2018年、大ブレークした韓国の“虎さん”ことチェ・ホソン。彼の人気の秘密は、ド派手なスウィングだけでなく、サービス精神につながる「人生ストーリー」にもある。見た人を魅了する技術と人柄はいかに育まれたのか。超多忙な虎さんがやっと手に入れた故郷の休日を訪ねた。

虎さんが、ゴルフに出会った場所、1番打席

虎さん(チェ・ホソン)と待ち合わせしたのは、昨年のクリスマスイブ。ソウル郊外の「安養カントリークラブ」に併設の練習場で、オレンジのキャップで姿を現した。「オレンジ色は前向きな気持ちにしてくれる。リッキー・ファウラーより僕のほうが早いですよ(笑)」

画像: かつて猛練習した左端の1番と2番打席。「業務が終わる15時以降、練習場が締まる23時頃までは球を打ち込み、終わったら整理整頓して帰る日々でした」

かつて猛練習した左端の1番と2番打席。「業務が終わる15時以降、練習場が締まる23時頃までは球を打ち込み、終わったら整理整頓して帰る日々でした」

この練習場は、虎さんがゴルフと出会った場所。最初は、ゴルフが何かも知らずに、お金を稼ぐ仕事場として勤めたのが1995年だった。当初は、移動式マットを掃除したり球拾いをしていた。

虎さんが本気でゴルフに取り組んだのは1998年1月8日。社会人として生活費を稼ぐため、プロゴルフ選手としてのライセンスを取ろうと覚悟を決めた。

自分に変化を与えたかった。「ゴルフするなら最高の環境だった。今やらずしていつやるのか」。一年3ヵ月後にはセミプロになり、四年後には韓国下部ツアーの賞金王になった。

画像: 今のコーチはスマートフォン。撮影した動画を見て、自分で修正を重ねる。片手打ちや、状況ごとに球筋を打ち分ける練習が大切

今のコーチはスマートフォン。撮影した動画を見て、自分で修正を重ねる。片手打ちや、状況ごとに球筋を打ち分ける練習が大切

虎さんにコーチはいなかった。お金がなく、教えてもらうことができなかった。コーチは練習場にあったゴルフ雑誌や本。研究し、独自で作り上げたスウィングは「プロには絶望を与え、アマチュアには希望を与える」と真顔で語る。

「一日が10日のつもりで密度ある練習をしています。目標を立て、一日一日最善を尽くしていけば、段階的に上手くなってくるのがわかった。できる! の気持ちでやっていました」

そして2013年、インドネシアオープンで優勝。そのときはまだ、代名詞の“フィッシャーマンズスウィング”ではなかった。

「若い頃は力強いスウィングを求めましたが、年齢とともに無理は出てくる。道具も進化しているし、若い選手と闘うため、フォームより自分が望む距離や球筋だけを求めて試行錯誤し考案したスウィングです。綺麗なフォームとは言えませんが、自分の打ち方も悪くはないか、と。顔も皆が同じだとつまらないでしょう」

虎さんは高校卒業後に働いた水産会社で、右親指先を切り落とす大ケガを負っている。試合中も右ポケットに右手を入れているのは血行が悪いため。「雨や寒さで右手親指に血が回らず冷えてしまいがち。生意気だと思わないでください」と笑うが、虎さんはこれをハンディとは思っていない。

画像: 右親指の障害のおかげで頑張れると考えている。 「指先を失い、逆にうまくなれた。独自の工夫をして前向きに考え克服してきた」

右親指の障害のおかげで頑張れると考えている。
「指先を失い、逆にうまくなれた。独自の工夫をして前向きに考え克服してきた」

画像: 素振りもフィッシャーマンズスウィング!

素振りもフィッシャーマンズスウィング!

「当たる瞬間、重心を変えることで、ヘッド軌道、フェース面の動きが変わる。球筋もコントロールする」が変則スウィングの真実。

ゴルフをやめようと思ったことはない。「自分には(ゴルフ以外に)頼れる希望がなかった。壁にはぶつかる。でもそれを気にすると何もできない。問題や障害は必ず克服できると考えれば、自分の気持ち次第でゴルフはどんどん上達するんです」

ハルハル(一日一日)、最善を尽くす

虎さんの成功は、学校の教科書にも載った。「環境に恵まれず他人より10年も遅くゴルフを始め、障害という困難を乗り越え成功を収めた」と綴られている。今年、長男がこの本で勉強するという。

画像: 赤い囲み部分

赤い囲み部分

韓国語で「一日一日」は「ハルハル」という。この響きの言葉を虎さんが口にすると、願いがかなう気がしてくる。「明日のことは誰もわからない。今この瞬間が大事です。大きな目標も大事ですが、一日一日最善を尽くして一生懸命やれば、目標は自分に近づいてくる。良いことも悪いことも自分の気持ち次第です」

今回の訪問中も「応援してくれる日本の方には身の置き所がないほど感謝しています」と繰り返した虎さん。

「ゴルフは、病気の原因にも薬にもなる。でも、それを自分で克服すると自分が誇らしく思える。皆さんに応援していただき、力を得て、僕は現場で燃え尽きるまで最善を尽くします」。2019年も活躍を誓った。

チェ・ホソン(45歳、A型、172センチ、76㌔)
1973年9月23日 韓国南東部の湾岸都市、浦頂で生まれる
1993年 浦港水産高校卒業後、地元水産会社に就職。右親指を切る大ケガをし、放浪の旅に。
1995年 ソウル近郊、安養CCの練習場にアルバイトとして勤務
1998年 1月8日 プロになるためゴルフを始める
1999年4月 セミプロ合格
2001年 韓国下部ツアーで賞金王に
2008年 韓国ツアーで初優勝(計2勝)
2013年 インドネシアオープン優勝。日本ツアー参戦。
2018年 カシオワールドで日本ツアー2勝目

取材協力/Masaki Tachikawa PHOTO/Tadashi Anezaki

週刊GD2019年1月29日より

画像: ハルハル(一日一日)、最善を尽くす

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