今年のプロゴルファーナンバーワンを決めるにしては、青木、尾崎、中嶋不在が淋しさを感じさせる。が、大本命がいなかったことによって、1990年代の主役となるプレーヤーが大いに奮起した。初優勝をメジャーで果たした加瀬秀樹を筆頭に、倉本昌弘、藤木三郎、水巻善典…と、90年代のプロゴルフ界を牽引していく人たちだ。こうした次代を担うプロ群を日米のPGAチャンピオンシップを背景として、ハル常住がウォッチングする。

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

今週のウォッチャーはハル常住。米国大使館在職中に来日外人プロの通訳を務め多くの知己を得る。渡米しラリー・ネルソンに師事し、プロゴルファーとなる。セベ・バレステロスの信頼厚く、彼を描いた著書「カンピオン」を上梓する。

日米の飛ばし屋事情をハル常住が比較分析

私は、PGAチャンピオンシップという言葉を聞くと、真夏のギラギラと焼けつくように照りつける熱い太陽を連想してしまう。

全米プロ、そして日本プロと、どちらも8月の暑い時期に、プレーヤーたちは体全体から汗を流して、このビッグタイトルに挑むからだ。

プロフェッショナルなら、誰もが勝ちたいビッグタイトルである。しかし、日米プロたちの目の輝きは、あきらかに違っている。勝者にはビッグな賞金、そして名誉が与えられる。これは、アメリカも日本も一緒だ。だが、USツアーの選手はもうひとつの特典のために、血眼になる。ビッグネームのプロでさえ、近寄りがたい雰囲気になる。それは「10年間のシード権」である。

勝者は向こう10年間、試合出場が保証される。これは、生活権という面でも実に大きな権利となる。賞金ランキング125位以下になれば、ツアーのライセンスを失ってしまうのだ。再びクォリファイングスクール(プロテスト)からの挑戦となる。もし、全米プロに勝てれば、125位以下となっても、ツアー出場ができる。いやが上にもピリピリとしたムードになる。

ふりかえって、日本。日本プロ勝者にも5年間のシードが与えられる。が、米国の半分であり、システム上の決定的な違いもある。日本では、ランキング200位だろうが300位だろうが、ツアーライセンスを失わない(1999年JGTOが発足し、現在は変更)。

この辺に、日米選手のPGAチャンピオンシップに対する取り組み方の相違がある。

もちろん、両者には歴史の違いもあるし、コースやセッティングなどの違いもあるから、一概に同等として論じることはできないかもしれない。しかし、全米プロほか、メジャー競技を肌で感じている私にとって、このメジャーの差は歴然と存在しているように思えるのだ。

今年の加瀬は一味も、二味も違っていた

画像: 加瀬秀樹は若手の中でも群を抜く飛距離が武器だった

加瀬秀樹は若手の中でも群を抜く飛距離が武器だった

さて、試合はA・O・Nの欠場により、若手のニューウェーブの活躍が期待されるトーナメントとなった。

3日目のペアリングは、まさにニューウェーブの激突となったのである。

最終組には、藤木三郎、E・エレラ、2日目に66でプレーした加瀬秀樹、ひと組前にはデビッド・イシイ、飯合肇、渡辺司である。さらに4組前には、倉本昌弘、牧野裕、水巻善典と、上位10名の選手は、年齢が年長でも35歳という、これからのプレーヤーだった。

この試合から、1990年代、新しい時代の波が押し寄せてくる様な予感がした。

3日目を終ってみると、ニューウェーブは確かな結果として表れた。

倉本が65の7アンダーで、この日67でプレーした加瀬にワンストロークと急追した。

水巻も66、藤木、デビッド・イシイが共に70でラウンド。

新時代を代表するプレーヤーが、優勝に向かって肩を並べる。

昨年のこの大会で、最終日に66という好スコアを出し、ジャンボに次いで2位に入っている加瀬に注目した。昨年は、荒天の中での66というスコアで注目を集めた加瀬であるが、この時はまだ、たまたま良いスコアが出たという印象が強かった。

しかし、今年の加瀬は、一味も、二味も違っていた。確かにメジャーで2位になったという実績は、加瀬のゴルフを変えたと思う。

画像: 飛ばし屋であっても、スウィングはゆっくりしたリズム

飛ばし屋であっても、スウィングはゆっくりしたリズム

6月の札幌とうきゅう、梅雨明けの頃からスウィングが安定してきた。それまでは、左へ飛びだしてフックする事もあったが、「ヨネックス広島で優勝争いをして自信がついた」とインタビューで話している。

確かに3日目、4日目と加瀬のプレーを見て、スウィング、リズムとゴルフに必要不可欠なファクターが安定している事を痛感した。

ゆったりとした大きなスウィングアークから打ち出されるビッグボールは、もちろん飛距離が出る。彼の持ち味でもある。

ファー・アンド・シュアー、飛んで曲がらないことは、最大の武器であり、彼はこれを持っていた。

ティショットを打ち終えてからフェアウェイを歩く姿にもリズム感があった。決して急がず、マイペースのゴルフを展開していたように見えた。セカンドショットのリズムも変わらない。ボールをソリッドにクリーンヒットする。高く上がったボールが確実にピンに向かって、オンラインで飛んでゆく。そのボールは、私が見なれているアメリカの選手を彷彿させた。

