近年、世界各地のプロツアーで男女を問わず、タイ出身ゴルファーが目覚ましい活躍を見せている。それも年齢は10代後半や20代前半の“新鋭”ばかり。その真相に迫った

2019年、世界中でタイの選手が大活躍!

画像: ニッポンハムレディスで優勝したS・ランクン(19歳)

ニッポンハムレディスで優勝したS・ランクン(19歳)

ニッポンハムレディスでタイ出身の19歳、S・ランクンが、日本が誇る黄金世代・河本結らを逆転で下しツアー初優勝を挙げた。

「プレッシャーから解放されて思わず涙が出ました。日本のツアーは世界レベルのツアーだと聞いていましたし、ここで戦えること、勝てたことが嬉しい。私の夢がひとつ叶いました」。そう言って、ほおを濡らした彼女のかたわらにはキャディを務める父の姿が。

アジア 各国で腕を磨き「世界レベルの日本での優勝」を合言葉に親娘で歩んだ苦労の記憶が報われた瞬間だ った。彼女の例を挙げるまでもなく、今年は世界の各ツアーで、タイのプレーヤーが目覚ましい活躍を見せている。

画像: 男子ツアー開幕戦のシンガポールオープンで優勝したJ・ジェーンワタナノンド

男子ツアー開幕戦のシンガポールオープンで優勝したJ・ジェーンワタナノンド

国内男子ツアーではJ・ジェーンワタナノンドが開幕戦のシンガポールオープンで優勝。全米プロでも上位争いを演じ目下、賞金ランクのトップを邁進中。

またプロ仲間からスウィングを賞賛されるP・マークセンは、3年連続シニアの賞金王。レギュラーツアーでも、出場全試合予選突破中と安定した実力を発揮する。

海外に目を向けると、米女子ツアーではジュタヌガン姉妹が躍動。とくに、妹のアリヤは、2018年、全米女子オープンを含む3勝を挙げ、主要部門で5冠に輝きESPN(スポーツ専門チャンネル)の『世界で最も有力なアスリート20人』にゴルフ界からただひとり選ばれている。

国内ステップアップツアーには史上初となる3試合連続優勝を飾ったN・スカパンがおり、ちょうど2年前欧州女子ツアーのタイ選手権を女子ツアー史上最年少の14歳で制したアマチュアのA・ティティクルは今年、同ツアーで2勝目を挙げた。

画像: 世界ランク1位にもなったA・ジュタヌガン

世界ランク1位にもなったA・ジュタヌガン

「世界ジュニアで優勝したとき、タイガー(・ウッズ)の背中が見えた気がした」というのは、世界ランクトップ30(現在52位)の経験もあるタイのエース、K・アフィバーンラト。「タイガーのお母さんは生粋のタイ人。タイの血が流れる彼の存在に僕らは触発されてきました」

タイガーに触発されたアフィバーンラトが、その背中を追いかけ、ジェーンワタナノンドが世界を目 指し、女子では、ジュタヌガン姉妹に刺激を受けた若い世代が、目の色を変えている。若手・ベテラ ンと各世代が入りまじった相乗効果でタイの選手たちは上昇気流に乗っているのだ。

タイには世界基準のゴルファーを生み出すシステムがある

タイのゴルファー育成事情に詳しいアジアジュニアゴルフ協会代表理事・吉岡徹治氏は日本とタイの決定的な違いを「ハングリー精神」という。「日本のジュニアたちは、全国レベルでも“いい成績を収めればいい思い出になる”という程度の意識で、試合に出ている子が多いですが、タイの子たちには、そういった空気感で戦っている子たちは、ほぼいないと言っていいでしょう。タイのジュニアにとって、試合は人生を決める大一番なのです」

画像: シンハーパークGC(7502y・P72)。バンコクから車で8時間のコンクンにある。コースのほか宿泊施設が完備され、随時合宿を行っている。サポート体制も充実したジュニアゴルファーのための「虎の穴」だ

