吉田プロが、篠塚先生の「テンフィンガーゴルフ理論」の門を叩くと、そこには見慣れぬ“道具”を持った笑顔の先生が……!
「打つ」のではない。スウィングとは「切る」こと
吉田 今日は、念願かなっての「1日入門」。とても嬉しいです。
篠塚 さっそくですが、この“刀クラブ”を使ってみましょう。
吉田 うわ、変わった道具ですね。
篠塚 これは、いろいろなことを教えてくれるんです。スウィングとは「打つ」のではなく、「切る」ことだと。さらに、この(刀の)反りの部分がしなりのイメージを持たせてくれます。まずは、とにかく振ってください。
吉田 なるほど、これで「打つ」ようにすると、無意識に点で考えてしまうから不安定になる。「切る」と、点の意識がなくなり、ゾーンであり、流れが生まれますね。
刀を振ると点からゾーンの意識にかわる
篠塚 はい。点でも線でもなくて「道」になるんです。この刀スウィングは、テンフィンガーでしかできない。グリップで体の動きまですべて自然に変わっていく。
吉田 桜美式の代名詞はテンフィンガーですが、このイメージがあるから、時松選手のような右手を下から持つグリップになるんですね。
【桜美式ゴルフハウス】
篠塚先生は福岡県福岡市で「桜美式ゴルフハウス」を主宰し、ここでジュニアやアマチュア、プロゴルファーを指導している
篠塚 そうなんです。ジュニアにも最初はテンフィンガーで好きなように握らせるんですが、皆自然に“時松型”になっていく。それに、チェックする部分が多いとゴルフを難しくします。「オンプレーン」「トップはココ」などは考えないから自然に何度も同じように振れる。「切る」と「打つ」は別物。切るは無心、打つは欲です。打ってやろうとした瞬間、力が入る。
吉田 なるほど、すべて、自然にできるようになるための、刀スウィングの意識付けなんですね。
篠塚 そうです。クラブに持ち替えても、シャフトに刃(は)があるように考え振ると、とてもスウィングがスムーズになり、皆、自然にフェードボールが打てるようになります。これで安定して曲がらない。考えてみれば、源蔵くん(時松の本名)のグリップはある意味フック。これをスクェアじゃなくちゃ上手くいくわけない、という発想ではダメ。「常識にとらわれるな」です。次に、この「横棒」を持って振ってみてください。
吉田 これもすごい。ヘッドが手元に上がってきたイメージですね。
軌道とフェースの向きが直結してやさしく振れる「横棒」
篠塚 フェース面の管理を横棒でする。ネジレもなくなります。この横棒も、分担型グリップだから
生まれた発想なんです。
吉田 とてもシンプルに振れます。パターと同じイメージでしょうか。感覚にスッと入ってきます。
篠塚 ひじを引いたほうがやさしく振れるのもわかるでしょう。
吉田 軌道とフェースの向き、両方イメージできる。それらがブレないから再現性が高いんですね。
イメージといえば、僕、小さい頃は北海道の苫小牧にいてアイスホッケーをしていました。そのシュ
ートのときの、リリースせずにそのまま打つ感じにも似ています。
篠塚 アイスホッケーのスティックは教室にもあり練習に使います。あのスピードの中でコントロールできるのは、両手を離して握っているから。それに関連して言うと桜美式では、まずスプリットハンドで打ってもらうんですよ。
両手を放したスプリットハンド素振り
吉田 なるほど。離して持つとヘッドに近いから同じ動きができるし、何も考えなくていい。手と体
が一緒に動くのもわかる。
篠塚 体と手の整合性ができてくるんです。
吉田 常に手が体の前にある感じがして、フェース面が変わらず、体でボールを運んでいく感じです。
篠塚 体のネジリがなくなるでしょ。そして、そこから左右の手を近づけたのが、じつは桜美式のテンフィンガーなんです。
吉田 このままアプローチもやってみましょう。
篠塚 はい。切るイメージで。
吉田 やはり、ひじが自然に引けますね。ボールがすごくフェースに乗っかっている感じがする。
篠塚 「打とう」としたら、そんなにきれいにつかまらないです。
吉田 右手主導の感覚もわかります。さあ、パターの話も聞かせてください。グリップも同ですか?