たとえば、マーク・カルカベッキアなどが類似タイプといえようか。学生ゴルフの経験がなく、ミニツアーで鍛えあげてヒノキ舞台に登場してきた彼は飛ばし屋であることはもちろん、小技も巧みだ.
そんな経歴、ゴルフタイプは加瀬と重ねて考えることもできる。

グリーン上での動作にもリズムを感じる事ができた。ゆっくりとしたストロークは、転がりのよいボールを生み、芝目の強いコーライグリーンでもスムーズに転がっていた。

自分のゴルフ、自信と経験がつくり上げた「加瀬ゴルフ」を見ることができた。

13番を終了して、倉本、藤木という勝つ味を知ったプレーヤーは、未勝利の加瀬に、ワンストロークとプレッシャーを与えた。

画像: この試合の優勝争いのなかではベテランと呼ぶべき、藤木三郎

この試合の優勝争いのなかではベテランと呼ぶべき、藤木三郎

しかし、加瀬は14番で落ち着いてバーディを取り、その差を2ストロークにした。

16番でアプローチを寄せてパーをとった時、「初めて優勝を意識できた」と加瀬が語っている。

18番、加瀬はアイアンを持って、ティショットを打った。勝つためのゴルフを見せたのである。第3打をグリーンオーバーして左ラフに入れたが、アプローチをチップイン。

勝つ時はこんなものかもしれない。2位の倉本、藤木に5ストロークの差で堂々の優勝。ただ1人の2ケタアンダーである。

世界で認められている若手は倉本だけだったが・・・

画像: ニューウェーブの筆頭、倉本昌弘

ニューウェーブの筆頭、倉本昌弘

試合を振り返ってみると、やはりニューウェーブの活躍が目立った。

10位タイには、決勝ラウンドの2日間で、68・70の6アンダーをマークした、大山雄三が入った。なにしろ、スケールの大きいためプレーヤーで、注目の必要がある。

単独4位には、昨年の関東オープンでツアー初優勝を飾った、水巻善典が入った。法政大学時代から、学生選手権などで活躍していた水巻が、アマチュアの延長から、プロのスタート選手の仲間入りを果たした様な気がする。

優勝後のプレスインタビューで、チャンピオンの加瀬に今後の目標を聞くと、「第一目標だった1勝
と日本シリーズ出場の夢を同時に果たすことができた。海外にも行ってみたい。アメリカの試合、最終目標はマスターズ」と語っていた。

ゴルフを知れば、知る程に。

経験を積めば、積む程に、勝ちたいトーナメントを制した加瀬には、海外で活躍できる予感を、十分に感じることができた。

ファー・アンド・シュアー。

ドライバー・イズ・ショー、パット・イズ・マネーという時代は変わりつつある。

飛ばして正確なドライバーと、高く上がるアイアンショット。加瀬のゴルフそのものが、新しい時代に要求される、ゴルフの姿だと思う。

現在、日本のトーナメント界において、若手の中で唯一、倉本の実力が世界で認められている。しかし、今回のトーナメントを観戦して、アメリカの若手プロ達のレベルに、日本の若手達も着実に近づいているのを知ることができた。

画像: 世界で認められている若手は倉本だけだったが・・・

【試合経過】

【初日】真夏日のなか、渡辺司(東)が、1イーグル、6バーディの「初体験」という8アンダーをマークしてトップ。2位は3打差でエレラ、飯合、加藤公徳が続く。

【2日目】うだる暑さ。「夏大好き」の藤木三郎が65、通算8アンダーでトップ。66の加瀬秀樹とエレラが7アンダーで追う。尾崎直道は6オーバーで予選落ち。3オーバーの73人が決勝へ。6人が棄権。

【3日目】加瀬が12アンダーとスコアを伸ばしてトップに。2位は、この日65の倉本昌弘が11アンダーで追う。藤木三郎は10アンダーで3位に後退。

【最終日】アウトを終って加瀬が12アンダーをキープ。藤木も10アンダーをキープ。倉本が1打スコアを落とす。膠着状態から加瀬が14番、15番とバーディを取りスコアを伸ばす。逆に、倉本、藤木がスコアを落とし、加瀬がプロ初優勝をメジャーで飾った。

1990年日本プロ最終成績
天野山CC/6880ヤード/パー72
1位 -14 加瀬秀樹
2位 -9 藤木三郎 
     倉本昌弘
4位 -8 水巻善典
5位 -6 一岡義典
6位 -5 金子柱憲 
     牧野裕  
     須藤聡明  
     デビッド・イシイ

天野山カントリークラブ
大阪府堺市南区別所1549-46
TEL 072-284-1919
コースタイプ/丘陵コース(36H)
グリーン/ベントの2グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
東・西/6535ヤード/パー72
コースレート71.3/スロープレート129
西・北/6846ヤード/パー72
コースレート72.4/スロープレート132
北・東/6461ヤード/パー72
コースレート71.1/スロープレート128
西・南/6730ヤード/パー72
コースレート71.6/スロープレート130
南・東/6345ヤード/パー72
コースレート70.3/スロープレート126
南・北/6218ヤード/パー72
コースレート69.8/スロープレート124
設計/杉原輝雄(監修)
開場/1966年
公式ホームページはこちら

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