「笑顔」で世界中を魅了し「スマイル・シンデレラ」と名付けられた渋野日向子。その「笑顔」には、どんな効果があるのか。「笑顔」のチカラを徹底検証するため、実験ラウンドを行い、専門家にじっくり話を聞いた。

笑顔で優勝をつかんだ

ジュニア時代から「笑顔」を大切にしていたという渋野本人は、「笑顔」の効果をしっかり感じているようで、自身の強さの秘訣を「最終日最終組でも笑っていられることかも。スマイル・シンデレラはよく言い過ぎかと思いますが」と語っている。

5月のサロンパスカップで初優勝したときも、勝因に笑顔を挙げ、その後、資生堂アネッサレディスで2勝目を挙げる前、結果が出ない時期は逆に笑顔を忘れてしまったとも語る。渋野は、表情だけを変えてリラックスモードと真剣モードの切り替えも行う。

「学生時代は喜怒哀楽が大きかったので、プロテストに受かって青木(翔)コーチに習い出して始めた。切り替えがちゃんとできるようになったのは、サロンパスカップかな」

そして、初の海外挑戦、全英女子オープンでは、普段通りにプレーするため、ゴルフを楽しむため
に、笑顔が役立った。その笑顔が、全英オープンのギャラリー、画面を通して世界中の人をも魅了した。

シブコの強さを作ってきた「笑顔」について、各界の専門家たちも絶賛する。確かに、笑顔にはパワーがありそうだし、他のスポーツ選手のインタビューでも「笑顔のチカラ」をよく聞く。では、表情が出にくいタイプの人間はどうするの?

画像: 「いろんな人にこの笑顔で知っていただけました」(渋野)

「いろんな人にこの笑顔で知っていただけました」(渋野)

作り笑顔でもOK? 笑うタイミングは? 我々が自分のゴルフに役立てるためにどうすればいいか。まずは、実際に「笑顔ラウンド」をしてみた。

専門家たちも「しぶこ笑顔」を大絶賛

「世界共通、ダイレクトに伝わるのが笑顔の持つ力。初対面でも海外でもコミュニケーションのツールに使えます。全英での渋野選手がそうでした」――メンタルトレーナー

「渋野選手のあの笑顔は、副交感神経を上げます。だから、リラックスできる。自律神経が整うと五感が鋭くなるんです。これもゴルフには役立ちますよね」――自律神経の専門家

「嫌味のない顔の作りなのもありますが(笑)、笑ったとき口角が上がるのがとてもいい。でも、集中するときは柔道の松本薫選手のように野獣の顔になって目が鋭くなる。オンとオフがあるのもいいんです」――プロコーチ

【前半】笑わないようにラウンド

「笑顔」ナシの前半。スタートホールから皆異様に口数が少ない。プレーが進むごとに暗く沈んだ空
気が漂う。ハーフ終了後、4人が口をそろえたのは「まず言えるのは、楽しくない!」だった。

画像: 萩原さんと長岡さん

萩原さんと長岡さん

【実験方法】
前半と後半を笑顔の有無でラウンド。参加メンバーは4人。
長岡典高さん(44歳・平均スコア100)
萩原菜乃花さん(23歳・平均スコア85)
原田保夫さん(60歳・平均スコア95)
担当記者Y(48歳・平均スコア98)

長岡 僕は結構にこやかなタイプ。緊張からか最初に調子が出ずそのまま落ちていった感じです。空気が悪いから、ミスすると「怒ってるのかな」と焦ってしまい「早く打たなきゃ」となる。この空気だと誰も教えてくれない(笑)。視野が狭くなり、周りが見えなくなる感じもある。いいことなし。

原田 普通はミスショットしても、誰かが和ませてくれます。いつも、ミスしてはしゃいで怒られるから、笑わないとショットに集中できていいかなと思っていた。確かに最初の1、2打はよかったけど、結局ミスの回数が増えた。人間、笑わないと話さなくなる。息もできないくらい。苦行です。

萩原 歩くときやカートの中が何だか辛い。気持ちも沈みます。ただ、私は結構人とおしゃべりしすぎちゃうので、ゴルフには集中できるかも。でも、いつもミスの後は、誰かとしゃべって切り替えていたんですけど、それができないから気持ちが落ちっぱなしです。

画像: 空気が重く、普段は言う「ナイスショット」すら上手く出てこない。5番で我慢ならず、なるべく話をするようにしたが雰囲気は戻らず。「笑わないのって、案外ストレスですね」(長岡)

空気が重く、普段は言う「ナイスショット」すら上手く出てこない。5番で我慢ならず、なるべく話をするようにしたが雰囲気は戻らず。「笑わないのって、案外ストレスですね」(長岡)

記者Y 表情をなくすと、顔がどんどん下向きになって、気持ちも下向きに。人のプレーも見なくなる。1打には集中できる気もするけど、会話が減るぶん、自分のプレーをアレコレ考えて、それがよいのかどうか。何だか動きも鈍くてアプローチで特に突っ込めない。

【後半】なるべく笑顔でラウンド

「笑顔」アリの後半。まず出た言葉が「楽しくいきましょう!」。不思議なもので「ナイス!」「惜しい」など掛け声も自然に出る。

画像: 笑顔ラウンドで検証

笑顔ラウンドで検証

長岡 気がラクになり、だいぶ肩の力が抜けてきた感じ。笑顔だとやっぱり力って抜けるんですね。

画像: 「肩の力が抜けてくる」(長岡)

「肩の力が抜けてくる」(長岡)

記者Y 口角を上げる意識だと顔が上を向くから、気持ちも上がる感じ。ルーティンに組み込むといいかも。リラックスできるし、クラブを振れるようになった感じです。

萩原 やっぱり、笑ってるほうが単純に楽しい! ただ、ずっと笑っているのは大変だから、場面で表情を変えるのがいいかも。ミスして笑うのは難しいけど、できたらすぐに切り替えられて、もっとゆとりを持ってプレーできそう。

画像: 「ミスの切り替えに使える」(萩原)

「ミスの切り替えに使える」(萩原)

原田 笑う、笑わない、どちらも強制されると感情のコントロールができませんね。ただ、最終ホールは何も考えないようにしたら、チップインパーが取れちゃった。

記者Y 最後、3Wで最高のショットが出てパー。思わず自分で「ナイス!」と自然に笑えました。

%%萩原%%{pink あれ、よかったです。心からの笑顔を見たら、周りも笑顔になるんですね。

画像: 【後半】なるべく笑顔でラウンド

検証結果
長岡  (笑顔なし)62・(笑顔プレー)51
萩原  (笑顔なし)43・(笑顔プレー)44
原田  (笑顔なし)54・(笑顔プレー)50
記者Y  (笑顔なし)53・(笑顔プレー)48

スコアは、萩原さんは1打ダウンするも、あとの3人は後半大幅アップ。「笑顔ラウンド」にはいろいろな発見があったのだった。

ILLUST/Masaya Ito
PHOTO/Yasuo Masuda、Norimoto Asada、Shinji Osawa

週刊GD2019年9月24日号より

笑顔でゴルフは変わるのか? 専門家たちにも聞いた(後編)に続く

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