「ボールを叩く感覚を身につけるために必要なこと」の話から派生して、「いわゆる定説にも落とし穴がある」と湯原は警鐘を鳴らす。「左サイドリード」「腰を回せ」を例に挙げながら、その核心を見ていこう。そして、ボールを叩くことの先にある「ボールスピン」へと、話は展開していった。今週の通勤GDは「迷ったとき、ユハラに帰れ」の第6話から。

【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。

【湯原信光プロ】
ツアー7勝、シニアツアー1勝の日本を代表するショットメーカー。とくにアイアンショットの切れ味は、右に出るものはないと言われた。現在は東京国際大学ゴルフ部の監督も務め、後進の指導にも力を注いでいる。

GD 誤った情報がインプットされて、それが正しい動きの邪魔をしているという話の続きですが、そういう事例はたくさんあるんでしょうね。

湯原 多いですね。体の機能を無視した情報もあるし、情報そのものは誤りではないにしても、相手が誤って受け取るような表現が、ゴルフには多々あります。そのひとつが、前回でもちょっと触れた“左サイドリード”です。

GD 「ゴルフは左サイドのスポーツ」とよくいわれているように、一般に受け入れられている通説のようにも思えますが、ダメなんですか?

湯原 ベン・ホーガンのスウィングを思い出してください。ダウンスウィングに入ったとき、左肩はリリースギリギリまで開かないで、胸板は右つま先の方向を向いています。ここに、ホーガンが誰よりも正確に遠くヘボールを飛ばせた秘訣がありました。

湯原 ところが、左サイドリードを意識すると、左で引っ張ろうとするため、ダウンスウィングに入った途端に、左肩が開いてしまうんです。とくに日本人は、“押す”より“引く”の感覚が日常生活で身に付いているので、余計に左で引っ張ってしまう。これではボールを叩けません。

GD 日本人特有の感覚というか癖ってあるんですか。

湯原 たとえば、鋸の使い方が典型的です。欧米のモノは押して使うようになっているのに対して、日本のモノは引いて使うようになっています。ほかにもいろいろ事例がありますけど、とにかく日本人の場合、左サイドリードというと左へ引こうとするので、タメが作れなくなってしまうんです。

GD ダウンスウィングに入ると同時に体が開いてクラブのリリースが早くなってしまうわけですね。そうなるとスライスするしかない。

湯原 左サイドリードというのは、そういう動きを増長する表現です。テークバックで上げたものを、真下に下ろす瞬間があるから、切り返しに“間”ができるし、クラブが立つんです。そして、左肩は開かずに、体の回転でインパクトへ加速できる。この動きを覚えれば、シャフトがしなって、ボールを叩く感覚が体感できるはずです。だから、左サイドで引っ張るという発想はまったくありません。

GD 「叩くという感覚でクラブを振り下ろすために」という話をまとめると、①背骨を中心に体を回転し、背中を目標に向けてテークバック完成。②切り返しでグリップエンドを下へ押し下げる感覚でダウンスウィング開始。そこで手首が自然に柔らかく使われてタメができる。こんな感じでしょうか?·

画像: 背中が目標を向いてトップ。手元が真下に落ちてダウン

背中が目標を向いてトップ。手元が真下に落ちてダウン

叩くと増えるスピン。スピンを減らすために

湯原 そうです。それで叩く感覚を覚えたら、打ちたい距離に応じて、スピードをコントロールすればいいのです。ただし、ボールコントロールには、スピードだけでなく、スピンのコントロールという意味もあるんです。

GD スライス、フックの打ち分けですね。

湯原 いや、スライス、フックという横の曲がりは、また別の機会でお話しすることにして、私が話したいのは縦の回転なんです。

GD ボールは打ち出された瞬間から逆回転しますよね。そのかかり具合ということですね。

湯原 ボールの頭を叩いてしまう極端なミスはともかくとして、空中を飛ぶボールは必ずバックスピンがかかっています。ドライバーに関していえば、ここ数年、バックスピン量をなるべく少なくする方向へ進化しているし、ボールもまた低スピン化の方向へ進んでいます。

画像: ジュニア時代に教わった石井プロはボールの吹きあがりを抑えるためにヘッド軌道をできるだけシャローにしてスピン量を減らしていた。「思いどおりに入射角とヘッドスピードを操る先人たちの技術は、道具が進化したいまでも学ぶべき」と湯原

ジュニア時代に教わった石井プロはボールの吹きあがりを抑えるためにヘッド軌道をできるだけシャローにしてスピン量を減らしていた。「思いどおりに入射角とヘッドスピードを操る先人たちの技術は、道具が進化したいまでも学ぶべき」と湯原

画像: 釘を横から叩く角度、スピンが安定する入射角

釘を横から叩く角度、スピンが安定する入射角

湯原 しかし、私たちは、パーシモンヘッドにバラタボール(糸巻き)の時代にゴルフを覚えました。アゲンストのなかで思い切りボールを叩けば、スピン量は増幅されるので、吹き上がって、放物線の頂点から前へ進まず、ストーンと真下に落ちる弾道になってしまうんです。

GD 昔は、引力に逆らうように途中からホップするプロ特有の弾道は、見ていてカッコいいなと思ったものです。でもそれは、プロにとっては悩みの種でもあったんですね。

湯原 強く叩きながらも、いかにしてバックスピンを減らして打つか。それがプロとしての腕のみせどころだったわけですが、私の師匠の石井茂さんは、実に見事にそういうボールを打っていました。

スピンコントロールで弾道を打ち分けていた時代

GD どうやって打っていたんですか?

湯原 アゲンストのときは、できるだけヘッド軌道をシャロー(浅い角度) な入射角にして、ボールの回転を抑えていたんです。当然、状況によっては入射角を鋭角にすることもやっていました。だからこそ石井さんはショットメーカーと呼ばれたんですね。石井さんばかりではなく、橘田規さん(日本オープン2勝、日本プロ2勝)、戸田藤一郎さん(日本オープン2勝、日本プロ4勝)、もちろん陳清波さんも、そういう技術を持っていて、私なりにいろいろな質問をぶつけて勉強させていただきました。スピンコントロールで弾道を打ち分ける技術が絶対的に必要な時代でしたから。

GD 当時の名手たちに何か共通点はあったのですか。

湯原 ダウンスウィングでシャフトと腕が作るアングルがもの凄く鋭角でしたね。そのリストワークで、どうやったら、自分の思うような入射角でクラブを入れられるか、それに対してヘッドスピードをどう与えるか、それができた方たちでした。見ているだけで勉強になりました。

GD いまではポールとクラブが大きく進化して、吹き上がりをあえてテクニックで抑える必要がなくなっていると思うのですが……。

湯原 確かにそういう傾向はあります。でも、プロでもアゲンストになると極端に飛距離が落ちてしまう人はいまでもいるわけで、先人に学ぶところはまだまだあると思います。

週刊GD2013年より

画像: golfdigest-play.jp
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