篠塚 同じでいいんですが、さらに右手のひらの動きを見事に生かすため、左手の人差し指と中指でグリップを挟む。右手主導で左手は邪魔しない究極のグリップです。
吉田 これは動かない。座禅を組んでいるみたいです(笑)。
篠塚 これで「ライジングパット」をしてください。ヘッドは真っすぐ、真っすぐ、斜め上に動く。結果、左ひじが上がるんです。
この転がりの良さは理に適っていますね(吉田)
吉田 おお、理に適ったいちばん転がりのよいストロークですね。
篠塚 よい転がりのために、右手で打つだけ。飛行機の離陸のイメージです。
吉田 このパターだけまずやってみるのも有効ですね!
篠塚 もう1つドリルを。手を輪っかにして、フラフープを持っているイメージで振ってみてください。
吉田 これは面白い。手だけではなくて、体が動いてくる。下半身も上手く縦に使うというか、キレあがっていくような感じに使える。
輪っかを作ると桜美式と地面反力が合体するイメージです(吉田)
篠塚 そうですね。これは、手の使い方のイメージにもいいんですが、体の動きもわかるんです。
吉田 前傾をきちんとキープしながら、下半身を効率よく使う感じになります。これ、まさに「地面反力」です。ジャスティン・トーマスの動きのような使い方です。
桜美式は飛ばすことに関しても効率がいい
篠塚 そうなんですね。私が考えた「バンジージャンプ型スウィング」も近いです。右ひじをサッと上げて重力に任せてスッと下ろす。V字型の動きですが、ダウンブローではない。そのときの下半身の動きは吉田さんの話と同じかな。
吉田 そういう意味では、桜美式は飛ばすということに関してもすごく効率がいい。上半身で余計な手の動きを入れないから、再現性が高まった上に、しっかり体を使って飛ばせるという。非常に理に適っていますね。
「桜美式テンフィンガーは上体がスムーズに動くから、地面の反力を生かしやすい」(吉田)
篠塚 吉田さんの連載、読んでいます。物理的にも考えられて、すごい。僕も物理で考えますから。僕はね、よく言われる下半身リードは教えない。無駄に体を動かす人が多いからです。結局ネジリも入る。でも、吉田さんの言うのは「地面反力」。地面の力を使うことは、私も教えます。足の裏を使えと。足の裏と手のひらはつながっています。
吉田 下半身が全然使えないから下半身から動かせと言うと逆効果になる。先生は、道具を使って教えるから、自然にせざるを得ない動きができるよう計算されている。
篠塚 人間のスゴさを生かさないといけないんです。
吉田 本能的なところにアプローチされているのもさすがです。今日いろいろ教わってつながってきたのですが、実は、時松選手を最初に見たとき、「前後軸(上半身の前傾角度に忠実な縦軸回転)で動いてるな」とすごく感じたんです。手を返したくないんだろうなとも。あとは、パターのイメージが基本にあるとも思いました。ローテーションも入っていないですし……。
時松プロのライジングパッティング
篠塚 パットの延長というのはそうです。源蔵くんのスウィングはずっと理解されなかった(笑)。
吉田 いや、理に適っています。下から握るグリップだとフェースローテーションも少なくなりますし、すべてオートマチックに動く。やはり、何か道具をイメージして、この使い方になったんですか?
