設計デビューは、米国「ハーバータウンGL」なのか、それとも日本の「ニュー・セントアンドリュースGCジャパン」か
栃木県大田原市のニュー・セントアンドリュースゴルフクラブ・ジャパン(以下、NSAJ)は、ジャック・ニクラスのデビュー作か否か論議されることがあった。NSAJの開場は1975年、ハーバータウンGLは1969年、ソロデビュー作のカナダのグレンアビーGCは1974年。
単純に開場年で比べると、3番目のコースに見える。しかし、着工から完成まで5年を要したことから、NSAJの設計は「1969年には完了していた」との声もある。デビュー作か否か、それよりも大切なのは、設計家ではないプレーヤーとして脂の乗った帝王ジャック・ニクラスの「戦略性」を知る歴史的価値が、米国の名コース、ハーバータウンGL同様に、NSAJにもあるということだ。
ゴルファーなら承知の通り、ニクラスは全米アマ2回、全英オープン3回、全米オープン4回、全米プロ5回、マスターズ6回を手中に収めた史上最強のプレーヤーである。ピート・ダイとのコンビ解消後、共同設計のパートナーに選んだのが、「鬼才」と呼ばれたディズモンド・ミュアヘッドだった。
自身のホームコースであり、トーナメントホストを務める「ミュアフィールド・ヴィレッジGC」のほか5コースを2人で造り上げた。「NSAJ」はそのひとつになる。
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日本のコースに「英雄型」設計を持ち込んだニクラス
1930年C・H・アリソンの来日によって、日本のゴルフコース設計に「アリソン・ショック」が起こる。赤星四郎、六郎、大谷光明、藤田欽哉といった草創期に活躍した面々は、アリソンの近代的手法に学び、本格的な「戦略型」設計家へと育っていった。アリソンの影響はその後、井上誠一、上田治、佐藤儀一といった第一次ゴルフブームを築いた次世代の日本人設計家にも波及した。
1950年代に入ると彼らの手によって日本を代表する名コースが次々に誕生する。ゴルフダイジェスト社チョイス誌が毎年発表する「日本のベストコース100」の上位ランキング、「日光」「龍ヶ崎」「大洗」は井上、「古賀」「小野」「下関」は上田、日本海側随一の名コース「片山津」は佐藤儀一によって造られた。アリソンが描き残した「廣野」「川奈(富士)」「鳴尾」と肩を並べる英国式戦略型をルーツとする名コースが誕生した。
1970年代に入ると米国式の「水際設計」がテッド・ロビンソンによって、まずレイクウッドGC(神奈川)に持ち込まれた。英国式戦略型コースには見られなかった「ウォーター・カムズ・イン・プレー(攻略に池や川がからむ設計)」は戦略型設計に「英雄型」(ヒロイックパターン)を加味した斬新なデザインだった。その最大の功労者は、「軽井沢72」を設計したR・T・ジョーンズ親子であり、ジャック・ニクラスとミュアヘッドのコンビだった。
日本の風土と芝管理技術の遅れで、夏暑く、冬寒い寒暖地ではベントと高麗の2グリーンを余儀なくされ、井上、上田といった名設計家たちも多くの2グリーンコースを残すことになった。そんな中、ニクラスはNSAJで世界基準のベントの1グリーンを採用し、水際設計を大胆に取り入れた。大きなアンジュレーションのグリーンとクリークや池が導入されたコースデザインに接した日本人ゴルファーの驚きは大きかった。
1番パー4は、右側に絡む大きな池は、ティからグリーン間際まで続いており、ティショットのポジション次第では池越えの2打目となるスタートホールから難易度が高い。折り返す2番パー4も、右サイドに池が広がり、残り100ヤード地点で池が食い込みフェアウェイを狭めるデザイン。グリーンは細長く右斜めに傾くリバースレダンタイプ。ショットの精度と勇気が試される。
3番パー5はグリーン手前に張り付くように池を配置。6番パー4はフェアウェイをクリークが横切り、グリーン左サイドに池を配置した。8番はオーガスタの16番パー3をイメージさせる池越えのパー3。ティからグリーンまで池が続く。
インコースに行くと16番パー4は、スルーザグリーンの中央に三連の滝でつないだ幅広のクリークを縦走させた。このホールに関しては、鬼才ミュアヘッドの意見が強く働いたようだが、ニクラスはNSAJに関して「少しハードに設計しすぎた」と述べている。
R・T・ジョーンズJrは、ニクラスの設計を「彼のコースは、自分のゲームに基づいて設計されています。ロングボールを打ち、高く上がるショットで小さなグリーンに乗せなければなりません。それが彼のプレーのやり方ですから」と評している。
「ゴルフは筋肉よりも頭脳を使うべき」
