【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。
「寄せワンで優勝。あの場面でパーを獲れるのは、ボクとジャンボと青木さんの3人しかいない」(中嶋常幸)
最終日朝、藤木三郎の顔は青かった。
食事時、練習時、そして1番ティ上でも青かった。
パー5の1番ホール、ティショットは左の林の中。セカンドは出しただけ。サードは左グリーンエッジの深いラフの中。第4打はピンオーバーの4メートル。その間、ずーっと藤木の顔色は青かった。
この4メートルのパットを外した瞬間、顔が赤らんだ。頬は黒っぽくなった。怒りを抑えた顔でボギーパットを入れた。
藤木の上半身に力が入っている。ゆえにフィニッシュ時、体重が右足に多く残っていた。
スウィングスピードは昨日よりはなかった。テンプラ気味のドライバーショットが2番ホールも出た。
藤木の体がシビれていた。
小さい歩幅で歩いていた。好調時の藤木は大股で歩いて行く。
1、2番とショットの乱れでボギーが続いた。そして青木に並ばれた。
この連続ボギーで初期重圧から吹っ切れたのであろう、3番からは振れ出した。せわしい動きが無くなった。大股で歩き出した。
今日一日、藤木の肝心な場面でのパットはショートばかりであった。特に13番のバーディパットを10センチショートさせている。
そこそこ打て出したのは、14番のパーパットからであった。すべてが遅れ過ぎた。藤木は勝てなかった。
「残念だな、4位とは。勝てる自信はあった。しかし、インのパットが悪かった。パットだよ、パット」
中嶋常幸は3番でボギーを叩き、2アンダーとなって6番へ来ている。アタマは7アンダーだ。2人いる。
中嶋、「そうだろう。伸びないよな…9番アイアンが悪すぎる。何ともならないよ」
中嶋は7番でバーディを取り、3アンダーでアウトを終えた。インでは5つのバーディを重ね、8アンダーで終了。
競技終了後、表彰式を待つ間、18番グリーン横で中嶋に敗因を聞いた。
中嶋、「ショートアイアンが悪過ぎた。パーディ取ったのは、7番アイアンから先の長いものばかり。ショートアイアンではグリーンに乗せるのが精一杯だった。ドライバーとパットは、マスターズで優勝を競る出来ぐあい。アイアンは月例出場者レベルだ」
そして笑いながら、「プレーオフを待っているんだけど…。18番の青木さんのティショットはうまかったな。間違っても左ラフへ打ってくるもんね。右ではエッジしか狙えないし、ドロップがかかればイージーボギーのホールだし、やっぱりあの辺が青木さんのうまさだよ」
青木功は淡々とプレーしていた。
ピンチになっても、その表情は変わらなかった。
藤木との間に会話はなかった。飯合とは時折の会話があった。
6番で3メートルを入れ8アンダー。7番でティショットを右松林の中に入れ、アプローチも寄らずボギー。
10番で1.5メートル、12番で4メートルを入れて9アンダーとなり単独トップ。藤木は8アンダー。
バーディを取っても淡々とした表情。13番で4メートルのパーパットを入れた時も淡々としていた。
トーナメントリーディングボードを見ている時も、サラッとした流し眼で見ていた。今日一日、事を凝視するという風情はなかった。前の組の拍手、歓声が流れて来ても、表情は変わりなかった。
青木は18番のセカンドを打った後、ホッとした表情を見せた。
球はグリーン左手前のラフの中。余程の事がない限り、エッジから簡単に3つは叩かぬという信念から得た、豊かな表情であった様に思えた。
ピンまで20メートル。ボギーならプレーオフ。6番アイアンで寄せ、80センチを入れた。
青木がこぶしを固めて、ガッツを入れたのは72ホール目のパーパットを入れた時が初めてであった。
悔しいアクションを見せたのは、16番のバーディパットがカップの端をなめて外れた時のみ。耐えてつかんだ日本オープンであった様に思う。
耐えるという事の美しさを、青木功に見せて貰った。
(週刊ゴルフダイジェスト1987年10月27日号)
【競技経過】
【初日】アウト36、イン29を出したグラハム・マーシュ(豪州)が7アンダーで首位。2位は4アンダーで飯合肇。尾崎将司は3番の誤球がたたり78で大きく出遅れた。
【2日目】飯合が3打スコアを伸ばし通算7アンダー。この日パープレーのマーシュと共に1位タイ。青木功、藤木三郎が6アンダーで3位。ジャンボは風邪で棄権。倉本昌弘は予選落ち。
【3日目】上位選手が出入りの激しいゴルフをするなか、藤木が9アンダーで一歩飛び出した。2位は7アンダーで青木。以下、飯合、芹澤信雄と続く。中嶋常幸は前日の24位から、通算3アンダーで8位に浮上、最終日に期待をつなぐ。
【最終日】藤木と飯合が崩れるなか、青木が確実にスコアを伸ばし9アンダーで優勝。2位タイに芹澤と中嶋が8アンダーで入る。藤木は7アンダーで3位。
1987年日本オープン最終結果
有馬ロイヤルGC/7034ヤード/パー72
1位 -9 青木功
2位 -8 中嶋常幸
芹澤信雄
4位 -7 藤木三郎
5位 -6 尾崎直道
6位 -4 入江勉
入野太
9位 -2 飯合肇
10位 -1 デビッド・イシイ(米)
金井清一
木村政信
有馬ロイヤルゴルフクラブ
兵庫県神戸市北区淡河町北畑571
TEL 078‐958‐0121
コースタイプ/丘陵コース(36H)
グリーン/ベントの1グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
ロイヤル/6856ヤード/パー72
コースレート72.7/スロープレート135
設計/上田治
ノーブル/7148ヤード/パー72
コースレート74.0/スロープレート137
設計/ロバート・ボン・ヘギー
開場/1972年
公式ホームページはこちら
現在の有馬ロイヤルゴルフクラブ
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