飛はしに大切なことを聞くなかで、ある体験談を語りだした湯原信光。飛距離を伸ばすために経験から見出した脳内メカニズムのエピソードだ。情報の処理によって筋肉の動きが変わる、体の動きが変わるというが、一体どんなもの?

前回、第22話のお話し

【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。

【湯原信光プロ】
ツアー7勝、シニアツアー1勝の日本を代表するショットメーカー。とくにアイアンショットの切れ味は、右に出るものはないと言われた。現在は東京国際大学ゴルフ部の監督も務め、後進の指導にも力を注いでいる。

数字が脳を刺激し筋肉に伝わる

GD ドライバーの飛距離は野球で言うところの「地肩」みたいなもの。どんなに頑張っても人それぞれに限界がありますよね。

湯原 そうですね。マスターズチャンピオンのバッバ・ワトソンみたいな飛ばし屋が、思いっきり振れば350ヤードはいくでしょうが、私が今頑張っても、条件が揃って300ヤードが精いっぱいです。それもキャリーで280ヤードあとの20ヤードはランです。

GD プロゴルファーは、普通は7割ぐらいの力で振っていると聞きますが、ときには「ここは飛ばしたい」という場面がありますよね。飛ばしたいとき、プロはどんなことをするんですか。

湯原 どうしても2オンさせたい試合終盤のパー5などでは、7割を超える力でヘッドスピードを上げていつもより飛ばすことはあります。そうそう、飛距離といえば、最近こんなことがありました。トラックマンという弾道解析装置です。

GD レーダーでボールを追跡し、飛距離をはじめ、キャリーとランを含めたボールの軌跡と、ヘッドスピードやスピン量など、ショットのあらゆるデータを瞬時にパソコンに表示できる装置ですね。

画像: 数字が脳を刺激し筋肉に伝わる

湯原 トラックマンの開発関係者の立会いのもと、その性能をテストしたんです。そのとき、私はちょっと指を痛めていたので、まずはドライバーで軽く打ったんです。飛距離をまったく気にせずにね。そうしたら、「あれっ?」と驚くような低い数値が出たんです。

湯原 いくら軽く振ったとはいえ、予想よりもはるかに飛んでいなかった。何発か打ってみて、どの打球も方向性はものすごくよくて、ほとんどブレなく近い場所に飛んでいたんですけど……。どうして飛距離だけが出ないのか、とても不思議でした。

GD よく「軽く振ったほうが飛ぶ」と言いますが、一概にそうでもないんですね。

湯原 テストを進めていくなかで、トラックマンのスタッフが「170ヤード地点へ打ってください」と言うので、6Iで打ったんです。私のアイアンは昔のままのロフトですから、一般的には7Iに相当するクラブです。170ヤードを意識して打った1球目。なんと、びったりパーフェクトが出たんです。

GD 距離も方向も170ヤードピッタリ飛んだってことですか。

湯原 そのとおり。トラックマンのスタッフが「(宣言どおりの距離を一発で打つなんて)こんなの見たことがない」とびっくりしていました。私が思うに、「170」という数字を聞いた瞬間、反射的にその距離に意識が反応したんでしょうね。同時に、どこが痛いのかも忘れてしまったんでしょう。

湯原 この出来事の前に、何も考えずに6Iで打っていたときは、165ヤード前後の数字でしたから。このエピソードから考えられるのは、明確な数字が脳ヘインプットされると、反射的に脳から筋肉へ、必要なだけの運動をさせる「より明確な指令」がいくということです。

脳には肯定的な指令を出そう

GD 脳に距離がインプットされないと、目指すパフォーマンスが発揮できないということ?