しかし、ハーバータウンGLに話を戻すと、自身と他のプロとの飛距離差を自らのコース設計によって公平にしようと考えた。ニクラスのフェア精神は、「ゴルフはパワーよりも正確さを競い、筋肉より頭脳を使うべき」という考えに基づき、コース設計にも現れている。
ニクラスのコース設計に共通するのは、「性別、年齢、技術の異なるプレーヤーが同じフィールドで楽しめるのがゴルフならではの魅力です。あらゆるプレーヤーが公平に楽しめなければいけない。ナイスショットはしっかり報われ、ミスショットにはそれなりのペナルティが科せられるという意味で
も、フェアでなければならない」と考えている。
1990年ごろニクラスは、自身がドライバーで打っても120ヤードという「ケイマンボール」を考案した。これは妻バーバラとの飛距離差をなくし公平にプレーしたいという思いがあった。日本にもケイマンボールでプレーする専用コースが造られた。
この「公平」の精神は、自身のホームコースである「ミュアフィールドヴィレッジGC」でも同じである。PGAツアーのメモリアルトーナメントでは、プロに「1打の価値」を求める一方で、シニア、女性、ジュニア、ハンディキャップが多い人、少ない人まで平等に楽しめるコースを目指した。
ティショットはできるだけやさしくし、フェアウェイをキープできるように。2打目以降はどのエリアから、どのように攻めるかをプレーヤーに考えさせるグリーンやバンカーなどをポジショニングしている。
「コース設計とは、ティグラウンド(現ティーングエリア)、フェアウェイ、バンカー、ウォーターハザード(現ペナルティーエリア)、グリーンなどの基本要素をシグソーパズルのように組み合わせたもの」とニクラスは語った。
ティからホール全体を見渡すことで戦略を立てる。そのため、打ち下ろしを好み、ブライドホールは極力造らない。グリーン形状は、ボールが外に弾かれる「砲台タイプ」ではなく、打球がグリーンに流れ込みやすいすり鉢状のパンチボウルや、コーヒー茶碗の受け皿をイメージしたソーサータイプを理想としている。
フェアウェイのショットもしかり。傾斜地にかかる場合は、ボールの落ち所に反対傾斜で受け止めるようカウンタースロープを取り入れている。
ニクラスが考えるバンカーの目的は4つ。0.5打から3/4打の罰となることを理想とする「ペナルバンカー」、ショットの方角を教える「ディレクショナルバンカー」、プレー上意味はないが、記憶に残る「装飾的バンカー」、そして、OBやウォーターハザードにボールが転がり落ちるのを防ぐ「ファンクションバンカー」がある。ある意味、ニクラスのコースは、アマチュアのゴルフに配慮した、やさしいゴルフ場と言える。
ニクラスがコース設計に取り組む前から、多くのプロゴルファーがコース設計に挑戦した。しかし、(霞ヶ関CC東コースを改造したトム・ファジオの父)ジョージ・ファジオとジャック・ニクラスを除いては、成功した例は少なく、米国では「暗黒時代」と言われる。
プロゴルファーが設計したコースは、陳腐で決まり切った展開、さらにアマチュアに厳しく、プロゴルファーにはやさしい安易なペナルタイプ(科罰型)が多かったのがその理由だ。
これまでのコース設計の流れを簡単にまとめると、英国のプロゴルファーがティとグリーン位置を決めて造ったリンクス時代が「ペナルタイプ」(科罰型)、そしてコルト、マッケンジー、アリソンなどの英国人設計家がリンクスに学び、戦略性を取り入れた「戦略型」へと進化し、世界に広がっていった。その中でも、C・B・マクドナルド、A・W・ティリングハースト、ジョージ・トーマスといった1910年から1920年に活躍した米国にコース設計を持ち込んだ、俗にいう「フィラデルフィア派」によって、戦略型コースは「リスク&リワード」(危険と報酬)の「ヒロイックタイプ」(英雄型)へとその姿を変えていった。
科罰型から戦略型へ、戦略型から英雄型へ、ゴルフコースはゲームを楽しく、スリルあるものに進化を遂げていった。しかし、米国はゴルフ場の建設ラッシュに沸く。その数は一気に1000コースから5000コース以上に増えた。
需要と供給の観点から、著名で人気のある設計家が受けられる仕事の数は限られ、「リスク&リワード」の英雄型コースが誕生する一方で、プロゴルファーによるリンクス時代の「科罰型」コースが、多数造られることになった。同じ現象は日本でも1960年代から70年代に起こる。「ゴルフ場はティとグリーンがあればいい」。到底ゴルフ場になり得ない土地でも山を削り、ゴルフコースが造られていった。
マッケンジーも、トーマスも、ティリングハーストも、米国のコースの評価を高めていったのはアマチュア出身の設計家だった。なぜ、ニクラスはプロゴルファーでありながら、コース設計でも成功を収めることができたのか。
プレーヤーとして培った「公平」の精神
