世界マッチプレーを制し、「世界の青木」になって迎えた第43回目の日本オープン。舞台は横浜カントリークラブ西コース。青木にとって、なんとしても手に収めたいタイトルが、勝てそうで勝てない日本オープンだった。しかし、青木の野望を打ち砕いたのが、日本オープン連覇、スペインの若き星21歳のセベ・バレステロスだった。

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

日本オープンになると、神は我に味方しない

会場となる横浜カントリークラブへは月曜日から乗り込んだ。だから練習ラウンドは3日間やったことになる。

どうやら風邪だ。ランコム招待(仏)から帰ってくるとき、どうもアンカレッジでひいたらしい。世界マッチプレーからの連戦の疲れが出ていたのだろう。

画像: 体調不良のなか戦った日本オープン

体調不良のなか戦った日本オープン

その風邪で咳がでて、とにかく体がだるい。それなら家にいて休んだほうがいいと思うかもしれないが、どうせ1日ではなおりはしない。だるさがつのるばかりだろう。それならゴルフをやって緊張感を少しでも持続した方がいいと思って月曜から乗り込んだのである。

むろん、日本オープンはどうしてもとりたい。金で買えるならいくらでも金を積みたい気持ちだ。しかし不思議と勝てない。もう一歩のところまでいくのだが、神は我に味方しない。しかし半面、そんなに入れ込んでどうなるのかという開き直りもある。何も日本オープンだから力一杯やり、他の試合は手抜きするわけではないのだ。

新聞、雑誌はパーマーの全米プロ、スニードの全米オープンを例にとって、「どうしてもとれない青木の日本オープン」というのを記事にしたがるけれど、勝負というのはそんなに簡単なものではない。

自分の力だけではどうしようもない何かがあるのだ。たから私は淡々と試合に臨むしかない。チャンスがきたら私は攻め、そして勝つ。今年がだめなら、来年、そして再来年と挑戦するだけだ。

さて、初日だ。橘田規さん、日吉稔、アマの内藤正幸とまわった。

画像: 初日。橘田規、日吉稔、アマの内藤正幸と同組

初日。橘田規、日吉稔、アマの内藤正幸と同組

快晴で気温は17度をうわまわる気候だったが、風が後半出てきた。距離カンが掴みづらかったが、5バーディ2ボギーの69。この体調にしてはスコアは自分でも意外によかったと思う。2番(パー4)でボギーにしたのがかえってよかったのではないだろうか。

気楽になり3番(パー3)ですぐとり戻し、ペースをつかんだ。ただ風邪のため咳が出る。神経を集中しているときに咳が出ると、そのコンセントレーションが崩れてしまう。また最初から精神集中をやり直さなければならないのにはまいった。

トップはバレステロスと中村通の68。1打差の3位だ。やはりバレステロスがやってきた。水曜の練習日に一緒にまわったが、ショットはメロメロ。それなのに本番になるこうだ。恐い相手が出てきた。

2日目も初日と同じメンバーでまわった。グリーンは最高に近いほど整備されていて、ものすごく速い。

画像: 2日目。前半は我慢のゴルフ

2日目。前半は我慢のゴルフ

インのスタートで前半は14番(パー3)のボギーでじっと我慢し、後半チャンスは巡ってきた。4、5、6、8番ととり6アンダーまで伸ばした。ドライバーはとにかく最高の当たりだった。前半は橘田さん、内藤に先に長いパットを入れられ、あおられたが、後半はこっちが先に入れるものだから自然気分も乗ってきた。

ゴルフは自分との闘いだが、相手によって自分がかわることも確かだ。

バレステロスはしたたかだ。彼に3打差の2位。

いよいよ明日からバレステロスとの闘いになってきたと思うと一瞬、ブルッと戦りつが走った。

3日目、バレステロスと杉原さんと最終組

いよいよ決戦の火ぶたはきっておとされたという感じ。

2番ボギー、そして3番でとり返したのは初日と同じパターン。

画像: 3日目の青木

3日目の青木

いま振り返ると敗因はこのラウンドの5、6番にあったといえる。5番のミドル。私は2メートルのバーディパット。バレステロスはすでに3パットのボギーを打っている。

ここで私が入れれば7アンダー。セベは8アンダー。1打差となるはずだった。勝負の大きな山場だった。しかし、私は外した。

もしこれが入っていれば6番(パー5)でセベがバーディをとることもなかったし、自分の1メートルもないパットを外すこともなかったろう。もしかしたら逆転していたかも知れなかった。

