これまで何度もブームが来た中で、コーヒー通の間で現在のムーブメントは「第3の波」と呼ばれ、「第4の波がすぐそこへ来ている」と囁かれていることをご存知だろうか。今回は店主のこだわり具合に圧倒される練馬の名店「隠房」で、コーヒーブームの最前線を取材した。

ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです

コーヒーブームの「第1の波」は、なんと100年以上前

画像: 2015年「第3の波」では豆の産地を重視し、ハンドドリップで淹れるスタイルが主流となった

2015年「第3の波」では豆の産地を重視し、ハンドドリップで淹れるスタイルが主流となった

端的に説明すると、「第1の波」とは、戦後の高度成長期に訪れた最初のコーヒーブーム。1900年代初頭のアメリカは大量生産・大量消費時代の真っ只中。街には喫茶店が急増し、家庭でインスタントコーヒーが飲まれるようになった時代である。この波が日本に訪れたのは高度成長期、日本で缶コーヒーが発明された時代だ。当時、あまり豆の品質が問われることはなかったが、70年代に“シアトル系”と呼ばれるコーヒーチェーンが台頭したことで「深煎り・高品質豆」のコーヒーが全米に広がることになる。“量より質”を求める「第2の波」が日本を席巻したのは、おおよそ2000年頃である。

この頃からコーヒー豆の品質に対する意識が高まりを見せ、「豆からカップまで」という理念のもと、豆の違いや淹れ方などにこだわった“スペシャルティコーヒー”という概念が産声をあげ、世界のコーヒー好きたちは、次なる波に飲み込まれることになる。

2015年、日本に“ブルーボトルコーヒー”が上陸し、話題を集めたことを記憶している人も多いだろう。アメリカでも「第3の波」の時代では、豆の産地を重視し、その豆に合わせた焙煎を経て、ペーパードリップする淹れ方を取り入れるようになった。

そんな中、今回紹介するのは、ハンドドリップ研究家である栗原吉夫さんが淹れる“クールコーヒー”。その味を知るべく、店を訪れた。

スッと喉を通った後に、豆の旨みと香りが広がる

画像: ドリッパーから直接、氷の上へ落としていく

ドリッパーから直接、氷の上へ落としていく

「クールコーヒーは、コーヒー豆の風味特性、ようするにキャラクターを最も味わいやすい提供の方法です。違いは主に口に含んだ時に、口内から花へ抜ける香りと酸味に現れますが、その両者が最も際立つのがこの淹れ方なんです」

ドリッパーから直接、氷の上へ落としながら、栗原さんは言う。ちなみに豆の特性を最大限に引き出すためにベストな時間は2分40秒ほど。

画像1: スッと喉を通った後に、豆の旨みと香りが広がる

「ハンドドリップなら、苦みや渋みといった“コーヒーらしさ”を抑え、風味特性を際立たせることができるのです。飲んでいただくと分かると思いますが、クリーンで雑味のない味で、ブラックが苦手な方にも喜んでいただいています」

豆の個性を引き出す3工程

画像: グラスにたっぷりの氷と水を少量

グラスにたっぷりの氷と水を少量

画像: ムラなくそっと少しずつ抽出

ムラなくそっと少しずつ抽出

画像: 冷水で好みの濃さに調整

冷水で好みの濃さに調整

ガムシロップを入れ、ミルクをたっぷり入れるのが、一般的なアイスコーヒーのイメージだろう。だが、これではコーヒー豆の本当の特性をスポイルしてしまう。20年近く研究を続ける中で、栗原さんは“日本料理の真髄”に思いが至ったと言う。

「注湯をコントロールして抽出するハンドドリップは、日本特有の淹れ方で、世界的に類を見ません。雑味を除き、旨みだけを抽出する。これって日本料理の出汁の取り方に通じるものなんですよ」

骨や肉を煮出し、すべてのエキスを水分へ移す西洋のスープに対し、日本の出汁は旨みだけを取り出す。澄んだ出汁の旨みに親しんでいる日本人の舌だからこそ、雑味のないクールコーヒーの味わいを理解できる、ということだ。

3分ほど経過し、「カラン」という氷の音とともに喉を通すと、澄み切った“コーヒー豆の一番出汁”を感じる。世界が待ちわびる“新たな潮流”が間近に迫ってきていることをはっきりと感じた。

画像2: スッと喉を通った後に、豆の旨みと香りが広がる

クールコーヒーにピッタリ
合わせて頼みたい名店のガトーショコラ

画像: クールコーヒーにピッタリ 合わせて頼みたい名店のガトーショコラ

コーヒー以外の唯一のメニューは、店主が知り合いということで、特別に卸してもらっている行列店のガトーショコラ。ビターな甘みと雑味のないコーヒーの組み合わせは病みつきになる

「隠房」
豊島園駅から徒歩約5分
ペーパードリップ教室も好評
神田小川町から現店舗へ移転した2001年以来、店舗営業のかたわら行うスクールには日夜、熱心な生徒が集まる。
●東京都練馬区練馬4-20-3
●03-6914-7248
●営12:00〜19:00
●火曜定休

月刊GD2019年9月号より

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