「勝ちます…」。3日目を終え、1打差でトーナメントリーダー、今季初めて中嶋常幸の口から「必勝宣言」が飛びだした。それは、ありきたりのインタビューのコメントではなく、腹の底から絞りだしたような、欲望を生々と感じさせた。「今度こそ勝つな」という予感を誰しもに抱かせるに十分な迫力に満ちたものであった――。

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

今季の中嶋の打球には気迫が感じられない

画像: 1984年日本プロの会場は静岡県のミナミ菊川カントリークラブ。現在はミオス菊川カントリークラブ

1984年日本プロの会場は静岡県のミナミ菊川カントリークラブ。現在はミオス菊川カントリークラブ

未勝利。マネーランクも11位と不振を極めている今季、中嶋には技術ウンヌンよりも、この勝とうとする「欲望」が欠けていたように思える。ショット、パットとも今イチの状態ながら、出る試合のほとんどには3日目まで優勝争いに加わってきた。そして判で押したように、最終日にズルズルと後退している。

「中嶋は勝ちたくないのか」「このまま未勝利で今季を終ってしまうのではないか」との危惧が周囲に浮かんだのは事実だ。

中嶋は言う。

「正直いって、今年はプロとしてトーナメントに、勝負の世界というものに浸り切ってなかったように思います。やり切ったという充足感がなかった…」

2年連続賞金王、昨年は日本プロマッチ、日本プロの公式戦を含め9勝を挙げ、獲得賞金も国内外を合わせ1億円を突破した。富も得た。名声も得た。高い山を登りつめたときに味わう充実感と、虚脱感――。そんなエアポケットに中嶋は陥ってしまったのだろう。

「一体何を求めてゴルフをしているのだろう」――その答えが見つけられないまま、中嶋の心はもやり、トーナメントにおいても悪くいえば、チャランポランとも思えるプレーもみれた。

「どうしてあんなにカリカリしているんだろう」と、中嶋と同じ組でまわったあるプロがポツンと漏らしたものだ。

「全盛期」の中嶋と同じスウィング、同じショットだとしても、ボールに気迫が乗り移っていない。
中嶋の体のなかを駆けめぐる熱い血の流れを感じさせないのである。

画像: 全盛期を迎えたはずの中嶋だったが、この年、ここまで未勝利だった

全盛期を迎えたはずの中嶋だったが、この年、ここまで未勝利だった

しかし、今大会の中嶋は違った。ギラギラとした欲望を発散させていた。「勝ちたい」と、心底思っていた。

「日本プロ」というプロであれば誰しも否が応にも燃え上がる舞台のせいもあるが、それよりなにより、中嶋は「何を求めてゴルフをするのか」の答えを見いだしたというのだ。心の中のモヤが晴れたのである。

「セベ(バレステロス)に、その答えを見せてもらった気がします。全英オープン最終日の18番の、あのパット、あの一瞬。プロゴルファーとしてああいう体験ができるのは最高だと思います。自分の目指すべきものは、そこにあるんじゃないかと思ったんです。あのパットですよ…」

まだ頂点に登りつめたわけではない。もっとあがき、もっともがいて這い登っていくべき目標を再確認したというわけだ。

「もちろん、あちら(セベ)にいく道はうんと遠いけど、せっかくこういう勝負の世界に生きているんだから、目指してみたい。いつかボクもああいう場面で、ガッツポーズをやれるように…」

しばらく居眠りを続けていたアスリート(競技者)の血が再び騒ぎだしたのだ。最終日を前に中嶋はこう言った。

「優勝スコアを予想、計算して、あのホールは攻めてバーディ、このホールは手堅く守ってパー、
というように計算通りのスコアを出して、それで相手がもっといいスコアだったら仕方ないというような考え方はしたくない。悔も残ると思います。闘いというものは、もっとホットなものだと思う。
競り合いのほかで必死の思いでやり抜く、勝負の世界というものに浸り込んでいく――そこに生活の場を置いているボクらプロゴルファーの楽しみがあるんじゃないでしょうか。明日は取ったら取りかえす、取られそうなところがあったら先に取る、そんな激しい気持ちでプレーしますよ」

