血流がよくなるから、微妙なタッチが出せるんです
多くのスポーツ選手に、自律神経の安定をパフォーマンスにつなげるための指導をする小林先生はこう語る。
小林 笑顔は、免疫機能を上げ、血流をよくします。血流がよくなると体の末端にまで血がめぐるので、ゴルフでいうと微妙なタッチがよくなり、寄せやパットにいいんです。また、よいプレーには自律神経の安定が必要ですが、そのためには表情筋をゆるめるのが効果的。副交感神経が上がり、呼吸が深くなるので自律神経が整います。だから、僕もラウンド中はいつも笑うようにして、プレーをカバーしているんです。
では、笑顔を無理に作っても効果はあるのか。
小林 笑顔をストレッチのようなものと考えると、無理に作っても効果はある。口角をしっかり上げるのがポイントです。ルーティンの前やショットの前など、自分にとってよいタイミングを探しましょう。リラックスできグリップの力みがなくなります。また、笑顔を作る意識があると“我に返る”というのもポイントです。プレーのメリハリにもなるんです。
緊張とリラックスの切り替えのためのスイッチに
笑顔は、フィジカルとメンタル両方をリラックスさせると桐林プロ。
桐林 今は皆、飛距離アップを目指してフィジカルトレーニングをします。それはもちろん大事ですが、強い筋肉だけでは戦えない。いかにゆるませてリラックスさせて動かせるかというのも能力。笑顔だと、表情筋が上がるので筋肉が弛緩します。筋膜はすべてつながっているので全身に通じる。表情筋を上げるという意味では、最後に『い』か『あ』が付く言葉も効果的ですよ。
桐林 たとえば、『よし次』と言ったら『ぎ』で表情筋が上がりますし、呼吸するときは『あー』と吐くようにするといいんです。また過緊張になると、筋肉が硬直して思った通りの動きができなくなる。プロでもそうです。こういうふうにしろと脳が指令しても、筋肉が硬直していたら伝わらない。だから、緊張とリラックスのメリハリを上手くつける必要があるんです。
この切り替えが上手くできるのが渋野だという。
桐林 笑顔を作ることが切り替えのスイッチになります。感情は、準備して決断して実行したあとに結果が出て、その後についてくるもの。ストロークが終わったら次のストロークの準備に入るから、その瞬間に『はい次に行こう』という感じで、笑顔をきっかけにするのも1つなんです。私はグローブをバリッと外したりしますが、それと同じです。
万人に合うとは限らない。自分のベストな表情を探しましょう
アスリートや医師などの心理コンサルティングを行い、現在、車いすバスケットボール男子日本代表のメンタルトレーナーを務める筒井香氏は、渋野日向子ら「黄金世代」も受けたLPGAの新人研修で講師を担当した。
筒井 笑顔は、生まれ持ってそなわっている生得的なもの。経験や学習から学ぶものではないんです。原始社会の人の表情にも笑顔はあり、誰もが笑顔を見れば『この人は楽しんでいる』と感じるように、表情には文化や文明間の差がないという研究もあります。
筒井 世界共通、ダイレクトに伝わるのが笑顔の持つ力です。また、笑顔が感情と密接に関係しているという研究も多くあります。たとえばランダムに2つのグループに分け、表情の違いを意図的に作り、漫画を読んでもらうと、笑顔の表情を作ったグループのほうが同じ漫画なのに面白かったと評価をする。
筒井 表情を抑制することで感情も抑制されるという研究もあります。笑顔を作ることで、脳が“面白がっている”と認知しやすくなるんですね。ですから気持ちも上向くのは事実でしょう。渋野選手にとって、笑顔が緊張状態を緩和する役割になったと考えられます。
我々ゴルファーが「笑顔を作ってプレーする」のはパフォーマンス向上につながるのだろうか。
筒井 渋野選手の結果を見ると、笑顔がパフォーマンス向上に直結するかのようにみえます。『笑顔を作る』のは一見やりやすそうですが、何より大事なのは、その人にとって一番よいパフォーマンスができる表情を意識すること。すごく笑うと上手くいく、少しの笑顔のほうがいい、いや無表情のほうがいいなど、選手によって違います。自分を知ってどう対処するか。渋野選手にはあの笑顔がマッチしていた。“自分らしく戦う”という目標にも合っていたのだと思います。
世界で戦うプレッシャーのなかでは、ただの作り笑顔だと、脳がそのまま認知してしまい、効果的でないこともあるという。
筒井 まず、どんなときに不安になったり緊張するか、するとどんなパフォーマンスになるか、そのときにどんな表情をしているかなど“自分を知る”ことが必要。そして、自分のベストな心理状態を作るための表情は何かを考えていく。渋野選手もそういうプロセスを経てきたと思います。
筒井 笑顔を作ることで、自分にベストな緊張状態を作りだすということが、日頃の練習の積み重ねでできたのでしょうし、そこが強さだと考えられます。たとえば今まで意識して笑顔を作り緊張をまぎらわせていたのを止めることで試合に勝った選手もいます。『自分の感情に素直になろう』と考えることでベストな緊張状態を作り出したと考えられます。
筒井 『笑顔でいこう』でも『笑顔はなくそう』でも、そこに至るまでのプロセスこそ大事です。皆さんが笑顔でプレーしてみる場合には、ラウンド中、自分にとって緊張しやすい場面……朝イチショット、上がり3ホール、アゲンスト……や、苦手な人とのラウンド、ミスした後などのタイミングでやってみてはいかがでしょう。
筒井 すると、ここは気を引き締めていきたいので、引き締めた表情のほうがいいなと気づくかもしれません。今まで意識していなかった自分の表情を意識してみることが大切です。これも、フィジカルを鍛えたり技を磨くのと一緒で、ゴルフを楽しむ1つの要素だと思います。
ILLUST/Masaya Ito
PHOTO/Yasuo Masuda、Norimoto Asada、Shinji Osawa
週刊GD2019年9月24日号より
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