最新の中空アイアンは
やさしくて飛ぶだけじゃない
中空アイアンの歴史は、「フォーティーン」の創業者であるクラブ設計家、故・竹林隆光氏(2013年死去)の功績を抜きには語れない。
竹林隆光氏は、横尾製作所に勤務していた1980年に、現代中空アイアンの祖となる、「グランド・シルバード」を商品化した、まさに中空の父。
その後、1988年には、名器として語り継がれるプロギア「インテスト」を設計。2000年代に入り、中空ロングアイアン、「HI–858」が世界的ヒットクラブになるなど、中空構造の進化に貢献した。
1988年、ロングアイアンをやさしくするために考案されたプロギア「インテスト」が発売。ネックと一体型のステンレスボディにカーボンフェースを組み合わせ、赤茶色のカラーリングなど当時としては斬新だった。性能の良さでじわじわ人気が広まった。
その進化はとどまるところを知らず、かつては、ともすれば「異端扱い」されることも多かった中空アイアンが、いまやプロからアベレージゴルファーまで、「カッコいい」「やさしい」といった普通の尺度で選ばれるカテゴリーのひとつとなった。
クラブの知識が豊富で過去から現代まで、ほぼすべての中空アイアンを試打している堀越良和プロは、
「現代の製造技術があれば、ヘッ ドサイズを大きくしなくても、中空構造で深重心のモデルが作れますし、ヘッドをコンパクトにする必要がなければ(アベレージゴルファーを対象にしたモデルであれば)、もっとやさしい構造にできます。これによって、プロ、トップアマが使っても十分満足できるモデルから、アベレージゴルファーがやさしくゴルフをエンジョイできるモデルまで、幅広いラインナップが可能になったと言えます」と分析する。
中空アイアンのメリット&デメリットをおさらい
メリット①慣性モーメントが大きくなる
バックフェース部を覆う部品は周辺接合部が重くなるためキャビティバックと同様の周辺重量配分効果が得られ、重心深度の深さと相まって慣性モーメント値が上がる
メリット②重心深度が深くなる
中空構造は重心深度が深く、打点のズレに対してもある程度許容性がある
デメリット①重心が高くなる
バックフェース側の部品がトップブレードまで覆う形状のため、重心が高めになりやすい。
デメリット②打感が悪くなる
内部が空洞のため、太鼓のように音が反響してくぐもった音になりやすい。最近は構造自体の見直しや充填剤の改良で改善している。
デメリット③価格が高くなりやすい
複数の部品や異素材を組み合わせるため、部品コストや製造コストが高くなりやすい
とりわけここ数年は、各メーカーとも上級者が好むすっきりした形状で、見た目には「本当に中空アイアンなの!?」というようなスタイリッシュなモデルを発表する傾向がある。
「タイトリストの『T-MB』のように、トッププロの使用も視野に入れたマッスルバック並みの精悍さを持つモデルというのが、これからの中空アイアンの重要なトレンドになると思います」
2002年、全英オープンでアーニー・エルスがフォーティーン「HI-858」を使用して優勝。中空アイアンの人気が高まり、マグレガー「マックテックNX(写真左)」など多くのアマチュア向けモデルが生まれた。
2015年、タイトリストから発売された上級者向けの中空アイアン「716 T-MB」(写真右)はアダム・スコットのバッグに入る。見た目と機能を両立させたモデルが続々登場。
中空アイアン最大の難点といえば、打音が悪い(=打感がよくない)ことでしたが、製造技術の進歩でそこが解消されたのが大きい。
「もともとロフトが立ったロングアイアンで、いかにやさしく球を上げるかということが中空アイアンの命題だったわけですが、その性能が、ストロングロフト傾向にある現代のアイアン事情にもぴったりマッチしています」と堀越プロ。
一部のゴルファーのための、いわゆる「お助けクラブ」的な存在から、幅広い層がそれぞれの「打ちやすさ」を感じられるクラブへと進化を続ける中空アイアン。最新モデルの性能を試打で探っていくことにしよう。
上級者向けモデルが増えてきた!
