形で2017年にスタートした。
翌2018年から、PGAツアーの契約フリー選手たちが使い始め、そのうちの一人、アーティサンゴルフのウェッジを使っていたパトリック・リードがマスターズに優勝、一躍脚光を浴びた。

クラブ業界を渡り歩いてきたギア職人だけの集団
販売スタッフは不在、よって営業活動はほとんどしていないというが、もともと彼らは、多くのツアープロにクラブ供給をしてきた“熟練職人”たち。とくに(写真)中央の2人、ジョン・ハットフィールドとマイク・テーラーはタイガーはじめ、トッププロたちが全幅の信頼を寄せる“ゴッドハンド”だ。

中央左)ジョン・ハットフィールド、中央右)マイク・テーラー

2018年マスターズ覇者パトリック・リード。アーティサンゴルフのウェッジを使用
アーティサンウェッジの特徴
【特徴①】すべてが手削りで造られる

多くの工程はCADで行われるが、最後の良し悪しを決めるのは手作業
【特徴②】新興ながら完成されたシェイプ

トッププロたちとの試行錯誤の経験がこのシェイプに詰まっている
【特徴①】パターもじわじわ増殖中

ウェッジばかりに目が行きがちだが、パターも注目も浴びている
タイガーと培ったゴッドハンド「マイク・テーラー」
アーティサンゴルフの心臓とも言えるマイク。30年以上にわたる経歴の中で最も刺激的だったのは、タイガーとのアイアン作りだったと言う。
マイク 2人で話し合いながら試行錯誤を繰り返し、最終的には彼の満足するアイアンを完成させることができたことはとても良い思い出です。世界一のプレーヤーと物作りできたことは、大きな経験になりましたね。

マイク・テーラー ヘッド研磨士としてタイガーを裏で支え続けた職人。現在はアーティサンゴルフの共同代表を務めつつ、変わらずクラブを削り続ける
【マイク・テーラーゴッドハンド年表】
1987年 ベンホーガン社へ入社
1990年 HTMスポーツ社のゴルフ部門へ移籍
1993年 インパクトゴルフテクノロジー社へ移籍
2001年 ナイキゴルフ開発部門へ移籍
2018年 アーティサンゴルフ社設立
英知の詰まった1本のウェッジは、削りから組み上げまで一貫してここで行われる。
マイク 特に重視するのは、柔らかな打感。炭素含有量の少ない低炭素鋼から鍛造したヘッドは、吸い付くような打感になります。
タイガーやリードだけではない。今や多くのプロが注目する理由のひとつだ。
ナイキ時代の膨大なデータを持つ
タイガーだけでなく、デビッド・デュバルや片山晋呉など、多くのプロとのデータが蓄積されるのは大きな強み。

写真上)タイガーのために作った、当時のクラブ 写真右下)タイガーのサイン
長年の経験で絞り込んだ…ロフトとソールの組み合わせは17通り
マイク バリエーションはロフトとソールタイプの組み合わせで17種類。これらの組み合わせで、ほとんどのゴルファーをカバーできるんだ。

タイガーの好みを知る男が削ったウェッジ
ナイキから声をかけられてもこの街を離れなかった
共同経営者となった2人が撤退までクラブを削り続けた、ナイキの“The Oven”は、なぜ本社のあるオレゴンではなく、遠くテキサス州のフォートワースで作られたのか。その答えは2人の郷土愛にある。

The Ovenとは
クラブ事業撤退前のナイキの工房。2人の強い希望でテキサスのフォートワースに作られたナイキの工房兼テストセンター。VRやSQなど多くの名作が、ここから生まれた
マイク 私とパートナーのジョンは、この業界で30年以上も働いていますが、この街を離れた事が一度もないんですよ。働くメーカーが変わるたびに西海岸や東海岸へ行く仲間が多いのですが、我々はずっとこの街でやってきました。

左)マイク、右)ジョン
職人としてのキャリアはベンホーガン社でスタートしたが、もちろん本社はフォートワースだ。
マイク 現代、アメリカのメーカーはモノ造りよりもマーケティングに力を入れているようですが、ベンホーガン社は自社で作ることを大切にしてきた会社でした。パーシモン時代には、工場内に木のいい香りが充満していましたよ。

ナイキ時代から、2人は多くの選手をバックアップし続けた
その後、2人はいくつかのメーカーを転々としたが、ナイキから声がかかった時、オレゴンへ移ることを固辞した。
ジョン フォートワースの方がオレゴンより気候もアクセスも良い。何よりテキサスには大勢の選手が住んでいます。

アーティサンゴルフ共同経営者兼クラフトマン ジョン・ハットフィールド。ナイキ時代から、マイクとともに職人としてクラブを削り続ける。主にパター製造を担当する
あくまでも選手との対話を重視する2人。プロとの信頼関係は、こうして結ばれてきたのだろう。
次なる「伝説」はすぐそこかも知れない
ナイキ撤退を受け、テーラーメイドと契約となったタイガーが、最初に使った“TGRプロト”と呼ばれるアイアンを使用してきた。
マイク このモデルは、私がナイキで最後に作ったアイアンです。
試合会場で見つけた最新セッティング
TGRプロト、PHASE1を経て、現在はテーラーメイド「P7 TW」というタイガー仕様のプロトアイアンを使用。

その後、タイガーの手は“TW PHASE1”と刻印されたアイアンを使ったが、これもまた、マイクが関与したモノだという。ただし、このような話は決してタイガーだけの話ではない。
当時のナイキ契約プロの一人だったトミー・フリートウッドは、学生時代からナイキのアイアンを愛用していた。契約フリーとなった現在もタイガーと同モデルのアイアンを使用している。職人の魂を手に“マイクの申し子”たちは、今後もツアー界を席巻するはずだ。
トミー・フリートウッドのアイアン記事はこちら↓

【申し子1】タイガー・ウッズ
テーラーメイドとの契約になった時もマイクは「あくまでも個人的に」助言。タイガーからの強い要望だろう

【申し子2】トミー・フリートウッド
学生時代よりナイキを使ってきたフリートウッドもまた、マイクのアイアンを使い続ける

【申し子3】アブラム・アンセル
マイクのウェッジに絶大な信頼を寄せる。「ソールの削りが良いよね。抜けが良いし、構えた時の安心感が良いね」と絶賛
トッププロが愛するクラブはウェブサイトから購入可能というが、世界中からのバックオーダーが殺到していて、納期は未定だとか。
「アーティサン」とはフランス語で職人のこと。人工知能が進化し続けても、腕利きの職人は廃れない。

月刊GD2019年5月号より
タイガーも戦ったライダーカップのコースでゴルフしよう↓