飛ぶだけではダメだ。"いかに球を上げて止めるか"が求められる「2018年秋モデル」
初代インプレスUD+2の発売にあたって、ヤマハは本当に売れるか心配だった。藤田寛之の活躍で正統派アスリートブランドとして成功を収める一方で、「打倒!ゼクシオ」施策の商品は、その牙城を揺るがすことができない。ましてや激飛び系に関しての体験はほとんど皆無だった。そんな中で「打倒! egg」の狼煙を上げ、激飛び市場に参戦した。その不安は商品名を見ればわかる。初代インプレスUD+2は、「インプレスRMX UD+2」。ヤマハのアスリートブランド「RMX」を名前に加え、その力を借りようとした。
成功のカギはインプレスUD+2がeggアイアンよりも明らかに飛ぶことだった。理論や理屈ではなく、アマチュアが打って明らかに飛びを体験できること。それと、ショップスタッフがUD+2を勧めることだった。アイアンを探しにショップにやってくる人の興味は、「一番飛ぶアイアンはどれか」である。ゼクシオでは届かなくなった距離を届かすことができるアイアンがあれば買ってくれる。それには「一番」でなくてはいけない。
「7番アイアンで170ヤード」の広告コピーが効いたかどうかはわからないが、初代インプレスUD+2は売れた。とは言っても、まだ「激飛びアイアン」は市場が認めていなかった。ただロフトを立てて、番手をズラしているだけに過ぎないのでは?という見方が大勢をしめた。
しかし、2016年2代目インプレスUD+2はアイアンだけでなくドライバー、FW、UTもヒットした。アイアンがUD+2だからドライバーも、FW、UTも。「ドライバーがこれだからアイアンも」という流れが普通だが、アイアン流れは珍しい。プロギア、ヤマハに続いてブリヂストンも「JGR HF1」を発売。これも売れた。「ゼクシオ」がリードしてきた飛びキャビ市場のその先に、2016年「激飛びアイアン市場」が確立したと考えていい。
2017年はゼクシオ9の2年目「裏年」となるが、アイアン市場は「表年」となる。市場の動向を左右するタイトリストAP2(2018)が発売となるため、ライバルメーカーは「打倒! AP2」モデルをリリースしたからだ。2017年秋、先手を打ったのはタイトリストだった。米国を中心に世界中で支持される「AP1」と世界のプロツアーで信頼される「AP2」に加え、飛びに特化した「AP3」を登場させた。そして、キャロウェイも「EPICアイアン」を登場させ、外ブラも激飛びアイアン市場に参戦しヒット商品となり、2018年モデル「ローグアイアン」も好調に販売数を上げている。
2015年に「なんでeggは売れているのか?」と興味を持ったヤマハの参戦から2年で、激飛びアイアン市場は、ゼクシオを軸とする飛びキャビ市場から主役を奪う勢いで注目されている。ゴルファーが動けば、メーカーが動く。メーカーが動けば性能の競争がはじまり、進化のスピードはアップする。そして2018年秋、ピン、テーラー、ヨネックスの他、キムタクがアンバサダーとなったリョーマも本格参戦と、激飛びアイアン市場は熱気をさらに帯びてきた。
ヘッドスピード45m/sのシングルが6モデルを打ち比べ。3代目「UD+2」がランキング1位を死守!
