14番。141メートルのショートホール(パー3)。ピンの位置は右横手前。グリーンは左から右へとかなりの傾斜が流れている。しかも富士山を背景に、風もゆるやかに左から右へ吹いている。ここはグリーン真ん中へ打てば、風と傾斜で右へ流れる。距離さえ合えば、ピンにからむ位置にある。ジャンボ尾崎は、9番アイアンを抜いて打った。ところが、ボールは最悪の位置、右端へ…。下りの15メートルを残してしまった。

オレのようにパワーのある者はフェードだ

画像: 2日目を終えて、フェードで戦うことを選んだジャンボ尾崎

2日目を終えて、フェードで戦うことを選んだジャンボ尾崎

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

アクシネットのカマボコ型パターを構え、打った…。下りのラインをゴロゴロを走った球は、カップの中に入り、ボールの1個分、カップの中で跳ね、そして、沈んだ――。

ジャンボが関東オープン2連勝を決定づけた「黄金のパット」。これで10アンダー。村上隆との差が2ストロークとなった。

「これで勝てたと思った。もう次のホールはボギーでもいい。実際ボギーを打ったけど、そう思っているボギーは痛くない。勝因はパット、これに尽きるよ」

画像: この日手にしていたのは、アクシネットのカマボコ型パター

この日手にしていたのは、アクシネットのカマボコ型パター

尾崎は、後でこうまくしたてた。その言葉通り、14番を機に村上から勝利は遠ざかっていった。村上、15番ボギー、17番ボギー。18番を終えたときにはジャンボとの差が4つになっていた。

7月23日夜。富士宮の小川荘という旅館で8時に食事をすませたジャンボはごろりと横になり、テレビで野球のオールスターをみていた。それが終わると、いつの間にか、ジャンボはコクリコクリとやっている。

「もう寝るよ」といったのが10時前後。それから朝9時15分に自分で起きるまで、実に11時間近くぐっすりと眠り続けた。たいていは起こされなければ起きないジャンボが、満ちたりた顔をして起きてきた。

ジャンボと寝起きを共にした応援団長、栗原氏はこう確信した。「ジャンボがぐっすり寝た翌日は、必ずポンポン、パットが入る。まあ、見ててくださいよ」

アクシネットのパターは尾崎が初優勝したフェニックスでの日本プロの時に使ったもの。記念すべきパターで、「転がりが、あと一転がり、あと一転がりで伸びていくんだ。だからラインにさえ乗れば入るんだ」

しかしパットの好調さだけで66のコースレコードタイを、しかも最終日、優勝争いのなかでできるものではない。勝った直線の因はパットだろうが、他にもきっと何かあるはずだ。

画像: 随所で冴えを見せたジャンボのパッティング

随所で冴えを見せたジャンボのパッティング

尾崎、「一度でいいから相手のことは考えず、無我の境地でやりたいと思っていたんだ。そういう意味では村上さんと一緒にまわらなくてよかったと思う。一緒にまわっていれば必ず気にするからね。自分のスウィングだけを確信し、着実にひたすら無我の境地で打ち続けた」

尾崎、「むろん今度勝てたのは、ハッキリいってパットだが、ショットも変えたんだよ。春にラージボール対策としてドローを打つ特訓をした。それがすごい球でグングン伸びていく球筋なんだ。この球筋だ、オレの球は…。そう思い打ち続けてきたんだが、左半身を止め、手首を返してドローを打っていくうちに、ドライバーはいいんだが、ショートアイアンになるとだんだんスタンスがクローズになってきて、ピンに向かってまっすぐ向けなくなってきたんだ」

画像: 球筋をフェードに変え、ショートアイアンの精度も上がった

球筋をフェードに変え、ショートアイアンの精度も上がった

尾崎、「それで2日目の夜、悶々と寝られず考えたあげく、オレは、オレみたいにパワーのある者はフェードだ。こう結論したんだよ。フェードを打つためには3種類ほどあるんだが、スタンスはスクェアにして、右肩と腕と右腰を同時に振りおろしてくる方法を選んだ。トレビノみたいに右肩を突っこむ、あの形ね。そうするとバックスウィングが勝負になる。いままではフォローをよくしようと思っていた。ところが違うんだ。トップ、インパクトまで、右肩と腰を上からぶつけてくれば、イメージ通りのフェードになる。これだ、と思ったよ」

応援団長の栗原は「18番グリーンでワトソンの真似をしろ」と言った。その言葉通り、ジャンボは、横シマのシャツで、全英のときのワトソンと同じく、両手でV字を作った。新たな目標をはっきりこういった。

「公式競技を2回ずつとりたい」

画像: オレのようにパワーのある者はフェードだ

1977年関東オープン最終結果
朝霧ジャンボリーGC/6467メートル/パー72       
1位-11   尾将将司(日東興業)
2位-7   川田時志春(川越)   
      村上隆(殖産住宅)
4位-6   謝敏男(紫塚)     
      金井清一(パレス)
6位-4   草壁政治(紫)
7位-3   佐藤市雄(等々力)   
      山本一明(袖ヶ浦)   
      矢部昭(東名川崎)  
      上原宏一(札幌グリーンヒル)  
      今井昌雪(朝霧ジャンボリー)

画像: 笑顔でアテストのジャンボ

笑顔でアテストのジャンボ

朝霧ジャンボリーゴルフクラブ
静岡県富士宮市猪之頭2971
TEL 0544‐52‐0246
コースタイプ/丘陵コース
グリーン/ベントの2グリーン
27ホール/(甲斐)3573ヤード・パー36
(駿河)3401ヤード・パー36/(富士)3383ヤード・パー36
(駿河・富士)コースレート72.2/スロープレート127
(富士・甲斐)コースレート72.6/スロープレート126
(甲斐・駿河)コースレート73.2/スロープレート126
会員権/預託金制で譲渡可
設計/竹村秀夫
開場/1975年
公式ホームページはこちら

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