ささくれ程度でも10ヤード落ちた!
ボール交換はどのタイミングですればいいのか。この疑問は多くのゴルファーが抱えていることだろう。プロのように契約メーカーからボールが支給されていれば、ちょっとしたキズでも交換すればいいのだろうが、懐事情とも相談しなくてはならない一般のゴルファーにとっては、そう頻繁にニューボールに交換するわけにはいかない。
もちろん、「前のホールで大叩きしちゃったから、ボールを替えて気分を切り替えよう」という、メンタル面での交換のタイミングもあるのだが、今回はボールのキズという「物理的」な影響による交換のタイミングについて検討してみよう。
まず訪れたのは、大手のボールメーカー。ボールのことをいちばんよく知っているのは、やはりボールを製造しているメーカーだ。取材してみると、「キズなし」と「キズあり」のボールによる試打マシンのテストデータを入手することができた。
そして、その内容が衝撃的。「キズあり」のボールは写真のとおり。キズといってもそれほど大きなものではない。カバーの部分に少し突起のようなものがあり、簡単にいえば少し「ささくれ」があるという程度のものだ。しかし、このささくれだけで、飛距離が10Y以上落ちる。
この程度の傷でも飛距離は10ヤード落ちた↓
最大でマイナス40ヤード。これは一大事!
今回のデータは匿名を条件に提供してもらったのだが、メーカーによるとこの程度のささくれでも、空気抵抗が増大し、飛距離が落ちるのだという。また、その影響は飛距離だけでなく、弾道と方向性にも表れ、キズと反対にボールが曲がるというテスト結果が出たとのこと。
このデータについて日下部光隆プロに尋ねると「キズと反対に曲がるというのは、泥がついたボールと同じですよね。空気抵抗によって弾道に影響が出るというのは、多くのプロが把握していることです」と日下部プロ。
「キズによって飛距離が落ちるというのももちろん把握していますが、プロはあまりキズが入ったボールを打つことはないですから、どの程度落ちるかというのは、打ってみないとわからないですね」とのこと。
というわけで、早速、日下部プロにキズついたボールをコースで打ってもらった。
まず新品のボールを打ってもらうと、見事ナイスオン。次に同じ場所から、カート道で跳ねたときにつく程度のささくれたボールを打ってもらうと、グリーン手前のエッジにキャリーした。「確かに飛距離は落ちますね。思ったよりも影響は大きいです」と日下部プロ。
ドライバーでも打ってもらうと、キズの大きさによってはなんと最大で40Yも飛距離が落ちることがわかった。「さすがに40Y落ちたボールは、一般のアマチュアの方でも絶対に使わないような大きなキズでしたが、それ以外の小さなキズの入ったものでも、キズによる影響が思った以上に大きいのは予想外でした」と日下部プロ。
そこで、日下部プロにはドライバーとアイアンだけでなく、ウェッジやパターなどでも打ってもらいながら、キズの入ったボール適正な交換のタイミングを探ってもらった。
ショートゲームでは、とくにグリーン上で変化が如実に表れた。グリーン周りのバンカーからキズがあるボールを打ってもらったところ、グリーンに落ちてから「キズのない」ボールとは異なる転がりを見せた。
傷がつくとパットの方向性が悪くなる
パッティングでは、転がりに加え、方向性に関しても「キズなし」ボールとで、大きな違いが出た。状況はカップに向かって、下りの3メートルから。「キズなし」ボールはもちろんプロの正確な技術で見事カップ・イン。
同じ要領で「キズあり」ボールを打ってみると、「キズなし」ボールとほとんど差がないボールもあったが、なかには右に出たり、大きくラインを外れたりするボールも……。
ボールを交換するべきキズの程度は、何をポイントにして考えればいいのだろうか。「パッティングは、常に地面に接しているために、凹凸やキズがあると必ずと言っていいほど、影響を受けます。グリーン周りでも、スピンのかかり具合や、転がりにも影響が出ますね。キズの程度にもよると思いますが、汚れ程度のボールのキズであれば、そこまで転がりの差は出ません。しかし『ささくれ』ができているボールは、空気抵抗も受けますし、予想もしないような方向に曲がったりしやすい。やはり交換すべきボールと言えるでしょう」(日下部プロ)
さらにプロは、アマチュアゴルファーの「キズあり」と「キズなし」ボールの使い分けについても注意喚起した。「池越えのパー3で、池ポチャしたらもったいないからと、あえてキズのついた古いボールを使う人がいますが、本当は逆。新球とキズありでは、キャリーが10ヤードも違う。本当は、池を越えられていたかもしれないわけです」と日下部プロ。やはりボールは、きれいなものでプレーすべきなのだろう。
週刊GD2019年4月16日号より