憧れの選手と同じウェッジを使いたがるアマチュアは多い。しかし、それで「SWが苦手」とこぼすのはおカド違い。「それは下手なのではなく、使いにくいSWを使っているからです」とユハラは指摘する。では、アマチュアが使いやすいウェッジとは、具体的にどんなものなのだろうか。

前回、第19話のお話

湯原 まず、どうして58度とか60度のロブウェッジ(LW)がアマチュアにとって難しいのか、から説明します。LWはアメリカのトーナメントコースのセッティングが難しくなって、それに対応するために、ロフトがあって、バウンスが小さくて、リーディングエッジが出ている機能を持ったウェッジとして開発されたことは話しましたよね。

GD 地面が硬くて芝が短く刈り込んであるところから、フワリと柔らかいアプローチをするために作られたウェッジですね。

湯原 アメリカは芝が短いうえに、基本はベント芝ですからボールが沈みやすいということも理由のひとつ。じやあ日本はどうかというと、それほど短く刈り込まれていない上に、野芝やコーライ芝だから比較的ボールは浮いています。

画像: 洋芝に比べて日本の芝は葉や茎が硬く、ボールが浮きやすい

洋芝に比べて日本の芝は葉や茎が硬く、ボールが浮きやすい

画像: 湯原のSW。バウンスがしっかりあるウェッジを使っている

湯原のSW。バウンスがしっかりあるウェッジを使っている

湯原 そんなところでバウンスが小さい58度のSWや60度のLWを使うと、ボールの下をヘッドが潜り、抜けてしまう可能性が高いんです。

GD いわゆるダルマ落としですか。

湯原 ええ。そういう芝に対して、バウンスがあればあるほど、ソールを滑らせてボールを拾うこともできるし、打ち込んでもバウンスが働いてボールは自然に上がってくれます。日本の一般的なコースでスコアメークを考えるなら、トッププロが使っているようなLWをバッグに入れるのは、ナンセンスなんです。

湯原 バンカーショットでも同じです。54度とか56度ぐらいのロフトで、バウンスがしっかりあるSWのほうが、ずっとやさしいと思いますよ。普通に構えて、普通にフルショットすれば、ボールは勝手に出てくれますからね。バウンスがしっかりあるということは、砂のなかに潜りながら滑っていくのだから、砂が押し上がって球がポンツと浮いてくれます。

GD ラクに脱出するのが目的なら、プロ仕様のウェッジにこだわらないほうがいいと。

湯原 プロが使うようなロフトがあってバウンスの小さなSWだと、ヘッドが砂のなかにどんどん潜っていってしまう。そうすると、砂を薄く切り取ったりとか、リストを使ったりとか、いろいろと特殊なテクニックを身に付けなければならないわけです。アマチュアの場合、とりあえずバンカーから脱出さえできれば、グリーン面は硬くないコンディションがほとんどのはずだから、球は止まってくれます。

GD コース環境や技量に見合ったギアを選ぶべきだということですね。

湯原 トッププロが使っているギアに憧れる気持ちはわかります。しかし、そういう道具はコレクターズアイテムとして、見たり触ったりして楽しむほうがいいと私は思います。むしろ、市販のアイアンセットに組み込まれたウェッジ類のほうが、アマチュアの方にとって使い勝手がいいはずです。確かに、セットなら形状も統一されているし、クラブの流れとしても、ロフト、ライ、バウンス、それから重心位置やフレックスも揃っているでしょうからね。

「バウンス」のルーツ、ジーン・サラゼン

GD ロフトがあって、ソールが薄いSWをツアープロが使うようになったのも、比較的最近ですよね。

湯原 やはりトーナメントコースのセッティングが変わってきたのが大きいですね。昔、といっても60年代から80年代ぐらいですが、アイアンの名器と呼ばれたウィルソンのダイナパワーとか、スポルディングのトップフライト、通称、赤トップ、黒トップと呼ばれたアイアンセットのSWは、しっかりソールがあってやさしかった。そういう昔のSWを引っ張り出してきて使っているベテランプロもいるぐらいです。

