砂地に自生する“雑草”が“芝”の始まりだった
ゴルフの原点、スコットランドの「リンクス」は強い海風が吹きつけるため木は育たず、雑草と灌木だけの砂地。そこで野兎や放牧された羊が草を食んで、フェアウェイができたとも言われている。
「ゴルフは羊飼いの遊びから始まったという説もあり、いまでもオーストラリアやペルーの一部のゴ
ルフ場では、羊に芝刈りをさせているコースがあるんです」(稲治造園工務所取締役・柳澤博見氏)
芝があるからこそゴルフという競技が成り立つというのは芥屋GC(福岡県)のグリーンキーパー、アンドリュー・マクダウェル氏。
「芝がないとボールがどこに跳ねるのか運の要素が強くなりすぎてしまいます。公平でフェアにプレーするためにも芝は必要なんです」
日本初のゴルフ場、神戸GCは雑草や笹を手鎌で刈り取っただけだった
日本初のゴルフ場、神戸GCは、アーサー・H・グルームと友人たちが六甲山の岩を掘り起こし、雑草や笹の根を刈り、ツツジの根を引き抜いて造った手造りコース。
スコットランドのリンクス同様、雑草がフェアウェイだった。さらに最初のグリーンは砂を固めただけ。
神戸GCはサンドグリーンだった
1903年に9ホールで開場した神戸GC。ティーイングエリアとグリーンは、すべて砂を固めて造られていた。1933年までに全ホールをコーライグリーンに。戦後のコース復旧とともにベントになった。
日本初の芝グリーンは横浜・根岸
1866年に横浜の在留外国人用に造られた根岸競馬場。その内馬場に1906年に開場したのがニッポン・レース・クラブ・ゴルフィング・アソシエーション根岸コース。
競馬場の芝を生かした日本初の芝グリーンは、横浜・根岸競馬場の走路内側に造られた、この9ホールだった。
西洋芝がグリーンに使われるのは1932年のこと。この年に東京GC朝霞コース、廣野GCなどがベントグリーンで開場するが、夏の酷暑で全滅してしまう。
東京GCでベント芝が見つかった
三菱財閥4代目、岩崎小弥太が英国から取り寄せ東京GC駒沢コースに撒いた洋芝が10年後、日本の風土に根付き発芽したのを相馬孟胤が発見し培養。東京GC朝霞コースで初めて西洋芝が採用された。
ベント全滅で2グリーンが生まれた
東京GC朝霞コースと廣野GCの洋芝グリーンに次いで、霞ヶ関CC西コースも続いたが夏の酷暑で全滅。1935年に本グリーンがコーライ、サブグリーンがベントという2グリーンが誕生した。
あのスタジアムの芝実はゴルフ場と同じ種
ゴルフ同様、球技などに芝の存在は欠かせない。コースと同じ芝が色々な場所で使われている。
【ラグビー】熊谷ラグビー場
バミューダの一種で丈夫さと葉のきめ細かさが抜群。海外ではゴルフ場も採用。スクラム実験を経て導入された。
芝:ティフグランド
刈高:25~27mⅿ
【サッカー】埼玉スタジアム
北海道などでフェアウェイに使われるケンタッキーブルーグラス。トールフェスクはフェスキューの改良種。
使用芝:ケンタッキーブルーグラス、トールフェスク、ペレニアルライグラス
刈高:20㎜前後
【野球】阪神甲子園球場
温暖な気候を好むバミューダのティフトン。沖縄や九州、アメリカでも西海岸など多くのゴルフ場で使われている。
使用芝:ティフトン、ペンハイン
刈高:基準なし
【競馬】東京競馬場
ラフやフェアウェイによく使われるノシバを東京競馬場でも使用。北海道の競馬場ではゴルフ場と同じように洋芝が使われている。
使用芝:ノシバ
刈高:約10~16㎝
現代は、8割以上のコースがベントグリーンを採用
近年まで多くのコースでベントと夏に強いコーライの2グリーンが主流だった。だが、夏のコーライ
は葉が硬く、短く刈れないため、暑い時期にこそ活躍してほしいのに夏がもっとも転がりが悪い。冬は休眠するのでスピードは出るが、隣のベントは青々としているのに茶色に枯れる。
コーライがゴルファーに嫌われ出し、代わりに登場したのが寒地型のベントを進化させた“ニューベント”。耐久性が上がりメンテナンス技術の向上もあり、通年、極上グリーンに仕上げることが可能になった。
すべての芝は2種類に分けられる
【寒地型】
代表芝/ベント(西洋芝)
●高温多湿に弱いが冬でも緑
●葉が柔らかく細い
