コモにはじめて会ったのは、2016年1月。コモが主催する勉強会に参加したときのこと。最初の印象は「おとなしい人」。欧米のコーチは総じて、物事をハッキリ言う人が多い。自己アピールが上手で、説得力があり、押しが強い。
デビッド・レッドベターやタイガーの元コーチ、ショーン・フォーリーがいい例で、自分の理論を押し付ける「グイグイ系」がほとんどだ。ところがコモには、そんな雰囲気はまるでない。物静かで思慮深く、よく考えてものを語る。ある意味「職人的」という印象を受ける。非常に珍しいタイプのインストラクターだ。
なぜ、みんな言うことがバラバラなのか……?
コモは1977年生まれ、ロサンゼルスのバーバンク出身。16歳の頃から、スウィングのメカニズムに強い興味を持ち、地元の有名なコーチに師事。大学で心理学と認知科学を専攻し、弱冠20歳でティーチングの道に進んでいる。
その後も、レッドベターやハンク・ヘイニー、マイク・アダムス、マック・オグレディなど、名だたるコーチのもとを訪ねては、その教えを吸収。さらにあらゆる本にも目を通し、スウィングをとことん探究していった。
そうしたなかでコモは「コーチによって言うことがバラバラであることに疑問を持ち、それを追求したいと思うようになった」と言う。
バイオメカニクスとの出会いが、コモのティーチング人生を変えた
その情熱が、コモをある人物と結びつける。テキサス女子大学でバイオメカニクス(生体力学)を研究するヤン・フー・クォンだ。週刊GDで「反力打法」を展開しているクォン教授その人である。
「バイオメカニクスの観点からスウィングを研究するにあたり、ゴルフに詳しい専門家の助けが必要だった。そんなとき、ある学生から紹介されたのがコモだった」とクォン教授は言う。2007年のことだった。
「彼は当時まだ30歳ぐらいで若かったが、非常に問題意識が高い男で、常に現状の理論に疑問を持っていた。もっと効果的で、かつ体にやさしいスウィングがあるのではないのか、と。私はすぐに彼を生徒として受け入れることに決めました」(クォン)
バイオメカニクスとは、体の動きを力学的に分析し、より効率的で、かつケガをしにくいパフォーマンスを追求する学問。「反力打法」に代表されるように、自分の筋力だけでなく、重力や地面反力といった「外力」を上手く利用することで、より高いパフォーマンスを、よりラクに発揮できるようになる。まさに運動の根本原理といえる。
コーチによって言うことがバラバラ──コモの長年のモヤモヤが、バイオメカニクスという1本の串を通すことで、解消されていった。
「クォン教授に出会い、多くの研究を重ねていくなかで、スウィングの根本原理を理解・判断するための優れたレンズを手に入れることができた。それぞれの選手が抱える悩みや問題点に対して、どうアプローチすべきかを判断するうえで、とても役に立っている」とコモは語っている。(後編へつづく)
【取材・文】吉田洋一郎プロ
よしだ・ひろいちろう 1978年生まれ。北海道出身。D・レッドベターをはじめ、欧米の名だたるインストラクターの門を叩き、直接指導を受ける。『驚異の反力打法』上梓
週刊GD2019年1月29日号より