画像: ユハラが語っていた名器’'赤トップ” のSW。ソール幅が広くて見るからにやさしい感じがする

ユハラが語っていた名器’'赤トップ” のSW。ソール幅が広くて見るからにやさしい感じがする

GD 調べてみたところ、赤トップやダイナパワーなどのいわゆる名器のSWは、だいたいロフトが54~56度ぐらいだったそうです。

湯原 元々クラブセットにはSWという番手はなくて、いちばん短いアイアンはニブリック、今でいえば9Iだったんです。そのニブリックのソールに鉛をべったり貼りつけて、バウンスのような盛り上がりのある特製クラブを作ったのが、ジーン・サラゼン(1902~99年。初めてグランドスラムを達成したプロ。メジャー7勝など139勝)です。

湯原 これがSWの原型になりました。飛行機の翼とか水烏の翼とか、何からヒントを得たのかは諸説ありますけど、いかに簡単に砂を爆発させるかを考えたアイデアでした。サラゼンは全英オープンに向かう道中、そのクラブをヘッドのほうを下にしてキャディバッグに忍ばせ、人目につかないように持ち込んだという逸話を、何かの記事で読みました。サラゼンにとって、それほどの秘密兵器だったということでしょう。

GD 秘密兵器を手に、全英オープン(1932年)に勝って、バウンスがついたニブリック、後にSWと呼ばれるクラブが脚光を浴びることになったんですね。

画像: SW発明者、ジーン・サラゼン

SW発明者、ジーン・サラゼン

画像: サラゼンが考案したクラブはその後に市販化。サンドアイアン「R20」

サラゼンが考案したクラブはその後に市販化。サンドアイアン「R20」

画像: サラゼンが考案したウェッジ「1934 PROFESSIONAL」の広告

サラゼンが考案したウェッジ「1934 PROFESSIONAL」の広告

湯原 当時のニブリックがどれぐらいのロフトだったかはわかりませんが、昔に比べて最近のアイアンはロフトが立っている(ストロングロフト)ので、きっと今のPWぐらいだったと想像できます。私の使っている48度のウェッジは、ソール幅が広くてとても使い勝手がいいんですよ。

湯原 フェースを開くと、バウンスがより効いてくるので、距離のあるバンカーショットで威力を発揮してくれるし、もちろんランニングアプローチもやさしくできます。

GD 48度のフェースを開いて50~52度で使うんですね。

湯原 ロフトの多いウェッジは、ボールが高く上がるけど、ヘッドスピードが速くないと、十分な距離が出ません。ロフトの立ったウェッジなら、少し開いても前へ進もうとする力をボールに与えてく
れるから、距離感も出しやすいんです。

GD プロのようなヘッドスピードが出せないアマチュアには、重宝しそうなクラブですね。

湯原 状況によっては54度ぐらいのウェッジを同じように使ってもいいですよ。

GD PW、AW、SWと3本のウェッジを人れるとしたら、たとえば100ヤード、90ヤード、80ヤードを、番手を換えるだけで対応できるセッティングがいい。そうなると、58度や60度のウェッジを入れる余地はないというわけですね。

湯原 いや、入れてもいいですよ。いちばんロフトが寝ているウェッジを起点にして、そこから10ヤード刻みで100ヤードまでをカバーすればいいのです。その結果、ウェッジが4本とか5本になっても、スコアメークを考えれば、非常に合理的だと思います。

GD ウェッジが5本ですか。

湯原 ハンディキャップにもよりますが、150ヤード以上の距離からグリーンに乗せられる確率がどれぐらいなのかを考えてみてください。6Iや7Iが打てる人でも、当たり具合で精度が大きく変わるでしょ。

湯原 アマチュアの大半は、100ヤード以内でどれだけグリーンに乗せられるかが、スコアメークのカギになります。精度の低いクラブを入れるより、確実にグリーンをとらえられるクラブを増やしたほうが、より現実的だと思いませんか。

―― なるほど。ごもっともです。

画像: 「バウンス」のルーツ、ジーン・サラゼン

週刊GD2013年より

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画像: golfdigest-play.jp
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