今回、週刊ゴルフダイジェスト編集部はこの秋に発売される激飛びアイアン9モデルを中山カントリークラブに持ち込み、試打監修に伊丹大介プロ、試打者はクラブ工房を主宰するシングルハンディの山﨑康寛さん(ヘッド速度45m/s)にお願いした。
激飛びアイアンのテーマは、「構えやすさ」「打感」「操作性」のほか、単にロフトを立て飛距離を稼いでないかをチェックする「球の上がり」に重点をおいた上で、飛距離をランキングした。試打方法は弾道計測器「フライトスコープ」で5球計測し、上下2球を除く3球の平均値。使用ボールはテーラーメイドTP5Xを使用した。
【1位/ヤマハ・インプレスUD+2(2018)】
激飛びは「1代」にしてならず。確実に進化した3代目
「構えたときに重心の深さを感じます。芯も広くやさしい。3代目となり確実に進化しているのがわかります。ソールの滑りがよく、抜けもいいので方向も出しやすいと思います」(山﨑)
「激飛び系を開発するメーカーは、このヘッド形状を少なからず意識すると思います。基本初代から大きな変更はありませんが、3代目は細部の仕上げがよくなっていると思います。2本の白いスコアラインが構えやすさに効いています。セミグースでつかまりやすく、打感も柔らかめでスピンもかかります」(伊丹)
【2位/フォーティーンTC-340フォージド】
激飛びにいち早く着手した経験値を感じる性能の深さ
「UTのような作りで、ソールの厚さもUTなみにある。ウッドのように払い打つスウィングに合う。スチールシャフトよりもカーボンシャフトの方が、このヘッドの性能を引き出せると思います」(山﨑)
「重心を低くして、やさしく球があげられないか。フォーティーンの300シリーズが追求してきたテーマです。今回のTC‐340は軟鉄ヘッドを大きくした感じで、コントロール性もよく、球筋を打ち分けることもできます。激飛びにいち早く(2007年から)着手したメーカーだけに、単に飛びだけを追求しない経験値を生かした性能の深さを感じられます」(伊丹)
【3位/リョーマゴルフ・リョーマアイアン】
激飛びのさらに先を行く!新ジャンルの誕生の予感
「大きめなヘッドで重心が深く、打ったフィーリングはウッド的です。同じリョーマのウッド類と組み合わせるとつながりがよさそうです。今回シャフトがモーダスだったので、違うシャフトだったら、もしかすると……という印象です」(山﨑)
「構えたときにヘッドが長く、横の打点のズレに強さを発揮しました。打感は弾くというよりはしっかりめ。飛び系に多い『弾く、薄い』という感じではありません。今までのアイアンとは一線を画す新ジャンルの雰囲気があります」(伊丹)
【4位/ヨネックス・イーゾンCB701フォージド】
FWのような座りのよさ。ボールを上方向に弾いてくれる
「球がめちゃくちゃ上がります。前にもグングン行く感じのでとにかくやさしく感じました。装着されているカーボンシャフトは振りやすいので、クラブを上げて下ろせば勝手に飛んでいってくれる、そんなクラブです」(山﨑)
「ソール幅は厚めですが、丸みがあって滑らせやすい形状をしています。座りがよく構えやすく、いかにも飛びそうな顔をしています。飛距離だけでなく高さも出るので、打球を止めることも期待できます。打感は柔らかめですが、弾き感もあるヘッドです」(伊丹)
【5位/ピン・i500】
見た目マッスル。言わなきゃ「激飛び」とは思われない
「飛び系にしては小ぶりなヘッドです。それなのにスウィートエリアが広くてやさしい。球も上がります。クラフトマン的に言うと、シャフト次第でどんなスウィングのタイプにもマッチするヘッドだ
と思います」(山﨑)
「構えた感じは軟鉄マッスルなのに、打つと飛んで球が上がるクラブです。飛距離も出るし、高い球で止められるのでコースでは使い勝手がいいでしょう」(伊丹)
【6位/テーラーメイド・Mグローレ】
弾いて飛ばす強弾道アイアン。ヘッドが大きい割によくつかまる
「癖のないソールは滑りがよく抜けがいいですね。重心角もついているので球をつかまえやすい。前にドカーンと飛び、スピン少なめの強い球が出ます。弾き系の飛びアイアンという印象です」(山﨑)
「ボリュームのあるトップラインで、構えたときに当たり負けしないイメージがわきます。弾き感は強めで、スピンは少なめ。ヘッドの大きさの割にはつかまる工夫が施されているヘッドです」(伊丹)
PHOTO/Takanori Miki、Tomoya Nomura
THANKS/中山CC
週刊GD2018年10月2日号より