2019年の女子ツアーが終わり、渋野日向子選手を追ってきた本連載も今回が最終回です。
QT40位の資格でレギュラーツアーに初参戦した弱冠20歳のルーキーのこれほどの大活躍を、春の段階で誰が予想したでしょうか。
春先、最初のインタビューは「黄金世代の1人」だった
私自身、第2戦のPRGRレディスで6位に入った彼女を見て、思い切りのいいスウィングに興味を持ち、翌週のTポイント×ENEOSで取材したのが最初でしたが、そのときも「黄金世代の1人」という程度の認識で、ここまでの活躍は想像できませんでした。
その後、4月末のフジサンケイで早くも優勝争いを経験すると、5月のサロンパスカップでは初優勝を公式戦で挙げ、トントン拍子にステップアップ。
その背景には、PRGRレディスで鈴木愛選手と同組で回りトッププレーヤーのプレーを間近で見たことや、フジサンケイの最終日17番でダボを叩いて優勝争いから脱落したこと、などを経験値として蓄積し、それをすぐに結果につなげるというスポンジのような吸収力と成長の速さがありました。
スポンジのような吸収力
ゴルフは経験をすぐに結果につなげるのが難しいスポーツですが、その常識を覆すような渋野選手の成長力は、彼女の持つ「素直さ」によるものだと私は感じています。
記者会見での難しい質問にも真摯に向き合って考え、わからなければ「わかりません」と素直に答えますし、記者から教わったことがあれば「そうなんですか、ありがとうございます」と素直に感謝して受け入れる。
自分を飾らずにありのままを受け入れる姿勢はプレーにも表れており、ミスをしてもそれを受け入れてすぐに切り替えられる。だからバウンスバックできるんです。
サロンパスでは「逃げずにピンを狙う」姿勢が結果につながり、それをスタイルとして貫いた結果、7月のアネッサレディスで2勝目を挙げ、8月には全英女子オープン優勝という快挙を成し遂げます。
いくら勢いがあったとはいえメジャーで優勝できた背景には、多くの幸運がありました。
舞台となったウォーバーンGCが日本のコースに似ていたこと。
青木翔コーチのバックアップで上手く流れに乗れたこと。
18アンダー決着というスコアの伸ばし合いに渋野選手の攻撃的なプレーがはまったこと。
これらも「持ってる」と言ってしまえばそれまでですが、彼女の積極的なプレースタイルが、それらの幸運を逃がさずに勝利を引き寄せる要因となったことは否めないでしょう。
しかし、全英から帰国後しばらくの間は、結果が期待されるプレッシャーを味わうこととなり、苦しみの時期を経験します。
しかし、9月のデサントレディースでは、それを払拭するような大逆転勝利。
「周囲を気にせず自分のプレーをすればいい」という開き直りが結果につながったことで、勢いのあるしぶこが戻ってきました。
一方で、このころから「賞金女王」という目標が彼女を苦しめ、新たな壁にぶち当たります。
目標を切り替えて、自分のゴルフを取り戻す
しかし、伊藤園レディスの予選落ちを糧に、翌週のエリエールレディスで優勝するというスーパーバウンスバックを見せた渋野選手。その成長力には本当に驚きました。
彼我の実力差を受け入れ、「応援してくれる人たちに恩返しするため」、「定由早織キャディとのコンビで優勝したい」と切り替えたことで、自分のゴルフを取り戻します。
結局、賞金女王には届きませんでしたが、最終戦でもしっかり優勝争いを演じ、最終日の18番で今シーズンを象徴するような気持の入ったバーディを沈めて、大躍進の1年を終えました。
昨年プロテストを通ったばかりのツアールーキーと考えれば、渋野選手の活躍は驚くようなシンデレラストーリー。
彼女自身も今年1年の躍進を「謎」と表現していました。
しかし実際は、ただの幸運や勢いだけではない、確実な成長を背景に実力でつかみとったものだったと私には思えます。
ターゲットに対してフェースをスクェアに当てるセンスや、どんなときでも振り切れる思い切りのいいスウィングは、世界でもトップクラスの資質です。
これらを土台に、アプローチや風対策のショットなど新しい武器を磨き、スポット参戦で海外にも挑戦して経験を積んでいけば、真のトッププレーヤーとして世界で活躍する日も遠くない。
「チームしぶこ」では、来シーズンに向けて、トッププレーヤーを指導した経験が豊富な斎藤大介トレーナーと専属契約を結び、体づくりを強化していくようです。
2020年の渋野選手のさらなる活躍に期待したいですね。(了)
週刊GDより
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