アマチュアは速く振ろうとすると、ギュッと腕に力を入れてしまう。しかし、それでは「かえってヘッドは走らない。かといって、脱力して体のパーツをブラブラにすればいいというものでもない」と湯原信光プロ。「迷ったとき、ユハラに帰れ」の第21話は、ヘッドを走らせるために……。

前回、第20話のお話

【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。

【湯原信光プロ】
ツアー7勝、シニアツアー1勝の日本を代表するショットメーカー。とくにアイアンショットの切れ味は、右に出るものはないと言われた。現在は東京国際大学ゴルフ部の監督も務め、後進の指導にも力を注いでいる。

湯原 以前、「プロは深いラフで手首を痛めることがあるけれど、アマチュアが痛めることは滅多にない」という話をしましたよね。

GD アマチュアの場合、「手首に負担が掛かるほどヘッドスピードを上げることができないから」でしたね。それに、プロでも筋力がある人ほどダメージを受けやすいという印象があります。

湯原 外国の映画で、腕相撲していて骨折してしまうというシーンを見たことがありますが、筋力ばかりがめっぽう強いと、場合によっては骨が支えきれないほどのカが出てしまうこともあります。

GD 普通の人は、そこまでの筋力はありませんよ。

湯原 今のは、強い力が入りすぎるとケガをする危険があるという、あくまで例え話です。話をゴルフに戻しましょう。アマチュアはラフの抵抗に負けないように一生懸命力を人れて振っています。でも、それと同時にギュッと力を入れてクラブを握ってしまうから、力のわりにクラブヘッドが走らない。逆説的になりますが、それで手首にも負担がかからないわけです。

リストの柔らかさがヘッドスピードに関係する

GD 「力を入れなくちゃ」と思うと、筋肉が強張って、かえってヘッドスピードが出なくなってしまうんですね。

湯原 プロは、力を入れようとするのではなく、どうやったらヘッドスピードを加速させて振り抜けるか、その術を知っています。リストを柔らかくしておいて、バーンとヘッドを走らせるんです。だからときには、手首を痛めるほどの抵抗を受けてしまうのです。通常は体に危険が及ばないように、リミッターのようなものが働いて制御しているのですが、プロは場面に応じてそのリミッターを外すことができるんです。

GD カを抜いて、肩や手首の関節を柔軟に使うというのが、ヘッドを加速させるコツなんでしょうか?

湯原 脱力とは違うんですよ。脱力しすぎて肩、ひじ、手首といったパーツがブラブラの状態ではクラブを正しく使えませんからね。かといって、ギュッと握ったのでは筋肉が硬直して、ヘッドを走らせることができません。

湯原 筋肉には、ヘッドスピードを出すのを邪魔しないぐらいの、ほどよいテンションが必要なんです。この感覚は、なかなか言葉で表すのは難しいですが……。私の考えでは、アウターマッスルとインナーマッスルのバランスが大切ではないかと思っています。

GD アウターマッスルは外側に見える筋肉で、インナーマッスルは体の内側にある筋肉のことですね。

画像: ラフでもリストを柔らかくしてバーンと振りたい。ただし、「柔らかくと言っても手首をブラブラにするのではなく、ヘッドスピードを出すのを邪魔しない程度のほどよいテンションは必要。大切なのはアウターマッスルとインナーマッスルのバランスです」

ラフでもリストを柔らかくしてバーンと振りたい。ただし、「柔らかくと言っても手首をブラブラにするのではなく、ヘッドスピードを出すのを邪魔しない程度のほどよいテンションは必要。大切なのはアウターマッスルとインナーマッスルのバランスです」

湯原 重いダンベルなど負荷の大きな器具でトレーニングをすると、アウターマッスルばかりが強くなってしまいます。それでは、ギュッと力を入れることができても、筋肉が硬直してしまい、動きのスピードは出ません。それで最近では、軽い器具でインナーマッスルに刺激を与えるトレーニングをする選手が増えています。

湯原 アウターマッスルとインナーマッスルをバランスよく鍛えれば、力もスピードも出せるようになるのです。例えば野球のピッチャーは、それをバランスよく上手に使っていますね。肩、ひじ、手首の関節を柔らかく保っていないと速球は投げられませんから。

ヘッドを走らせる感覚を覚える

GD しかし、人間はアウターマッスルだとかインナーマッスルだとかを、意識的に使い分けることができませんよね。どうしたらいいのでしょうか?

湯原 まずは、ヘッドを加速させて「ビューンッ」と走らせる感覚を覚えることが大切です。陸上競技のトレーニングを例に説明しましょう。昔は、腰にひもを括り付けてタイヤを引っぱって走るような、後ろから負荷をかけるトレーニングをやっていました。しかし、今では逆に、前から引っ張って速く走る感覚を筋肉に覚えさせるようなトレーニングをするように変わってきています。10秒台で走るランナーに9秒台で走る筋肉の動きを体感させるわけです。

GD それがゴルフにも応用できるということですか?

湯原 はい。クラブは重いものより軽いもののほうが速く振ることができますよね。例えば、ドライバーのヘッド側を持って「ビューンッ」と振ってみると、いつもよりものすごく速く振ることができます。その速く振る感覚を覚えておいて、今度はグリップ側を握って振るんです。こうして「軽い・重い」の素振りを交互に繰り返していくうちに、「ビューンッ」と振ったときの体の動きや感覚が体に定着していき、速く振る感覚が自然と身についていくんです。

GD とにかく速く振るという感覚に体を慣らしていくわけですね。

湯原 ただし、最初は効果があるけれど、段々と元の飛距離に戻ってしまうという人が多いようです。筋肉がラクをする方向に向かってしまうからだと思います。だから、このドリルは毎日繰り返すことが大事です。そういうドリルを行うために、極端に軽いバットや重いバットなども市販されています。でも私は、バットだとシャフトがしなる感覚を感じられないので、しなりのある素材のほうがいいと思いますね。

GD できればグリップなども本当のクラブと同じ作りのもののほうがよさそうですね。

湯原 もちろん、そういう練習器具があれば、ドリルとして使ってもいいと思います。ただし、キャディバッグに人れっぱなしで、ラウンド途中で使用するとルール違反になってしまうので注意しましょう。ドライバーを逆さまに持って振るだけでも十分効果がありますよ。ティショットを打つ前に「ビューンッ」と音がするように素振りして、実際に打つときにその音が再現できれば、ヘッドが走った証拠です。

GD よく「風切音はフォローで鳴るように振れ」と言いますが、その辺も注意するべきですか?

湯原 いや、とりあえず音がすればいいでしょう。

GD こうしてヘッドスピードを上げることが、ドライバーのベストパフォーマンスを引き出すのに必要なことなんですね。

画像: ヘッドを走らせる感覚を覚える

週刊GD2013年より

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画像: golfdigest-play.jp
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