練習場ではいいのにコースに行くとダメ……。そんな悩みを持っているアマチュアは多いが、その理由はルーティンにあると岩本砂織コーチは言う。よく聞くと一定のルーティンを作りおきしておくことでナイスショットを引き出せるらしいぞ! レッツトライ!
【解説(右)】高橋 舞プロ
LPGAティーチングプロA級ライセンスを持ち、ジュニア時代からのゴルフ経験を活かし、ジュニアから大人へと幅広い世代のレッスンを行う
【解説(左)】岩本砂織プロ
ナショナルチームのテクニカルコーチを務める。横浜で最新機器を導入したインドアゴルフスタジオ「SALTO GOLF」を主宰する
女子プロのルーティンは
アマチュアのお手本だ
ショットに入る前のルーティンを大事にするプロは多い。その重要性を岩本プロが語る。
「プレショットルーティンは、ショットを行うための準備であり、スウィングの再現性を高めるツールでもあります。ルーティンの目的を大きく分けると、①同じセットアップをする、②同じリズムでスウィングをする、③メンタルを安定させる、の3つになります。ルーティンは一連の流れで行われますが、ティーアップしてから素振りなどを行う準備段階と、アドレスに向かって動き出す本番段階があり、この2つを明確に分けて構築する必要があります。写真の3選手のルーティンからも、それが見て取れるはずです。この点も参考にしてほしいですね」
【選手①】原英莉花 飛ばし屋ならではの方向重視型
原といえば男子顔負けの飛距離。飛ばし屋だからこそ打ち出す方向性にシビアに。利き目を使った方向性重視のルーティン
【選手②】小祝さくら 無意識にイメージどおりに打てる理想形
小祝はなんと言っても流れるようなリズム。イメージを無意識に具現化できるブレない形はまさに教科書に載せたいルーティン
【選手③】古江彩佳 確認作業という名のルーティン
一見リズムよくルーティンしているように見えるが、体のパーツごとに始動するタイミングを確認しながらルーティンを行っている
チェック!日本女子オープンで52人のルーティンを計測
日本女子OPの最終日、1Hからスタートする選手52人のルーティンを計測。タイマーはティーアップした段階でスタートし、テークバックの始動でストップ。
Total 25.79秒(平均)
準備段階 14.53秒(平均)
本番段階 11.26秒(平均)
【準備段階】
素振りはボールの後ろで
最大2回まで
ルーティンの準備段階では、プロとアマチュアに決定的な違いがあると岩本プロは言う。
「アマチュアの場合、準備段階で打ちたい場所や弾道、球筋をイメージしたり、スウィングの注意点を考えながら素振りをしている人が多いんです。対して、プロや上級者はそれらすべてを決断してから、準備段階に入っていくんです。だから手順や秒数が、常に一定になるんです」
バッグからクラブを抜き、ティーアップするまでの間に、打ちたいショットのイメージを明確にすることが大事だという。
「ティーアップした後、飛球線後方に2~3歩下がったら、その場で素振りをします。ボールの横に移動して素振りをする人がいますが、目標確認でまた後方に戻るとムダな移動が多くなります。後方で素振りをすることでムダがなくなるし、流れもスムーズになるので、リラックスできて集中力も増します。素振りの回数は多すぎると力みにも繋がるので最大2回まで。再度、後方から目標を確認したら、準備段階は完了です。ラウンド中に自分のルーティンを動画で撮影して、見てみるといろんな
発見がありますよ」
目標とボールのライン上で素振りする
2㍍下がって素振りをすれば、アドレスに入るのに1往復で済む。しかしボールの横で素振りをすると、2往復することになり、ルーティンの流れが悪くなってしまう。プレーファーストの観点からも、後方での素振りが望ましい。
【ポイント①】
クラブを持ったらスウィングは考えない
「打ちたいショットやスウィングのことを考えるのは、バッグからクラブを抜く前までに終わらせる
べき作業です。気持ちに迷いがない状態でティーアップしましょう」(岩本)
【ポイント②】
7割以上の素振りは厳禁
本番さながらに力いっぱい素振りをすると、筋肉は緊張してしまう。「素振りの力加減は70%が理想です。ほうきでサッと掃くように、ゆっくりと行ったほうが、力みを防げます」
【ポイント③】
気持ちよく打っている俯瞰図を想像しよう
打ちたい球やスウィングのイメージというのは日ごろからやっていないと難しい。アドレスに入っ
たときには自分のナイスショットしたときの映像を俯瞰で客観視するといい。「ナイスショットを打とうと思うのではなく、ナイスショットをしている自分を想像するだけで確率はかなり上がります」
いいときも悪いときもルーティンを撮ろう
ラウンド中、同伴者にスウィング動画を撮ってもらう人は多いが、「ティーアップする前から、ルーティンも含めて撮影してもらうようにしましょう。いいときと悪いときの動画があると、違いが把握できて一定のルーティンを作ることとができます」
「プロでも苦手なホールなどで無意識にルーティンが変わったりします。ナイスショットしたときのルーティンを見るとイメトレに最適です」
練習場やコースでも球を打つときはルーティンを入れる!