シンハーパークGC(7502y・P72)。バンコクから車で8時間のコンクンにある。コースのほか宿泊施設が完備され、随時合宿を行っている。サポート体制も充実したジュニアゴルファーのための「虎の穴」だ

彼らは大会で上位に入り、国内のジュニアゴルフボードランキングの上位に入るという明確な目標がある。ランキング上位なら米国の大学からフルスカラシップ(学費免除)の入学案内が届く。

「誰が どの大学にリクルートされたのか、ジュニアの大会の会場でアナウンスされます。それが彼らにとっての栄誉でもあるのです」と吉岡氏は続ける。米国の大学に行けば、努力次第で将来の道が飛躍的に開ける。一方で、一般的にタイは賃金が低く、タイ国内でゴルフを「生業」として一家を養い、支えていくのは難しい。

だが、現在、日本ツアーの賞金ランキング 1位のジェーンワタナノンドのように、世界で結果を出せばタイの英雄になれる。貧困から抜け出し「家族を支えるため」の約束手形を得ることになるのだ。「ジェーンワタナノンドは『タイの石川遼』と呼ばれるほどに、ジュニア層を中心に人気があります。中学を出た後、すぐにプロゴルファーとなって、世界各地のツアーを転戦し、賞金を稼いで生計を立てていく。そんなサクセスストーリーを夢見る親子は、タイで、どんどん増えていますね」

ハングリー精神以外にもタイ勢の強さを支えているものがある。それはタイ国内最大のビールメーカ ーで、64の関連企業を持つ財閥・シンハーグループのサポート。ゴルフに造詣が深い社長が、ほぼすべてのジュニアに支援を行っており、能力が認められると、試合にかかる遠征費など経費を企業が全面バックアップしている。

画像: 日本のシニアで無敵の強さを発揮するP・マークセン。タイのスラムに生まれ、生活を支えるためにキャディになった

日本のシニアで無敵の強さを発揮するP・マークセン。タイのスラムに生まれ、生活を支えるためにキャディになった

P・マークセンが貧困から脱出 できたのも、社長がキャディをし ていた彼を気に入り、ゴルフを職業とすることを夢見ていたマークセンに資金的援助を申し出たことがきっかけとなった。「シンハーだけではありません。タイや東南アジアの人々たちにとって、日本や米国で何かしらの成果を残すということは、特別なこととして、尊敬の対象になるのです。自分たちの国を代表する特別なトップ選手が“最高峰”と呼ばれる舞台で、勝つことは、タイの人たちにとっては、ものすごく誇れる出来事としてとらえられます。当然、そういった選手には、タイの石油公社や航空会社など、さらにいろいろな企業からのサポートを受けることができるようになり、裕福になっていくのです」」

また、環境面でも、タイは強みを持っている。気温は年間を通じて温暖で、ゴルフをするのに適しており、コースのコンディションは、世界的にも安定した評価を得ている。そのため、メジャーツアーの大会が頻繁に開催され、プロの試合並みの高速グリーンや、難しいセッティングを数多く体験できるのもタイゴルファーの強みとなっている。

2000年以降に設計造成されたコースが数多くあるのも特徴、現在もコースが増えている。つまり、「世界基準」コースが圧倒的に多く、ジュニア時代、そこで腕を磨いた選手は、PGAツアーやLPGAツアーに行ってもコースセッティングに戸惑いがおきない。いつもどおりのプレーをすることができる。

画像: サイアムCC PINEAPPLE 2H(566Y・P5)

サイアムCC PINEAPPLE 2H(566Y・P5)

男女問わず、各世代に目標とすべきヒーローがいて、子どもたちは、ジュニア時代から高い目標意識を持って切磋琢磨する。それを支援する企業のサポートも充実し、ゴルフの技術を磨くための環境も 整っている。となれば、タイ勢の躍進も納得がいく。

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週刊GD2019年8月6日号より

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