湯原 そういうことだと思います。脳に具体的な数字とか目標を与えなかったら、筋肉の反応は鈍いということなんです。たとえば、ドライバーを持って、どこまでも可能な限り飛ばそうと思って打つのと、280ヤード飛ばそうと思って打つのでは、結果は違ってくるでしょう。

湯原 テストの初めにポンポと軽く打っていたとき、そこそこ飛んでいると思ったのに飛んでいなかった理由が、ここにあるんだと思いました。

GD たとえば、池越えのドッグレッグといった、ティショットでも飛距離の精度が求められるような場面はしばしばあります。

湯原 ただ漠然と「池を越えよう」というのと、「池の先のあそこへ打とう」というのでは、脳から筋肉へ送られる指令が違うのだと思います。そういう明確な飛距離の数値目標が、ショットの精度を高めるんです。

湯原 これは数値目標に限った話ではありません。右にOBがあるホールで「右はダメ!」と思っているのにボールが右に飛んでしまうことってありますよね? そのワケは、脳は「イエス(右はよし)」「ノー(右はダメ)」は判断しないで、「右」だけを認識し、筋肉に指令を出してしまうためなんです。

湯原 この場合は、「右はダメ」という「やってはいけない」否定的な指令ではなく、「左へ打つ」という「やるべき」肯定的な指令を出すべきなんです。

画像: 右OBのときは“左に打つ”と肯定的にとらえる

右OBのときは“左に打つ”と肯定的にとらえる

あそこは「ダメ」よりも、あそこに「飛ばす」

GD アマチュアでも、飛ばしたい場面では「ただ飛べばいい」ではなく「あそこへ打とう」という明確な目標意識が必要ということ?

湯原 最も効率よく振って、最大のパフォーマンスを発揮するには、正しい指令を脳から筋肉に出してもらわなければなりません。それは、アマチュアもプロも同じです。

湯原 今のクラブでは、ただヘッドスピードが速いだけでは飛びません。飛距離を出すためには、ヘッドの入射角などが重要になります。それでボールのスピン量と打ち出し角が決まるわけです。ヘッドスピードに、最も合理的な人射角と当たりどころがマッチして、その人の最大の飛距離が出るわけです。

GD 打ち出し角とスピン量が適正でないと、いくら強振しても思いどおりの飛距離は出ないんですね。

湯原 これは、使っているクラブヘッドの構造、シャフトの特性、使用球など様々な要素に、その人のスウィングタイプやヘッドスピードという要素も加味されるので、一概にこれが正しいとか、こうすれば最大の飛距離が得られるとかは言えないんです。

GD それぞれのベストマッチを探らなければならないということですね。

湯原 一般に「スピン量が少ないほうが飛ぶ」と言うように、回転数が多すぎると吹き上がって距離が出ません。

湯原 回転数が少なすぎても失速してしまい、飛距離は出ない場合もあります。では、どれぐらいが適切かというと、打ち出し角とヘッドスピードとの兼ね合いがあるから、ひとくくりに答えるのは難しいのです。

GD 使っているクラブやボールが自分に合っているかも検討しなければなりませんね。

湯原 そうです。クラブヘッドの構造から、シャフトのフレックスやキックポイント、トルク、そしてボールの性能。これらが果たして自分に合っているのかを見極めるところから始めないと、「さあ、このホールは飛ばしていこう」と思っても、気持ちが空回りするだけです。ボールによっては、私が打ってもびっくりするぐらい失速してしまうものもありますから。

湯原 クラブもボールもあまりにも多岐にわたって進化しているため、選択肢が多い反面、自分に合った道具を選ぶのが難しくなったとも言えるかもしれません。

画像: 道具選びは振りやすい番手を基準に選ぶ

道具選びは振りやすい番手を基準に選ぶ

GD プロの場合は、クラブにしてもボールにしても、いろいろと試すチャンスがありますが、アマチュアはそうはいきません。

湯原 パターは別にして、13本のセットのなかでいちばん振りやすいクラブを基準にするといいと思います。その打感とか振り心地を基準にして、13本のセットを揃えるようにするのです。

湯原 クラブ選びは、とにかく基準になる1本がないと、プロでさえ迷路に入り込むことがありますからね。ポール選びはそれからあとの仕事です。

GD 飛ばしたいとき、アマチュアの場合はまずはヘッドスピードとかスウィングタイプといった自分の特徴に合った道具を手にすることも前提というわけですね。

週刊GD2013年より

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