【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。
杉原輝雄(1937-2011)
優勝回数は国内男子プロとしては尾崎将司、青木功に次ぐ歴代3位。中学卒業後、関西の名門、茨木カンツリークラブに就職し、ゴルフを始める。162cmと小柄な体格をカバーするために、ドライバーを年々長くすることにトライし、1990年代には47インチにも取り組んだ。フェアウェイウッドと小技の名手としてし、1962年の日本オープンから、2008年の関西プログランドゴードシニアまで優勝回数63勝を積み上げた。関西だけでなく、日本ゴルフ界のドンとして活躍した。
優勝者予想は「消去法」では割り出せない
3日目を終って、ホテルに帰って優勝の行方を占ってみた。
いまボクは首位と7打差の27位で追われる立場でも追う立場でもないから、本来なら優勝争いのことなどどうでもよいのだが、今回は仕事(本欄のウォッチャーとしての)がらみでそうもいかない。
が、この占い、いざやってみると推理小説の犯人捜しと同じで、結構愉しいものである。ところで、
推理小説や犯罪事件の犯人割り出しに「消去法」というやり方がある。
なぜいまボクがこういうことを持ち出したかというと、実は我々のプロゴルフでもこれと同じ方法を使うことがよくあるからだ。
たたし、これはトーナメントの最終日(優勝者捜し)ではない。2日目、あと何組かがコース上に残っている状態で、カットラインを割り出す時に限られる。
たとえば、まだコースでプレーしている何組(人)かのスコアによってカットラインが決まる場合、すでにプレーを終って、しかも当落線上にいる選手たちは、組み合わせ表と首っぴきで「彼は駄目」「あの選手は無理」といったように、実力の劣る選手から名前を消していくのである。
そうすればだいたいのカットラインのスコアが掴めて、自分が決勝ラウンドに進めるか、予選落ちかの予測がつく。
だが、優勝占いとなるとそうはいかない。同じ推理でもカットラインの割り出しと違って「消去法」
が聞かないのである。なぜかというと勝負は下駄を履くまでわからないし、特にゴルフは意外性の高いゲームで何が起こるかわからない。現に今回は2日目にそれが起こっている。初日74で67位の森茂
則(日大ゴルフ部出身)が、2日目63を出して通算7アンダーで単独首位に立っている。しかも森はほとんど無名。
このように、誰がどういうスコアを出さないとも限らないから「無名」「不調」は参考資料にはなっても、それが理由で消し去るわけにはいかないのである。
しからばどんな方法があるか。「消し」が利かなければ上位陣から「残す」手しかない。まずは、
優勝の可能性は首位から何打差までかの「下限」の線引きである。
【3日目終了】
1位 -7 森茂則
2位 -6 尾崎直道
渡辺司
横島由一
5位 -5 陳志忠
牧野裕
湯原信光
8位 -4 尾崎将司
倉本昌弘
通常、このように上位陣のスコアが詰まっている場合、総崩れということはない。それに誰かが大当たりをする選手がいるから、下位からの逆転はまず不可能に近い。
よって「可能性有り」は首位から3打差の4アンダー8位タイまでとなるのが妥当だが、今回は1つ下げて3アンダーまで、とボクはみた。というのも3アンダーグループには、波に乗ればとてつもないスコアを出す力をもった中嶋常幸、加瀬秀樹がいるからである。
優勝候補は尾崎直道、ジャンボ、倉本…「可能性有り」で中嶋と加瀬
では、「候補」の顔ぶれは──。
【尾崎直道】初日67で首位。しかし2日目73(4位)で足踏み。だが3日目70(2位)で盛り返した。この状態は、好スタートを切った馬が第2コーナーあたりで、つまずいて外からか包まれたため、いったん後方にさがって再び巻き返しにかかったようにボクにはみえた。
【倉本、湯原、牧野】3人を同時に挙げたのは「3人ひとからげ」という意味ではもちろんない。ご存知この3人は日大ゴルフ部の同年輩だ。倉本を中心とした「マッシーグループ」を形成している。今回は揃って上位だから、相乗効果は無視できない。ことに倉本は気分屋だから、このムードで一気ということも十分考えられる。
【尾崎将司】最有力候補の1人。理由は、彼の力をもってすれば、首位との3打差は、有って無きが如きにひとしいからである。