あそこで私は「死んだ」のだ。バレステロスの調子は決してよくない。時差ボケで文字通り頭はボケッとした状態だし、ショットだって左右に大きくブレる。本調子ではない。

勝負に「もし」はないが、もしあそこで、5番で入っていれば勝負はどうなっていたか分からない。つくづく勝負の分かれ目というものの不思議さを感じる。

最終日、私はきのうの5、6番でバレステロスを追いつききれなかったしこりがずっと尾を引いていたのだろう。自分ではさっぱりと忘れたつもりでもやはり人間である。

「5打差か。ここまできたらやるだけさ」と3日目が終わった時点で自分を勇気づけてみたものの、なんで5番であのパットを外したのか、それが私の内部で自分の知らない間、こだわり続けていたのだ。

画像: 3日目、バレステロスと杉原さんと最終組

最終日1番の2打目で右にOBしたのもこのショックが尾を引いていたのかも知れない。

それにしてもセベは、ゴルフの何たるかを知っている。冷静に自分を見つめている。まだ21歳だけに不気味なほど。私は最近になってやっとゴルフがわかってきたが、セベはこの若さで悪いときは悪いなりに自分をだますコツを知っている。

そして小技がうまい。まるでクラブを自分の腕にしているかのようだ。天性のゴルファーといってもよい。

脚が強いと思う。振り切りの素晴らしさ。あれが豪打の秘密だろう。フィニッシュであれだけ上体がよろめくほど振っても、下半身は微動だにしない。

画像: 強靭な下半身に支えられたセベのスウィング

強靭な下半身に支えられたセベのスウィング

画像: パッティング

パッティング

パットもうまい。ただあんなに速いグリーンでは彼らの方がなれている分だけ有利だとはいえよう。

パットがうまいといったけれど、私にはバレステロスのパットのカンは今大会では半分ノーカンだと
思っている。あんなに速いグリーンをポンポンと2メートルぐらいオーバーするのは平気。それをポンポンと入れてくるのだから半分ノーカンで打って、ただ思い切り打っているだけだと思った。

18番の彼のパットにしてもかんたんにさっと打ってしまった。半分ノーカンでただ思い切り打っただけなのだろう。

それにしてもそのノーカンさをきっちり自分のモノにしているのには驚いた。私も思い切りはいいといわれている。しかし、速いグリーンのこわさを知っているだけに、あそこまで打っていけない。それをオーバーしてはかんたんに次のパットを入れてくるのだから、私や杉原さんがおかしくなった。

本当に冷静なやつだ。2番で8叩いたときも瞳の奥は澄んでいた。8叩いた選手に勝たせるのはひとえに私が悪いと思うが、とにかく私は3日目の5、6番で死んだ。

結局、私はセベに遅れること4打差の3位タイ。とうとう今年も日本オープンに勝てなかった。

画像: G・マーシュとのプレーオフを制し、セベが勝利

G・マーシュとのプレーオフを制し、セベが勝利

しかし、バレステロスよ、来年もきっとやって来い。来年こそ必ず君に勝つ。そしてしっかりとこの手で日本オープンのタイトルを握ってやる。

(週刊ゴルフダイジェスト1978年11月22日号)

1978年日本オープン最終結果
横浜CC西コース/6332メートル/パー72
1位 -7 S・バレステロス(スペイン)
2位 G・マーシュ(豪州)
── プレーオフ ──
3位 -3 中嶋常幸(美津濃)
   許 勝三(クート)  
   杉原輝雄(ファーイースト)
    青木功(日本電建)
7位 ±0 金井清一
8位 +1 M・ジェームス(英国)
9位 +2 中村通(サントリー) 
    山田健一(東京興産)
    尾崎将司(日東興業)
    前田新作(美加ノ原)
    郭 吉雄(台湾)

横浜カントリークラブ
神奈川県横浜市保土ヶ谷区今井町1025
TEL 045‐351‐1001
コースタイプ/丘陵コース
グリーン/ベントの1グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
西コース/6938ヤード/パー71
コースレート73.2/スロープレート132
設計/相山武夫、竹村秀夫
改造/クーア&クレンショー
東コース/6468ヤード/パー72
コースレート71.1/スロープレート130
改造/佐藤謙太郎
8番、9番改造/クーア&クレンショー
開場/1960年
公式ホームページはこちら

現在の横浜カントリークラブ

画像: 2018年にも日本オープンを開催した横浜CC西コース(6938Y・P71)

2018年にも日本オープンを開催した横浜CC西コース(6938Y・P71)

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