マッスルバックはもうしんどいな…
そう感じる人には中空が最適です(堀越)
最新の中空アイアンを、あえて2つに分類するなら、プロモデルとそん色ない「見た目」を持つ高機能タイプと、「高慣性モーメント&深重心」という中空構造のメリットを追求した、飛距離・や さしさ重視タイプに分かれる。
「タイトリスト『T200』や、テーラーメイド『P790』、オノフ『フォージドKURO』は前者、ピン『G710』や、ホンマ『ツアーワールドXP-1』、つるや『GOLDEN PRIX TX-1』が後者。コブラ『キング フォージドTEC』は、その中間のアスリートタイプという感じです」と堀越プロ。
タイトリスト「T200」
上級者でも確実に満足できる見た目と打感
タイトリスト「T200」
マッスルバックと遜色ない打音と打感。セミストロングロフトだが、球は上がりやすく、ロフトなりの飛距離が出る。弾道を操るというより、高い直進性でコース攻略が簡単になるタイプ。バウンスの機能により、インパクトゾーンでヘッドが長く直線的に動く印象。
構えやすさ 5/5(5点満点)
上がりやすさ 4/5
ミスの寛容性 3.5/5
飛距離 4.5/5
打感 5/5
テーラーメイド「P790」
しっかりした手ごたえのアスリート向け中空アイアン
テーラーメイド「P790」
しっかりした手ごたえのアスリート向け中空アイアン
今回試打した7モデルの中では、最もアスリート向けの性能。「やわらかい」とは違う硬質でしっかりした打感。フェースの後ろの溝の効果で低重心になりすぎず、球が上がりすぎない。ショートアイアンにマッスルバックを組み合わせも違和感がない。
構えやすさ 5/5
上がりやすさ 4/5
ミスの寛容性 3.5/5
飛距離 4/5
打感 4.5/5
オノフ「フォージドKURO」
弾道安定性が高く抜けがいい。上級者向け中空アイアン
オノフ「フォージドKURO」
見た目は少しだけ大きめのブレードアイアンという印象。ダウンブロー&ハンドファーストで、しっかり押さえつけて打つと、最高レベルの弾道安定性を発揮する。リーディングエッジ側のソールが絶妙に落としてあり、ヘッドの抜けが抜群。飽きのこないデザインで長く使えそう。
構えやすさ 5/5
上がりやすさ 4/5
ミスの寛容性 3.5/5
飛距離 3.5/5
打感 4.5/5
中空構造は、重量をソール側に集中できるアンダーカットキャビティなどに比べ、重心が高めになるのが特徴だが、
「ヘッドのサイズメリットが大きいピン以外の6モデルは、内部にタングステンを配置することで、重心が高くなりすぎるのを防ぎつつ、スウィートスポット位置をそれぞれのモデルのターゲットに最適な位置に調整しています。高機能タイプは『T200』の打音のよさが際立つのと『P790』の強い打感、インパクトの挙動安定性が秀逸。
ピン「G710」
抜群に上がりやすく、つかまりもいい大きめヘッド
ピン「G710」
大きめのヘッドサイズとピン伝統のオフセットでつかまりがよく、球の上がりやすさも抜群。オフセンターヒットに強く、とくにトウ側の打点のズレに関しては、かなり許容度が高い。先端が走る設計の「NSプロ950GH neo」とヘッドの相性がものすごくいい。
構えやすさ 3.5/5
上がりやすさ 5/5
ミスの寛容性 5/5
飛距離 5/5
打感 3/5
ホンマ「T WORLD XP-1」
オフセンターヒットに強く飛距離性能が高い
ホンマ「T WORLD XP-1」
打点のバラつきに強く、あえて芯を外して打っても弾道にほぼ差がないほど。軽いシャフトと相まって振りやすく飛距離が出る。パー3のティショットで強い武器になりそう。ヘッドの完成度が高く、ゼクシオユーザーを乗り換えさせる実力は十分にあるだろう。
構えやすさ 3/5
上がりやすさ 3.5/5
ミスの寛容性 5/5
飛距離 4.5/5
打感 3.5/5
つるや「GOLDENPRIX TX-01」
ストロングロフトの飛距離とつかまりの良さが魅力
つるや「GOLDENPRIX TX-01」
ネックが短く、本来ならもっとブレードを長くできるはずだが、それをしていないのは無駄に重心距離を長くしない工夫。加えてややオフセットがあるため、つかまりの良さは圧倒的。ユーティリティ的なやさしさで楽に距離が出る。
構えやすさ 3/5
上がりやすさ 4/5
ミスの寛容性 4/5
飛距離 5/5
打感 3.5/5
飛距離・やさしさ重視タイプでは、『GOLDENPRIX TX-1』の文句なしのつかまりのよさ『G710』の、低重心キャビティに匹敵する上がりやすさが特筆モノでしょう」と、堀越プロ。
コブラ「キング フォージドTEC」
慣性モーメントが大きく弾道が安定しやすい
コブラ「キング フォージドTEC」
コンパクトな見た目に反して、上下左右に慣性モーメントが大きいのは、内部の計算された重量配分のおかげ。弾道の高さが安定して、タテの距離が合いやすい。ボールが上がりやすいわけではないので、ドライバーのヘッドスピードで42m/sくらいは必要そう。
構えやすさ 4/5
上がりやすさ 3.5/5
ミスの寛容性 4/5
飛距離 4/5
打感 4/5
上級者にとっても、アベレージゴルファーにとっても、「マッスルバック」と「大型ヘッドキャビティ」の中間にあるモデルとして、「手に取りやすい」のが中空アイアンということになりそうだ。
週刊GD2020年3月10日号より
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