前回第7話の話
【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。
【湯原信光プロ】
ツアー7勝、シニアツアー1勝の日本を代表するショットメーカー。とくにアイアンショットの切れ味は、右に出るものはないと言われた。現在は東京国際大学ゴルフ部の監督も務め、後進の指導にも力を注いでいる。
湯原 前にベン・ホーガンが長いクラブになるに連れ、左足をちょっと前に出してクローズ気味に構えているという話をしましたね。これは私の解釈ですが、強烈なヒップターンの副作用として出る大きなフックを防いでいたのでしょう。いずれにしても、方向取りはスタンスの向きではなく、ひざから上あたり、股とか腰、肩の向きで行っていたと思います。私もそのほうが重要だと考えています。
GD 方向性に影響を与えるのは、ひざから上の部分なんですか。
湯原 スタンスの向きというものは、アンジュレーションとか、打とうとする球筋とか、いろいろな条件で変わってきますから、スクェアの基準にはならないのです。つま先からひざ、腰、肩と全部を平行に構えるのは、現実的に無理だと考えたほうがいいでしょう。ひざもライに対応して変化しますから、平行を意識するのは、そこより上の部分になってくるはずです。
GD そのひざですが、深く曲げている人もいれば、ほとんど棒立ち一の人もいます。曲げ具合についてはどう考えればいいでしょうか?
湯原 ひざの曲げ方は、あまり意識しなくてもいいと思います。ただし、余りにもピーンと伸ばしているのは危険です。車のショックアブソーバーと同じで、衝撃を吸収できる程度に、ゆとりを持たせる必要があります。ひざばかりではなく、曲げたり伸ばしたりできるすべての関節に共通して言えることですね。
地球に対して垂直に腕を垂らす
GD それが、前回おっしゃっていた自然体ということですね。
湯原 そうです。持っているクラブの重さを含めて、バランスよく立つ。そのときひざはどんな状態なら、上手く動き出せるかを感じることが大切なんです。肩や腕の関節もそれと同じです。前傾して、どこにも力を入れずに、腕をブラーンと引力に任せて自然に垂らした状態が自然体です。
GD ということは、ひざも腕もゆるやかに曲がっているほうがいいんですか。
湯原 例えば、腕をギュッと伸ばしたとします。ひじがロックされて動きが制限されてしまいますよね。腕が棒のような状態では、シャフトをしならせるようには使えません。筋肉のどこかに力がかかっている状態ではなく、いかようにも動けるように、筋肉のテンションは均等になっているのが理想です。
GD わきを締めろという教えもあります。
湯原 わきを締める必要はありません。自然に上腕の内側が、軽く胸の横に触れているぐらいがいいでしょう。わきを締めるのも、やはりロックするのと同じですから。
GD あくまでも、引力に逆らわないわけですね。
湯原 基本は、引力に逆らわず、地球に対して垂直に腕を垂らしてやることです。よく、腕を前に突き出して構えている人を見ますけど、その位置に毎回、腕もクラブも戻してやるのは、難しくなってしまいます。それよりも、引力でブラーンとしておいたほうが、ずっと再現性は高くなります。そうやってクラブを持ってバランスよく構えると、昔から言われているように、グリップエンドと腹の間に、拳1個か1個半ぐらいの隙間ができるはずです。
関節にゆとりがあるとクラブが走る
GD 前傾姿勢なんですけど、よく背筋を反らせて真っすぐにとか、場合によってはお尻の穴を上に向けるぐらいの意識で、などという表現するのを見ることもありますが、どうなんでしようか?
湯原 はっきり言って、それは大変な間違いです。間違いだけならいいのですが、体に負担を与える大変危険なことでもあるんです。
GD 危険なのですか!
湯原 人体の骨格図を想像してみてください。大雑把に言って、頭と骨盤は背骨(脊柱)で繋がっていますよね。その背骨はS字のカーブを描いていますが、それは骨が積み木みたいに積み上がったものです。その積み木のひとつひとつが、前後左右、どの方向に対しても均等に並んでいる状態が正しい姿勢なんです。言い換えれば、引力に対して最も自然な並び方と言ってもいいでしょう。
GD なるほど。それを無理に背筋や腰を伸ばしたりすれば、骨と骨との間が均等ではなくなってしまうということですか。
湯原 そうです。腕を無理に伸ばそうとすると、ひじがロックしてしまうと言いましたけど、それと同じように、背骨の間がロックして、自在に動けない状態にしてしまうんです。ゆとりがなくなると言ってもいいでしょう。
GD ひざ、腕、背骨、すべてをゆとりのある状態にしておくのが自然体ということですね。
動きやすい体勢がアドレスだ
湯原 とにかく、関節という間接はロックしないように意識する必要があります。それには、骨格を知ると理解しやすいと私は考えています。関節にゆとりがあるということは、筋肉にもゆとりがあるということで、ダウンスウィングに入ったときに、自然と遠心力が働いて、ビューッと伸びてクラブが走ってくれるんです。
GD 背筋をまっすぐにというアドバイスで、そういう動きが阻害されてしまうのですか?
湯原 伸びる余地があるから伸びるわけで、それを最初から余地がないように構えてしまえば、伸びません。各関節が普通の位置にある状態がいちばん動きやすいんです。
GD それが自然体という言葉に集約されていると。
湯原 アドレスでは足指で地面をつかむと言う人もいますが、これがもし、足指を立てるということなら誤りだと思います。足の裏に掛かるウェートは、かかとと、親指から小指にかけての拇趾球とで形作るトライアングルに乗るのが自然です。足の指は地面に密着しつつも、少し浮いているぐらいのほうが、上手く使えますからね。
GD まとめると、①スタンス幅は、広くても狭くても肩幅を許容範囲にする。②各部の関節にゆとりを持たせて、クラブを持った状態で引力に任せてバランスを取る。③ 骨格をイメージして背骨の一っひとつが均一に並ぶようにする。④ ウェートは足裏のトライアングルで受け止める。これが自然体のアドレスということですね。
湯原 何よりも、動きやすい体勢であることがアドレスの大前提です。
週刊GD2013年より