短く刈っても柔らかく摩擦が少ないため、芝目が出にくく、素直に転がり、速さも出しやすい。全国の8割の以上のコースで採用されている。ただし、排水性・通気性に優れた土壌が必要で、管理が難しいなど手間がかかる。
【暖地型】
代表芝/コーライ(和芝)
●暑さに強いが冬枯れする
●葉が広く硬い
日本の気候・土壌に合っていて管理の手間もそれほどかからないが、12度以下で徐々に休眠し、地表部は冬枯れする。荒く芝目もできやすいためグリーンでの役割はベントに譲ってきているが、強いためフェアウェイなどで使われている。
夏でも涼しい北海道では“オールベント”コースも
暖地型のコーライは冬越しできず、寒地型のベントが通年管理されている。芝すべてがベントという贅沢なコースも。
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最新ベントは“第5世代”に突入
「007」の正統なる後継品種「777」
採用コース:千代田CC(茨城県)、御前水CC(北海道)など
第4世代の1番人気芝種「777」の後継ということで、多くのコースが注目し現在品薄状態。既存のグリーンにこの種を撒いて、グリーン芝を更新中のコースも出てきた。
高密度で別名「ピラニア」「DC-1」
採用コース:東京GC、岐阜関CCなど
アメリカで開発され、日本でさらに研究して生まれた共同開発種。芝目が密でなめらか。冬でも青々としている。東京GCで採用され注目が集まった。
ベントといえばコレ第1世代「ペントクロス」
「種」で増やせるベントとして大注目され、まだ多くのコースで使われている。ペンシルバニア州立大学で交配(クロス)したから「ペン・クロス」。
国産初のベントが登場第2世代**「L-93」「CY-2」
素直な転がりが出しやすい。後継種「L-93xd」も登場した。
初めて日本で登録された品種。「千葉“C”」と「雪印”Y”」の頭文字で命名。
“ニューベント”の代表格第3世代「ペンA1」「ペンA2」
ペンクロスから20年、さらに改良が加わりアップグレード。
オーガスタでも使われている芝種。Aはオーガスタの頭文字。
“最近まで流行の最先端第4世代「007」「シャーク」「タイイ」
発芽のしやすさと夏でも高水準を保ちやすいことで人気に。
「DC-1」の前に米芝草評価試験で1位を獲得した優良品種。
「007」に近い特製を持つ。インディアンの言葉で「優れた者」の意。
ベントに比べて手間のかからないコーライ
ティ&フェアウェイではいまも主役
本州を中心に広く自生し、江戸時代の大名屋敷の庭の一画にも生えていたといわれる和芝。太く硬い葉が、しっかりボールを浮かせ、打ちやすいライを作ってくれる。
生命力が強くベントほど管理の手間もかからないので多くのコースでフェアウェイやラフ、ティーイングエリアに使われている。
「コーライ」
和芝の中で最も多く使われる。西洋芝に比べると成長が緩やか。やや淡い緑で日本特有のコース風景を生み出す。
ベントを遜色なし、タイの名コースは最新バミューダ「ティイーグル」↓
【ゴルフの芝を研究②】亜熱帯化の日本に最新バミューダがやってきた↓
芝の状態がいい沖縄名コースでのゴルフはいかが?
「ノシバ」
日本に自生していた品種のため非常に強い。葉は固く、幅もある。自生のままラフに使われることも多い。
Q、フェアウェイよりティーイングエリアのほうが芝が長い!?
A、同じ芝でも刈高を変えるだけでコースでの役目が変わるんです
【ティ】 刈り高10~15mm…ティペッグを刺すため、フェアウェイと同じか、少し長めにすることが多い。
【フェアウェイ】 刈り高8~14mm…男子ツアーで10mm前後、女子ツアーや通常営業では12~14mmが一般的。
【ラフ】 刈り高40mm~…コーライやノシバが一般的だが、粘りのあるティフトンを使用しているコースも。
【グリーン】 刈り高3.5~4mm…芝の品種によっては、さらに短く刈り込んでグリーンの速さを出す場合もある。
海外で最新の芝とレイアウトを体感するものよし!
「芝のすべて」後編に続く
PHOTO/Hiroyuki Okazawa、Yasuo Masuda
(週刊ゴルフダイジェストより)