【森茂則】常識的にみれば、メジャー競技ということからいって、たとえ首位に立っていても無印である。それに2日目の63は、いわば「珍事」で、森の実力を測る資料にはならない。ただ、2日目首位に立ち、優勝が気になる3日目、プレッシャーに耐えて首位を守ったことは無視するわけにはいかない。もっとも、初日の74が彼の真の実力か、それとも3日目のゴルフがそうか。正直なところボクにはわからない。
ともあれ、3日目を終った時点でボクが挙げた「候補」は、尾崎直道、尾崎将司、倉本、湯原、牧野、それに「可能性有り」という意味で、中嶋、加瀬、森を加えた8人であった。なかでも「最も可能性大」とみた尾崎直道、尾崎将司、倉本の3人の優勝争いになった場合、誰が勝つかはまったく見当がつかない。
そうした状況の中で、最終日へと突入していった。
倉本、湯原をねじ伏せたジャンボは、さぞ気持ちよかったはず
大方が混戦を予想したに違いない。ボクも多分そうなると思った。しかし、予想は見事に外れた。今回に限っていえば「1強64弱」。尾崎将司の圧勝に終わった。
尾崎将司の勝因は「ずば抜けた底力」のひと言に尽きる。あえてこの勝因に味付けをするとすれば、コースと同伴者の顔ぶれ、それが彼に有利に働いたということだろう。
全長7101ヤードのこのコースも、尾崎将司の飛距離をもってすれば、4つのロングホールのうち3つが第2打をアイアンで届くし、ほとんどのミドルホールで第2打がショートアイアンである。加えてグリーンの状態も最高。ボクが最終日67だから、会心のゴルフをした尾崎将司が61で回っても、なんの不思議もない。
また、一緒の組で回ったのは倉本と湯原であった。尾崎にとって2人は当面の敵である。相手を叩くか、相手に叩かれるかはやってみないとわからないが、相手を叩くペース(展開)に持ち込めれば、敵は他の組より眼前にいたほうがよい。
アウトの4バーディ(ノーボギー)で眼前の敵である倉本と湯原をねじ伏せた尾崎将司は、さぞかし気分が良かったに違いない。その「どうだ、見たか…」が、インの5バーディ(ノーボギー)、ひいては61の圧勝につながったということだろう。
今回の尾崎将司の優勝については、あれこれ説明はいらない。見てのとおり、勝因は「底力」、そして勝つべき男が勝つべくして勝った、ということだから。
ただ、この大会を振り返ってみるに、プロゴルフ界全体から眺めた場合、何ら収穫を見出せない。全米プロでは、知ってのようにツアー参戦1年目の無名の新人、ジョン・デーリーがパワーで強豪をなぎ倒して圧勝した。
ひるがえって我が日本のプロゴルフ界というと、可能性を秘めた20歳代の若手が見当たらない。妙に無難にまとまっているのがボクとしては大いに不満だし、気にもなる。
(週刊ゴルフダイジェスト1991年9月3日号)
【試合経過】
【初日】尾崎直道が67でトップに。2位に68の陳志忠と横島由一。ジャンボは1アンダーで14位タイ。青木、杉原はイーブンで27位タイ。中嶋は4オーバー100位タイと出遅れる。
【2日目】森茂則が63という快スコアをマークして一気にトップに。2位は6アンダーの横島。青木は2アンダーで10位タイ。ジャンボはイーブンに後退し20位タイに、中嶋は2オーバーとして予選をクリア。
【3日目】森が7アンダーのままトップに踏みとどまる。2位は6アンダーの尾崎直道、渡辺司、横島の3人。ジャンボ4アンダーの8位タイ、中嶋3アンダーの10位タイと順位を上げる。
【最終日】1イーグル9バーディの61というとてつもないスコアでまわったジャンボが他を圧倒して優勝を飾った。
1991年日本プロ最終結果
プレステージCC/7142ヤード/パー72
1位 -15 尾崎将司
2位 -9 渡辺司
3位 -6 中嶋常幸
河村雅之
中川敏明
倉本昌弘
湯原信光
横島由一
9位 -5 青木功
杉原輝雄
陳志明
野口裕樹夫
尾崎直道
プレステージカントリークラブ
栃木県栃木市梓町455‐1
TEL 0282‐31‐1111
コースタイプ/丘陵コース
グリーン/ベントの1グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
東コース/7097ヤード/パー72
コースレート72.5
西コース/7214ヤード/パー72
コースレート73.2
設計/ベンツ&ポーレット社
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