ニクラスは言う、「コース専門の設計家が農耕学を学んでいるとき、私はグリーンの芝目を読んでいた」。長い競技歴の中でプレーヤーとして積み上げてきた経験と、名コースでの見聞、そして、ゴルフに対する「公平」の精神が、ニクラスの造るコースに表れている。
2018年、ゴルフダイジェスト社チョイス誌の「日本のベストコース100」で、ニクラス設計の「北海道クラシック」が、トップ10コースにランクインした。平成生まれの外国人設計家による初の快挙となった。2018年の「トップ10コース」は、日光、龍ヶ崎、我孫子、東京、川奈・富士、廣野、茨木・西、鳴尾、古賀。いずれも1950年代までに造られた英国式「戦略型」コースをルーツとするものばかり。戦略性は高くとも、水際設計の見られない「モダンクラシック」コースと言える。
北海道クラシックの開場は1991年。NSAJの開場からから16年後、ニクラス設計の「中期の作品」になる。プレーヤーとして絶頂期に造られたNSAJは、1番パー4から立て続けに水際の難度の高いショットを要求したのに対し、北海道クラシックでウォーターホールが登場するのは4番ホールのティショットとなる。5番、6番で池越えのショットを要求するが、アウト9ホールでは水の恐怖をそれほどプレーヤーに与えない。しかし、インコースに入ると一転、10番は左サイドがグリーンまで続くウォーターホールとなる。14番、16番、17番、18番は連続した水際設計で、NSAJと明らかに作風が変わっていることがわかる。
J・ニクラス設計コース会員権情報
コース名 | 売り | 買い | 名変 |
---|---|---|---|
NSAJ | 15 | 5 | 30 |
六甲国際※1 | 350 | 100 | |
ムロウ36 | 停止中 | ||
上総モナーク | 30 | 10 | 50 |
清川 | 80 | 45 | 120 |
サニーフィールド | 15 | 5 | 50 |
セントクリーク | 100 | 100 | |
下関ゴールデン | 15 | 5 | 50 |
オークモント | 50 | 25 | 50 |
ジャパンメモリアル | 263.6 | 募集 | |
北海道クラシック | 65 | 30 | 200 |
ハウステンボス | 26.4 | 募集 | |
花の杜 | 47 | 募集 | |
石岡 | 120 | 募集 | |
菰野倶楽部 | 停止中 | ||
仙台南 | 停止中 | ||
ゴールド栃木 | パブ | ||
サン・ベルグラビア | 停止中 | ||
榛名の森 | パブ | ||
JGM宇都宮 | パブ | ||
ニューキャピタル | 35 | 募集 | |
ベアズパウ | パブ | ||
オリムピック足利 | 30 | 20 | 停止中 |
ザ・トラディション | 140 | 110 | 100 |
オリムピックつぶらだ | 停止中 | ||
神戸 | 停止中 | ||
東京クラシック | 募集終了 |
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清川:メンバー本位の運営で、神奈川県下で根強い人気
ジャパンメモリアル:メンバー本位の運営で、法人接待にも最適。以前はサントリーレディスを開催。
日本のゴルフ場建設は、2016年に開場したニクラス設計の「東京クラシック」が最後の新設コースとなる可能性が高い。今後は、改造改修によって、コースの質を高め、世界基準を目指すゴルフ場が増えると考えられる。
開場当初1グリーンだった東京GC、霞ヶ関、我孫子、相模、名古屋和合などは、芝の管理問題でやむなく2グリーンにした経緯がある。改造は井上誠一、上田治といった設計家が担当したが、近年は、クーア&クレンショー(横浜CC・西)、トム・ファジオ(霞ヶ関・東)、リース・ジョーンズ(茨木と太平洋C御殿場)といった世界的に著名な米国人設計家による改造改修工事が行われている。
その先駆けとなったのが、1996年にジャック・ニクラスによる「六甲国際」(1975年開場、加藤福一設計)の大規模改修だった。関西を代表するチャンピオンコースとして広く知られる36ホールは、「海外コースと同じグリーンアンジュレーションと美しいバンカリング」が表現され、西コースはニクラスらしさが際立つアメリカンスタイルのバンカーが印象的。
東コースはニクラス設計の基本スタイル、ティショットは伸び伸びと打てるが、2打以降は、大きなバンカーがグリーンをガードし、アンジュレーションのあるグリーンをどこから攻めていくかをプレ
ーヤーに考えさせるコースとなった。(了)
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