速さに怯えてソーっと打つと弱々しいその球はカップ際で曲がる。ついには入る気がしなくなる。高速グリーンワールドで生きる名手・藤田と話してみた。
速いグリーンほど
打ち抜くこと
二度目のマスターズのとき、実は僕も〝打てない〞状態に陥っていました。上りでもゆるめていた。オーバーが怖い、返しが嫌、流すようなパットになり、スライスラインではフェースが開いて右に出たり。それはメンタル的なものが多いと思います。
速いグリーン用の打ち方があるわけではないです。ふだんから30㌢の距離でも打ち抜いたパットをする。球1個分の幅でもパターで打ち抜く。そこから速さに立ち向かっていったときだけ、「入る」世界に到達できるのだと思います。
ツアープレーヤーは、常に速いグリーンでやりますが、ゆるめて打つ人は誰もいません。自分の場合は、小さい振り幅で、加速しながら打つんですね。
パンチショットパンチショットを想像してみてください。大きく振るよりも、打ち抜いた感、インパクトのソリッド感が出ます。スクェアに当たりやすい。これが凄く大事ですね。パットではどういう軌道で振るかよりも、フェースで真っすぐにボールをとらえるんです。
よれずにホールに向かうエネルギーが球に込められます。それには小さく速く振るほうがやりやすい、と。お先です、と打つときはパチッと打つじゃないですか。そこに打ち出せるってわかってい
ますよね。あれが真髄だと思うわけです。
フジタ語録
ゆるんだ打ち方になるのはメンタルが大きい
小さく打つほうがスクェアヒット感が出る
そんな“つかまった球” はカップ際の直進性も強い
葛城GC内の秘密基地の
「藤田部屋」
GD 打ち抜き続けたことを示すパターを見つけました。
藤田 これ、若いころ10年近く使った〝元エースパター〞です。だいぶはっきり打痕が(笑)。
GD 撫でるように打つアマチュアのパターにはつきませんね。常に一点で打てている、と。
藤田 いや当たってないです(笑)。しかしいい音で打つのも大事だし、自分は厚い当たりが欲しいんですね。フェースの上めに当たり、閉じて当たる厚さ。つかまった球であってほしい。
GD 打ち抜く感覚の中身ですね。
藤田 加速して打ち抜けばいいと確信を得たのは、マスターズ王者マーク・オメーラさんと練習ラウンドしたときです。VISA太平洋のあの速い下りで、オメーラさんは、めちゃめちゃ打ち抜いていました。それで自分のやり方は間違っていないな、と。
GD 高速グリーンで打ち抜くというのは、怖さも感じますが。
藤田 ボールはどこかで止まるじゃないですか。自分も不安はありますよ。1・5㍍前後のパットは他人よりも入れなければいけない。しかしグリーンの速さに合わせたスピードで、打ち抜いていくんです。
GD どうやって?
藤田 みなさん1.5㍍全体を意識しますよね。自分は“出球”だけでやっています。30㌢ほど先にスパットを見つけ、打ち出すことだけをやる。どんな速さの球を通過させるか。曲がり具合とスピードの全体像を、深く想像してスパットを決めます。
GD シンプル化していますね。
藤田 そのために日々練習マットで打っています。打ち方なんてどうでもいい。出球に集中する野生の感覚で行く。そうして打ち抜けた球には直進性があり、ラインから外れにくいですね。出球が完璧ならきっと入る、と信じられる転がりというか。
GD だからショートパットを強めに堂々と打てるんですね。
藤田 風の中でも曲がらず突き進むショットってあるじゃないですか。パットもショットです。がっちりスクェアに打ち抜いたものは、よれずに転がります。本当に入るかどうかは、想像力の精度しだいでしょう。
30~40 ㌢の出球の訓練
打ち抜けばハンドファースト
「 アドレスと比べて、インパクトではこれくらい手が前に行くかなぁ。考えたことないですけどね」(藤田)
打ち抜こうとすれば、ハンドファーストなコンタクトになるものだと、客観的に話していた。上の画像でも確かにそうなっている。とはいえ“上から軌道” というわけではない。
「 水平にとらえるといい転がり。最初は無回転で滑るように出ていきます」(藤田)
右肩を高くという基本
手の形にグリップ部がはまり、ゆるみそうにない。これがプロのグリップ技術だ。
「それに加え、左わきの締まりや右肩を高く保つ感覚が、フェードを打つスウィングの基礎として身についています。パットでも必要な感覚で、右肩が下がっていたら、打ち抜けないと思いますね」(藤田)
写真下のように右肩を高く構えるアドバイスをすることもあるとか。ただし藤田はこのまま打っているわけではない。打ち抜き感覚体験のお試しドリルだ。
速い下りはトウ寄りで
「 これ、初めて言ったかもしれません」と藤田。速いグリーンの下りパットでは、あえてトウ寄りで打つこともあるというのだ。
「クラブの特性を逆手にとるわけです。芯で100 ㌫の距離が出るのに対し、トウに外せば88 ㌫とかに落ちる、そんな予測で。理想は芯で打ちたいんですけどね。時折やっています」(藤田)
打つ勇気を損なわない作戦だ。実はフックラインでもたまにやるとか。スライスラインではヒール寄りを使い、フェースを開くミスの影響を抑え込むそうだ。
芯でヒットする構え。下りに対応し少しトウ寄りで打つ構え、特別速い下りのときの構え
“転がりがいい” って何⁉
「 転がりがいい=“長い距離” 転がる球」と考えるアマチュアもいると話すと、藤田は笑って否定した。
「 真っすぐ転がる力が強い、つまり弱々しくよれることがない、そういう転がりのことですよ。人間は繊細で、それを感知できるんですね。フェースをスクェアにして打ち抜けた球は、芝目の影響なども少ない印象があります」(藤田)
映像で目にする、レーンの上を進むようにカップに向かう、あの伸びのあるパットだ。
スパット上を
想定速度で通過させる
1〜2㍍のパットも、5㍍を打つときも、自分は30〜40㌢先のスパットとやり取りしています。ロングパットは全体像を見て打ちますが、短いパットはスパットを思った強さで通過させる、それだけです。
振り幅についての質問がよくありますが、この通過速度に集中すると、勝手にちょうどいい振りにもなります。自分は考えたことがないですから。脳がやってくれるのかもしれません。
そして出球にスピードを与えた時点で、自分にできることは終わります。その先の転がりは、自分ではどうにもならない領域です。入れたいからイメージは出すんだけど、芝目の関係などで入らないことがある。単に読み間違いだったとなることも。そこは気にしないことにするのです。
ゴルファーは、ずっとパットをやっていくわけです。入る、入らないは結果的なことであって、それ以前に、自分のやるべきことをできたかが重要。パットにおいてそれは、出球を制御することなんですね。
そう考えていけば、将来的には入るようになるものだと、試合の中で答を見つけました。高速グリーンへの対応も、そこから見えてくるんです。
写真/北川外志廣
協力/葛城ゴルフ倶楽部
週刊GD1月5日・12日号より
匠が作ったパターはいかが?
週刊ゴルフダイジェストはキンドルで!