篠塚 結構道具は渡してきました。遊んで覚えた。まあ、一般的に言ったら変わったスウィングでしょ。
吉田 でも、実際に球を見ると、オートマチックに運んでいる感じで、曲がらないというのが、ほかの人と全然違います。面白いです。
長く続けられることも考えたアンチエイジングな理論
篠塚 自分が打ちやすいところに打つというのがゴルフの基本。どんなに飛んでも、たとえば難しいラフに入ったらバーディチャンスは減ります。ここが源蔵くんのブレないところ。アプローチなんかも、ポーン、ツツッという(止まる)球を打ちません。
時松プロのアプローチショット
篠塚 ピューンと上げてポトッという感じ。不思議な球ですよ。アイアンも、ジュニアの頃から「ショートした!」と思っても、そのまま上手いこと飛ぶ。トラックマンで測るとスピン量がすごく少ないんですよね。まるーく打つんです。
吉田 インパクトがいい意味でないんですよ。すごくシャローに入ってそのまま抜けていくから、ロフトなりの高さで飛ぶんです。
篠塚 その安定感が粘りにつながる。じつはね、僕が昔競技に出ていた頃、パーシモンで体をネジってとにかく飛ばそうとしていた。それで早くに腰を痛めて、今の研究に至ります。人間は関節が自然に曲がるようにできているのに、無理に伸ばせとゴルフは教えますから。
吉田 ケガしますよね。ひじは横には動かない。でも昔はネジらず打つ人はいませんでした。杉原輝雄さん(生前は永久シードを保持していた名手)くらい。
篠塚 杉原さんはスゴイ人。僕たちの理論に近い動き。あの個性的なスウィングで、飛ばないけど曲がらなくて50勝以上。今で言うとジョーダン・スピースが同じ感じに見えます。今のクラブやボールは、手を返したりネジらないほうがいいようになっていますし。
吉田 おお、桜美式は古今東西の名選手で話ができますね(笑)。確かに、今、海外の選手はあまり手を返しません。
篠塚 スピースは、フェースローテーションが少なくて、フォローで左わきが開きます。曲げたくないスウィングだと一目でわかる。
吉田 スピースは左利きなので、左手甲の面のイメージを重視しています。その甲を目標に出すため、フェース面を変えないイメージになる。これは先生の刀を使うとわかります。スピースなら左手で切る感じ。右利きでも、右主導で押すと左が自然と引けるので、スピースのイメージが理解できました。
篠塚 スピースは、パッティングでカップを見ながら打つあたりも桜美式と共通します。獲物を狙うように打つ。これも人間の自然な動きなんです。
吉田 ほかに米ツアーの選手で気になる人はいますか?
篠塚 ブルックス・ケプカは、新しいスウィングです。腰を回して打ってない。体は大きいけれど静かなスウィング。飛んで曲がらない。
吉田 上半身が主で腕を振るタイプの選手は動きが激しかったり力感がありますが、下半身が主で上半身がきちんとそれについていく選手は静かに見えますね。
篠塚 ダスティン・ジョンソンの手首の使い方も気になります。「猫の手」の感じで、ダウンからインパクトで手のひら側に手首を使って、フェースをねじらない。これも桜美式と共通します。
吉田 確かに、フェースを真っすぐに使う感じは同じ。「横棒」を持って振っているようなイメージ。本人は、シンプルなスウィングをしている感覚だと思うんです。
篠塚 ジャスティン・トーマスは、右手主導のスウィングだなあと思います。右手のひらで打ってます。
「時松くんに近い動きがある。縦方向の出力をすれば、トーマスみたいに飛びます」(吉田)
吉田 じつは、僕が時松選手のスウィングを見て一番近いイメージがトーマスです。普通はそう思わないでしょうが、前後軸の動き、腕をネジらずフェースローテーションを入れない点など共通します。時松選手は、縦方向の下半身の動きが少ないので、トーマスと同じくらい縦方向の出力をすれば、さらに似て飛ばし屋になるかもしれません。
篠塚 もっと飛ぶというイメージは源蔵くんにもあるはず。でも、無理に何かすると、よさも消えるので、今、特にシーズン中はそのままで。いずれまた飛距離アップも考えないといけないでしょうから。
吉田 でも、刀の動きをすると、自然と下半身は縦の動きをしたくなります。下半身が切れ上がっていく感じですね。それにともなって、前後軸回転が起きる。下半身の動きを加えることで飛んで曲がらないスウィングになります。地面を強く蹴って跳ね返ってきた力を上半身の回転力に変えることでよりスウィングのスピードを上げる。これって、体に負担のないスウィングなんですよ。
篠塚 怪我せず、長くゴルフを続けてほしいのも願いのひとつです。
吉田 シンプルで余計なことを考えなくてよいのが、桜美式のメリット。ゴルフが簡単になります。曲がる人や、ゴルフを始める人に特におすすめ。それに、感覚やイメージで自然に身につける手法は、今まで見た理論のなかで最も自然に取り入れやすく感じます。練習量もいらないでしょうしね。
篠塚 源蔵くんが、全英で桜美式グリップを世界デビューさせてくれましたから、これからも多くの方に取り組んでもらいたいですね。
吉田 刀にしても、“メードインジャパン”な理論が、アメリカで受け入れられるかもしれません。今度また、「桜美式with地面反力」でぜひコラボしたいです!
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PHOTO/Akira Kato、Tadashi Anezaki、Hiroyuki Okazawa