いろんな意味で価値のある1勝となった

画像: 最終組のひとり、金井清一

最終組のひとり、金井清一

最終日、最終組の3人(中嶋、金井清一、前田新作)は、中嶋の思惑通り、激しい競り合いとなった。本人は、「久しぶりの優勝ですからね。プレッシャーでガチガチでしたよ」とは言うが、その表情は実に楽しげ。これでもかという競り合いに浸り込み、「明日まで続け」といわんばかりにアスリートとしての喜びを満喫していた。

10番で金井がバーディを奪い一足先んずれば、続く11番ショートでは30センチにつけるスーパーショットを放ち、「取られたら取りかえす」を体現。500メートルと短い13番のイージーロングでは2オンさせ、「取られそうなら先に取る」こともやってのけ、今季初のウイニングボールが空に舞い上がった。

画像1: いろんな意味で価値のある1勝となった

「いろんな意味で本当の価値のある1勝です。状態が悪いなら悪いなりに勝ちたいと思うこと、勝負ということを捨てないということは大切なことだと思います。このままズルズルとつぶれていったんじゃ、プロになった意味がなくなってしまうからね。ただ、今季は春先から米国遠征にいくことを決めた時点で、こういう状態はある程度予想はできていたこと。ボクももうじき20代とはオサラバ(10月20日で30歳)。プロになって10年近くたつし、ちょうど過渡期にあると思う。まだまだいろんな悩みは続くでしょう。ただ、それが不安だとは思わない。好きなゴルフをやってて、努力するのは当たり前だと思うし、試行錯誤の苦しみを味わえるというのも、幸せなことだと思います――」

勝ったからといって有頂天にはならない。もっと悩み、もっと欲望をかき立てたいという。セベが演じた「あのパット、あの一瞬」を自ら体験するために――。

画像2: いろんな意味で価値のある1勝となった

(週刊ゴルフダイジェスト1984年8月22日号)

【試合経過】

【初日】もっか賞金王の尾崎直道が公式戦初制覇に向け好ダッシュ。吉武恵治と並び4アンダーでトップ。今季初勝利、日本プロ2連覇を狙う中嶋常幸、金井清一、無名の酒井孝正が1打差の3位タイ。青木功は75の大叩き。

【2日目】予選落ちが心配された青木、一時は5オーバーまでスコアを落としたが、終盤に意地をみせ3オーバーまでスコアを戻して予選通過。金井が7アンダーまでスコアを伸ばしトップ。尾崎直道が1打差で続き、中嶋は前田新作、中村通の関西勢と並んで3位。

【3日目】中嶋が2番でダボを叩く波瀾のスタートだったが、以降猛チャージをかけ9アンダーでトップ。通算48勝を挙げてはいるものの、今大会優勝には無縁の杉原輝雄が65のベストスコアをマークし、6位に急浮上。金井は1打差の2位に踏んばる。

【最終日】一時はトップと3打差でスタートした尾崎直道、中村通がトップを奪ったが、中盤つまづいて後退。インに入って最終組の中嶋、金井、前田の熾烈なつばぜり合いとなり、金井は16番の3パットで自滅。前田も18番をボギーとし、中嶋が逃げ切り優勝で今大会2連覇、日本プロ通算3勝目を挙げた。

画像3: いろんな意味で価値のある1勝となった

1984年日本プロ最終結果
ミナミ菊川CC/6247メートル/パー72
1位-9  中嶋常幸(美津濃)
2位-7  中村通(サントリー) 
     前田新作(美加ノ原) 
     金井清一(ダイワ精工)
5位-6  謝敏男(鳳凰)
6位-5  尾崎将司(日東興業)
7位-4  杉原輝雄(フリー) 
     小林富士夫(真名)
9位-3  尾崎直道(日東興業)
     倉本昌弘(土佐) 
     海老原清治(翠華楼) 
     入野太(富士観光開発)

ミオス菊川カントリークラブ
静岡県掛川市小貫1357
TEL 0537-74-3341
※ミナミ菊川CCは名称変更でミオス菊川CCに
コースタイプ/丘陵コース
グリーン/ベントの2グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
18ホール/6676ヤード/パー72
コースレート72.0/スロープレート134
設計/安田幸吉
開場/1974年
公式ホームページはこちら

現在のミオス菊川カントリークラブ

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