意識しなくても自然にいつも同じ手順と時間でルーティンを行えるようになるのが理想。練習場だと出てくるボールを流れ作業のように打ってしまいがちだが、それではルーティンは身に付かない。練習場でもコースの一打と同じように、ルーティンを行って打つ習慣をつけよう
【本番段階】
上体を開きながら
右足をセット
「飛球線後方で目標を確認し、ボールに向かって一歩を踏み出す瞬間から本番段階に入ります。ここで大事なのはアドレスの入り方。いつでも同じ手順で入ること。そうすると再現性も高くなります」 (岩本)
最初に踏み出す足は右か左か、グリップは片手で握るか両手かなど、細かい部分まで決めて統一しておくのがベターだという。アドレスしたときにどうしても力んでしまうという人は、「息を100%吸った状態から、60%吐くという呼吸法がおすすめです。また、ルーティンを新しくイチから作り直すのではなく、これまで行っていたワッグルやフォワードプレスなどはルーティンの手順に残しておいてください。始動のきっかけは無意識に行っていることなので、それを捨てるのはもったいない
です。その癖を上手に生かすことで、始動がスムーズになるし、スウィングの再現性も高くなります」
①ボールから飛球線と直角のラインをイメージする。右足をラインに沿ってセットすることで体の軸が決まる
②次にボール位置を見て、左足をイメージしたラインの左側にセットする。打つクラブによっ
て、左足をセットする位置は変わる
③左足はセットした位置から動かさずに、右足だけを開いてスタンスを決める。これでブレないアドレスが完成
完成…上体を開きながらセットするだけで肩と腰のラインも目標に向きやすくなる。右手から入る人は自然に上体が開くので、左を向きすぎないように注意しよう
【ポイント①】
集中とリラックスできる呼吸法10割吸って、6割吐く
息を大きく吸い込むと、両肩が上がって胸が張り、上半身の筋肉も緊張しやすい。アドレスで力みやすい人は、いったん大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐いていくと、上体をリラックスできる。「息を60%ぐらい吐いたタイミングをきっかけにすると、力まずにスウィングを始動できますよ」
【ポイント②】
ボールは凝視せずぼんやり見る
ボールから目を離しちゃいけないと、アドレスで凝視してしまう人が多いが、焦点が一点に集中すると、筋肉が緊張して体が固まってしまう。「ボールだけに焦点を合わせず、ヘッドや周りの芝生など、全体をボンヤリと見ることで、力みを防ぐことができます」
アイアンでも手順は一緒
左足の位置を変えるだけ!
アイアンのセットアップも、右写真で説明したドライバーの手順と同じ。「使うクラブが短くなるにしたがって、左足をセットする位置はイメージしたラインよりも左に離れます。左足→右足の順でスタンスをとった後、左足を動かして、最適なボール位置に微調整するのはOK」(岩本)
悩みやすい人は青木、重心を保ちたい人は吉本
ルーティンは十人十色だが、プロを真似するのも得策と言う。
「プロのルーティンを真似することで、必ずしも上手くなるというわけではありません。ただ真似をすることで自分のルーティンに取り入れたいポイントが見つかったり、急に出球のイメージが作れようになるということもあるんです。真似がきっかけになりますからね」
そこで岩本プロがオススメする4人の女子プロのルーティンを紹介しよう。それぞれ目的や所作は違えど、自分に合ったルーティンが見つかるはずだ。
青木瀬令奈 迷う余地すら与えない速さ
「迷いを一切感じないこのスピードはとにかく速い。悩む余地さえ与えないので考えすぎてしまう人にオススメです」
上田桃子 目標まで運ぼうという意識
「ボールを打つというよりも目標まで運ぼうという意識がルーティン中の視線から見えます。遠くを見ることで力みもなくなります」
吉本ひかる 重心位置を低く保つことができる
「アドレスに入るときに足を揃えた状態から左右に足を広げると重心を低く保つことができる。軸がブレやすい人にオススメです」
申ジエ ミスを最小限に抑えられる
「体の動かすポイントだけを意識して、無駄な動きを起こさないためのルーティン。ミスを最小限に抑えることができる」
PHOTO/Tadashi Anezaki, Hiroaki Arihara
TEXT/Toshiyuki Funayama
週刊GD10月27日号より
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