それは思ってもいない連絡だった。2016年8月に発売した「RS-F」ドライバーの中にルール上限を超えた個体が混在している可能性がある。世界のゴルフルールを統括するR&Aは、プロギアに適合ルールから削除する可能性があることを伝えてきた。プロギアはすでに出荷する製品すべての全数検査を行っており、製品に対する自信があった。しかし、同年3月に高反発規制のルールが変更になっていたことに足元をすくわれた。

同年12月26日、正式に適合リストから削除された(2016)RS‐Fドライバーは、無償交換をすることとなる。しかし、対処方法を間違えれば「プロギア」の事業消滅もありうる窮地に立たされた。

飽くなき探求心。それがプロギアの文化

ご存知のようにプロギアは、タイヤ業界大手の「横浜ゴム」の子会社である。そのため、「ルール不適合」という不祥事についての対応を、親会社にきちんと説明し、納得させなければ現実問題として事業廃止の可能性もあった。しかし、山本らが行った異例の「神対応」は、親会社からも評価され、ユーザーからの信頼も失うことはなかった。今はやりの「危機管理」が上手く機能した好例と言えるだろう。

山本は言う。「『RS』シリーズ開発当初、『ギリギリ』というキーワードは開発部門ではなく、販促部門から提案されたものでした。開発部門としては、そういうキーワードが提案された以上、実際に『ギリギリ』の設計ができているのか、もう一度見直すきっかけになりました。結果として、一度は失敗したわけですが、失敗から得られた教訓というのも、また大きかった。CT値に関しては、何も本当にギリギリを目指さなくても、もっと安全圏で妥協するほうがいいという考えもあるのでしょうが、『239+18μsの257μs(マイクロセカンド)』という上限が、R&Aの内規ではなく、ルールとして明記されている以上、そこを目指さないというのは、我々の企業理念としてあり得ません。そもそも『ギリギリ』というのは、反発係数やCT値が『ギリギリ』というだけではなく、ルールの範囲内で、持てる技術、経験、知識を総動員して、『ギリギリ』まで飛距離性能を追求したモデルということです。その姿勢は、これまでも、そしてこれからも、まったく変わることはないでしょう」

プロギアは「RS-F」が適合リストから削除される以前に、そもそも反発規制の上限を上回る「金eggドライバー」を発売している。2008年の高反発ルール施行後、ルール不適合の「高反発ドライバー」の発売は、大手メーカーとしては初めてのことだった。その際、R&Aからは、「なぜ自ら三流メーカーになろうとするんだ」と、厳しい言葉で発売を思いとどまるように説得されたという。

画像: 2017年9月に登場した、反発規制の上限を上回る高反発ドライバー「金egg」

2017年9月に登場した、反発規制の上限を上回る高反発ドライバー「金egg」

山本は、「ゴルフを発展させたいという思いはあなたたち(R&A)も我々も一緒だ」と譲らなかった。高反発ドライバー発売に踏み切ったことにより、R&Aから「目の敵」にされて、それが「RS-F」のリスト削除の遠因になったという憶測がネット上でまことしやかに流布されているが、それについて、山本は明確に否定する。

「R&Aとは元々、技術交流があり、いろいろな場面で対話を続けてきた関係なので、『金egg』の一件で関係が悪化したとか、ましてや目の敵にされたということはあり得ません。R&Aは民間団体ではありますが、ルールを統括する正式団体として、我々も敬意をもって接していますし、R&A側も、私たちの取り組みにきちんと理解をもって誠実にアドバイスしてくれています」(山本)

ゴルフは全世界的に競技人口の減少と、市場規模の縮小に直面しており、将来の展望がなかなか見通せない時代に突入している。この重苦しい雰囲気を打破するには、やはり革新的なデザインで、旧来の常識を大きく覆すような、「ギリギリ」の挑戦が必要だ。それはプロギアがこれからも続けていくであろうことにほかならない。

2016年、池田勇太は契約外で「RS-F」を使い賞金王に輝いた

画像: 2016年、池田勇太は契約外で「RS-F」を使い賞金王に輝いた

2016年8月に発表された「RS-F」は池田勇太が契約外で使用したことも人気に火をつける一因となった。

新「RSシリーズ」は2018年7月13日発売

画像: 技術と経験、知識を結集して"ギリギリ"まで飛距離を追及する探究心こそが、プロギアの文化と山本副社長は言う

技術と経験、知識を結集して"ギリギリ"まで飛距離を追及する探究心こそが、プロギアの文化と山本副社長は言う

高初速エリアを大幅に拡大し、さらなる飛距離とやさしさを追求した新RSシリーズは「RS」、「RS-F」の2種類のドライバーに加え、FW、UT、アイアン、ウェッジ、ボールをフルラインナップ。「ギリギリ、全開。」をキャッチフレーズに2018年7月13日発売した。(了)

プロギア「RSシリーズ」の公式ホームページはこちら

週刊GD2018年7月3日号より

画像: 新「RSシリーズ」は2018年7月13日発売

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