「行ってみたいコースは?」と聞けば、必ず上位にランクされる太平洋クラブ御殿場コース。秋のビッグトーナメント『三井住友VISA太平洋マスターズ』の舞台としても有名な日本を代表するコースが、半年間のコース改造を終え、現代の世界基準コースに進化したという。そのプロセスを追った。

加藤俊輔の原設計を消さずに、300ヤード時代の世界基準へ改造

太平洋クラブ御殿場コース改修の目的は、大きく分けて3つある。

①原設計を生かしながら、世界遺産・富士山の景観が映えること

②トーナメント舞台にふさわしい国際水準の戦略性を持たせること

③高い戦略性を持たせつつティグラウンドを増やし、女性やシニアなど一般ゴルファーが楽しめること

改修を担当する設計家はリース・ジョーンズ氏。1988年の全米オープン開催に向けたザ・カントリークラブのコース改修で注目され、以来、全米オープン開催の7コース、全米プロ開催の8コース、ライダーカップ開催の5コースの改造改修を手掛ける。監修は2011年、2016年の優勝者、松山英樹。

Rees Jones(リーズ・ジョーンズ)
1941年生まれ。エール大学、ハーバード大学卒業。父はR・T・ジョーンズ。兄はR・T・ジョーンズJr。全米ゴルフコース建築家協会会長も務めた環境学者。2004年にオールド・トム・モリス賞受賞

数々のナショナルオープンの改造改修に携わったジョーンズ氏は、今ではオープンドクターと呼ばれる存在。環境学者であり、原設計を生かすという意味でも最良の人選だ。

ジョーンズ氏が初めて御殿場を訪れたのは2015年の秋。バッバ・ワトソンが出場して話題となった大会の時だった。富士山の素晴らしさと、1番から18番までの流れの良さに感銘を受けたという。

画像: 改修を担当する設計家、リース・ジョーンズ氏(左)と現場の指揮を執るジョーンズ氏の右腕、ブライス・スワンソン氏

改修を担当する設計家、リース・ジョーンズ氏(左)と現場の指揮を執るジョーンズ氏の右腕、ブライス・スワンソン氏

「御殿場コースの原設計をした加藤俊輔氏による設計は素晴らしい。私たちはその原設計を生かしながら、21世紀に合った世界水準の戦略性を加えることにした」というのはジョーンズ氏の右腕として御殿場に何度も足を運び、現場の指揮を執るブライス・スワンソン氏だ。

改造コンセプトをもとに18番ホールを見てみよう!

フェアウェイ両サイドとグリーン周りのバンカーは形状が見直され、グリーン右手前の池は、グリーン右後方まで拡張された。

改造前の18番パー5。池はグリーンの手前半分に絡む程度

画像: 改造前の18番ホール、右サイドの池はグリーン手前半分に絡む大きさだった

改造前の18番ホール、右サイドの池はグリーン手前半分に絡む大きさだった

画像: 改造作業中の18番。芝を全面張り替え、池を広げた

改造作業中の18番。芝を全面張り替え、池を広げた

改造後の新しい18番パー5。池がグリーンの奥まで伸びている

画像: 改修後の18番ホール。グリーン右手前の池が有名。これがあることで2オンが難しくなっているが、ジョーンズ氏はこの池をグリーン右後方まで拡張。難易度が増し、リスク&リワードのコンセプトがより際立った

改修後の18番ホール。グリーン右手前の池が有名。これがあることで2オンが難しくなっているが、ジョーンズ氏はこの池をグリーン右後方まで拡張。難易度が増し、リスク&リワードのコンセプトがより際立った

画像: 18番グリーンと広がった池の関係を別アングルから。右手前の池が拡張された様子がわかる

18番グリーンと広がった池の関係を別アングルから。右手前の池が拡張された様子がわかる

18番の池を拡張したことで、2オン狙いのショット精度がいっそう必要となった。「右に行ったけど、大きめに打ったから助かった」が無くなったわけだ。また、グリーン周りの芝生を野芝から高麗芝に替えたことで、池に流れるスロープ途中で止まるラッキーも減った。

フェアウェイ左サイドのフェアウェイバンカーを改修

「フェアウェイ左サイドのバンカーは重要なポイントです。右サイドからは林がスタイミーになり、2オンを狙うには左サイドが目標になるので、このバンカーにつかまる選手は多い。そのとき、浅すぎては難易度が低くなる。深すぎても刻むだけになります」(リース氏)

「(ミドルアイアンで狙うときに、出球の高さがギリギリという深さに設定)こうすることで、選手たちに攻めるのか、刻むのか、考えさせることができる。簡単には狙えないけれど、リスクを冒して成功すれば報酬が与えられる。リスク&リワードを際立たせるために、このバンカーは時間をかけて、こだわりを持って造りました」(スワンソン氏)

飛距離に対応するだけでなく、『プレーヤーに考えさせる』場面を増やすことも世界基準のコースの条件だ。

画像: 右サイドは木がスタイミーとなりノーチャンス。フェアウェイ左のベストポジションを狙っていく。そこに待ち受ける左サイドのバンカーも新しくなった

右サイドは木がスタイミーとなりノーチャンス。フェアウェイ左のベストポジションを狙っていく。そこに待ち受ける左サイドのバンカーも新しくなった

画像: 「狙う」のか「刻む」か、プレーヤーに決断を迫る絶妙な「深さ」が与えられた

「狙う」のか「刻む」か、プレーヤーに決断を迫る絶妙な「深さ」が与えられた

左サイドのバンカーを越えるには、(トーナメントティから)キャリーで305ヤードが必要だが、前方に木があるため実際には310~315ヤードが必要。フェアウェイに傾斜をつけ、ターゲットをいっそうタイトになるようにも改造した。

「300ヤード時代の世界水準の戦略性」を加えた新しい18番ホール。11月8日から始まる三井住友VISA太平洋マスターズでどんなドラマを演出するのか。今から楽しみだ。

【太平洋クラブ御殿場コース】(18番/P5)
トーナメントティ:525Y バックティ:510Y レギュラーティ:490Y
ミドルティ:480Y フロントティ:470Y レディスティ:415Y

画像: 太平洋クラブ御殿場コース1985年VISA住友太平洋マスターズ」 18番の左バンカーから2Iで2オンして優勝した中嶋常幸

太平洋クラブ御殿場コース1985年VISA住友太平洋マスターズ」 18番の左バンカーから2Iで2オンして優勝した中嶋常幸

1985年VISA住友太平洋マスターズはD・グラハムと中嶋常幸のプレーオフ。最初のホール、18番の中嶋のティショットはフェアウェイ左サイドのバンカーに。そこから2番アイアンを手にした中嶋はスーパーショットで2オンを果たしバーディで優勝。中嶋はその後も、02年、06年と優勝、同大会で通算3勝を挙げた

太平洋クラブ御殿場コース
静岡県御殿場市板妻941-1
TEL.0550-89-6222
18H・7327Y・P72
原設計(加藤俊輔)、改造(R・ジョーンズ)
東名高速<御殿場I.C.>より約9km
東名高速<裾野I.C.>より約10.7km
中央高速道・東富士五湖道路<須走I.C.>より約10km

画像: フェアウェイ左サイドのフェアウェイバンカーを改修
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