湯原プロはスウィング作りを「自分自身のスタンダードを探す作業」と語る。人それぞれ考え方は違うから、自分のなかに基準が必要というわけだ。では、湯原自身はどうやって自分自身のスタンダードを作ったのか。初めてスウィングと向き合った、中学3年のグリップ改造の話から聞いていこう。

グリップはオーバーラッピングか、インターロッキングか

GD 湯原プロのスタンダードについてお聞きしたいのですが、どんな観点で作ってきたのか、まずはゴルフ人生で最初に取り組んだグリップ改造について聞かせて下さい。

湯原 世の中のプロゴルファー全体からすれば、日本も欧米もオーバーラッピングがグリップの主流です。しかし、どう握るのが自分にとって気持ちいいグリップなのか、ということが大事なんです。

GD 気持ちいいかどうかが最優先で、セオリーはないということですか?

湯原 トッププロでも様々な握り方をしているのですから、「これがセオリーだ」というものはないでしょう。私の場合、グリップを改造した当初、しばらくの間は違和感がありましたから、オーバーラッピングからインターロッキングに戻したり、またオーバーラッピングにしたり、行ったり来たりを繰り返していました。

湯原 その結果、右手の小指を左手の人差し指に乗せるという教科書どおりのオーバーラッピングではなく、右手の小指を左手の人差し指と中指の間に入れるという、ちょっと変則ともいえるかもしれない、オーバーラッピングというスタイルに落ち着きました。まあ、インターロッキングの名残りのあるオーバーラッピングといっていいでしょう。私にとって、これが一番、右手と左手の一体感があるグリップだったのです。

GD それが湯原プロにとって気持ちのいいグリップ、つまり湯原プロのスタンダードというわけですね。

湯原 右の小指を左の人差し指に乗せるオーバーラッピングでは、ラフとか悪いライとかでガーンと力を入れて打つときに、指が外れそうになってちよっと気持ち悪いんですね。右の小指が左の人差し指と中指の間に挟まっていれば、番になって外れません。それが安心感になっています。

湯原 何かの記事で見ましたが、かつてグレッグ・ノーマンが全英オープンの直前になって、急に思い立って、右の小指を左の人差し指と中指の間に入れるグリップにして、調子を取り戻したということがありました。私のグリップとはちょっと違いますけど、発想は同じだなと思った記憶があります。ノーマンは、それをメッシュグリップと言っていましたね。

画像: かつての世界ランキング1位、グレッグ・ノーマン。不調に陥ったとき、右の小指を左の人差し指と中指の間に入れるグリップに改造して調子を取り戻したという

かつての世界ランキング1位、グレッグ・ノーマン。不調に陥ったとき、右の小指を左の人差し指と中指の間に入れるグリップに改造して調子を取り戻したという

GD ノーマンも、やはり強振したときに、外れる不安があったのでしょうね。

トップの位置は左手親指の腹が支えるもの

GD 湯原プロの場合は、インターロッキングからオーバーラッピングへのチェンジでしたが、どんな感じだったんですか。

湯原 最初は感覚的に違和感があってインターロッキングに戻したこともありますが、そのとき、からめている指が痛くなるんです。8本で握るインターロッキングは余分な力が人らない利点がある一方、指の負担も大きい。じゃあ、やっぱりオーバーラッピングのほうがいいんだと、自分に思い込ませていったようなところがありましたね。要は、自分の感覚のなかで、体や腕の動きを伝えやすいようにすることが重要なんです。

GD 自分が力をどうクラブに伝えたいかが大事ということですか?

湯原 そうですね。例えば、まだレッスンなど受けたことがない子供にクラブを持たせると、多くの場合、クロスハンド(逆手)で握るんですよ。本能的にね。引っ張る動きのほうが、重い物を振りやすいからなんです。しかも、左肩が支点になるから、ヘッドを球に当てやすいということもあります。でも、しばらくするとク口スハンドではクラブに十分なスピードが加えられないとわかって、左右の手を人れ返る順手のグリップになるんです。

画像: アドレスで左手の親指をシャフトの真上に乗せておけば、トップでしっかりクラブを支えられて、重さが感じられ、さらにシャフトが指している方向やフェースの向きなども感じられる

アドレスで左手の親指をシャフトの真上に乗せておけば、トップでしっかりクラブを支えられて、重さが感じられ、さらにシャフトが指している方向やフェースの向きなども感じられる

GD 左手親指の使い方で、長く使うロングサム派と短く使うショートサム派がいますが、湯原プロはどちらですか?

湯原 それは考えたことがありませんね。私は左手親指の第1関節から先の指の腹をグリップに密着させるようにして、クラブを支えたいと思っています。私の認識では、親指の第2関節あたりから指先付近までをギューッと伸ばしてグリップに添えるのがロングサムだと思っているので、私は、どちらかというとショートサムということになるんでしょうね。

画像: (左)左親指の第1関節から先の指の腹をグリップに密薦させるようにして、クラブを支える (右)左親指の第2関節あたりから指先付近までをしっかり伸ばしてグリップに密着させる

(左)左親指の第1関節から先の指の腹をグリップに密薦させるようにして、クラブを支える
(右)左親指の第2関節あたりから指先付近までをしっかり伸ばしてグリップに密着させる

GD クラブを支えるとは、どういうことですか?

湯原 トップの位置で左の親指がクラブを支えるということです。シャフトを親指の腹に乗せているといってもいいでしょう。親指がシャフトを支えずにズレていると、どこにクラブが上がっているのか、非常にわかりづらいんです。

GD 左の親指とシャフトの方向が一致しているというわけですね。

湯原 それと、そこでクラブの重さも感じられるんです。

GD なるほど。フェースの向きなども、ある程度それで判断できますね。ところで、ロングサムとショートサムにそれぞれ利点と欠点はあるのでしょうか。

湯原 それはないと思います。私の師匠の石井茂さんはロングサムでしたが、たまたま指の形とか柔軟性とかで、どちらかになるのだと思います。

GD 様々な握り方があって、どうも「これだ!」というセオリーがないということがわかりました。では、湯原プロがグリップでいちばん大切にしていることは何ですか?

湯原 密着感と一体感です。

週刊GD2013年より

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