渋野日向子プロのプレーに、みんなのゴルフダイジェストのプロゴルファー・中村修が密着取材、週刊ゴルフダイジェストの連載「しぶこプレス」を再録。今回はシーズン序盤から渋野プロのプレーを見てきた中村プロが今季のプレーを振り返りながら、強さと急成長の秘密を分析します。

スタンレーレディスの翌週、千葉県の東急セブンハンドレッドクラブ行われた富士通レディースを、渋野選手は欠場しました。

ですので、今回は試合のレポートはできませんが、これを機に今シーズンの渋野選手を改めて振り返ってみたいと思います。

試合でも「振り切れる力」、この能力は貴重

渋野選手は昨年のQTを突破して今年からレギュラーツアーを舞台に戦う権利を得ましたが、QTランキング40位だったので開幕戦は出られず、2戦目のPRGRレディスが初戦でした。

画像: 3月 PRGRレディス(6位タイ) 大会3日間の平均パット数は27.33で優勝した鈴木愛に次ぐ2位

3月 PRGRレディス(6位タイ) 大会3日間の平均パット数は27.33で優勝した鈴木愛に次ぐ2位

画像: 「チキるな!」自分にハッパをかけて強気に振り切る

「チキるな!」自分にハッパをかけて強気に振り切る

渋野選手はその1戦目から6位タイという好成績を残します。

実は私はその試合を見ていて、プロテストを通ったばかりのルーキーの活躍に、これは面白そうだと思って、次戦のTポイント×ENEOSでインタビューをしたんです。

渋野選手は、そのときから外連味なく振り切るスウィングが印象的で「粗削りだけれどポテンシャルが高い」と感じていました。

指導する青木翔コーチも「スウィングも技術もまだまだだけど、『振れる』ことは大事だし貴重」と話しており、今後3年間でアプローチや体作りなどをじっくり行い、長期的な視点で育てていきたいと話していました。

しかしその後の渋野選手の急成長と活躍は、みなさんもご存知のとおり。誰もが驚くスピードで成長を遂げています。

画像: 4月 バンテリンレディス(20位タイ)1ダボ・8ボギーで初日はなんと最下位。ところが2日目は1イーグル・6バーディのベストスコアで予選突破

4月 バンテリンレディス(20位タイ)1ダボ・8ボギーで初日はなんと最下位。ところが2日目は1イーグル・6バーディのベストスコアで予選突破

この成長と強さの背景には、彼女の「振れる力」と「ポジティブ力」があると私は感じています。

ゴルフのスウィングというのは、実は思い切って振ったときがいちばん曲がらないもの。しかし、プレッシャーのかかる場面では、トッププロでさえそれができない。でも渋野選手はそれができるんです。

もともと、ソフトボール仕込みの力強いスウィングが武器でしたが、苦しいときに技を使って抑えて打つような、できないことをしようとするのではなく、「振り切る」という自分にできることを迷わずに実行する。これは本当にすごい。

この背景として「フジサンケイレディス(2位タイ)での経験が大きかった」と渋野選手自身が語っています。

プレッシャーのかかる場面で消極的になってしまったことを反省し、以降はそういう場面で「チキるな!」(チキン₌弱気になる)と自分にハッパをかけているそうです。

普通の選手はわかっていても強気になりきれないんですが、渋野選手はそうやって自分なりに克服し、積極性を維持できている。

画像: 4月 フジサンケイレディス(2位タイ)最終日に6バーディを奪って首位を猛追するも、17番パー3のダブルボギーでスコアを落とし2位タイで終わる

4月 フジサンケイレディス(2位タイ)最終日に6バーディを奪って首位を猛追するも、17番パー3のダブルボギーでスコアを落とし2位タイで終わる

これは次に説明する「ポジティブ力」とも関連しますが、彼女の強さの大きな源と言えるでしょう。

その「ポジティブ力」とは、ミスや失敗をプラスに変える力。迷わずに攻めて、成否にかかわらずその結果を受け入れることで、気持ちがネガティブな方向に向かわず、いつもポジティブでいられるのです。これはゴルフにおいて、とても強いことです。

ミスや失敗をプラスに変える力

渋野選手は自分のミスについてインタビューなどで「あれはイラっとしました」など平気で言いますが、そう言っておきながら引きずらずに次のホールでベタピンにつけ、バーディを獲ってきます。

我慢して抑え込むのではなく、感情を出してしまって。それによって切り替えてしまう。これが彼女の「バウンスバック力」を支えているのだと思います。

そしてもう1点、渋野選手の成長の背景には、彼女の自主性、自律性があると私は感じています。

これは青木コーチの指導法とも関係しますが、青木コーチは顕在化しそうな問題点の対処法などは事前に教えておき、あとは自分で修整しなさいというスタンスで指導しています。

そのため、渋野選手には、自分の問題点を自分で見つめ、どうやって直せばいいかを自分で考えるクセがついているのです。

スタンレーレディスでのアプローチの修正などがそのいい例で、コーチが帯同していなくても、自分で何とかできる。この修整力は、選手の成長において非常に重要だと思います。

そういった「成長力」を背景に、この7カ月で、渋野選手は非常に貴重な経験をたくさん積んできました。

昨年までステップアップツアーで戦っていた選手が、レギュラーで戦い、優勝争いをし、海外メジャーで戦い、シン・ジエや畑岡奈紗、ユ・ソヨンなどのトッププレーヤーと戦う。

渋野選手はその経験をどんどん吸収して、いまも成長し続けています。

さらに渋野選手には、状況の変化に合わせて目標をどんどん変えていく柔軟さもあります。「賞金1億円」「賞金女王」「海外の試合」など、開幕時には想像もつかなかったようなことを、こだわりなっくサラッと口にして実行してしまう。

そういった「変わる力」も含めて、今シーズンの残り6試合、そして、その後の成長が本当に楽しみです。

週刊GDより

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画像: golfdigest-play.jp
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