ティアップして、構えて、打つ。合図もなく、自分のペースで動くゴルフには緊張感がつきもの。「緊張しなければミスもしないのに… 」と嘆く人もいるかもしれないが、「確かにそうかもし
れないが、緊張するから上手くなるのです」とユハラはいう。いったいどうすればいいの? ユハラ流“緊張観”を聞いた。今週の通勤GDは「迷ったときは、ユハラに帰れ!」Vol.39。

【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。

【湯原信光プロ】
ツアー7勝、シニアツアー1勝の日本を代表するショットメーカー。とくにアイアンショットの切れ味は、右に出るものはないと言われた。現在は東京国際大学ゴルフ部の監督も務め、後進の指導にも力を注いでいる。

前回のお話し↓

緊張をどう
コントロールか

GD 今回は、“緊張”について伺います。以前、「ジュニアから試合の前夜は緊張で眠れないという相談を受けた」と聞きましたけど、どんなアドバイスをするんですか?

湯原 若いんだから2日や3日ぐらい眠らなくても大丈夫だといいました。ほかにも、「これまで試合で緊張したことがなかったのに、最近はものすごく緊張するようになって、どうしたらいいのかわからない」という子もいました。

GD 「ゴルフの経験を積むにつれて怖さがわかってくる」という話は、プロゴルファーからも聞いたことがあります。それで、湯原プロはどんな助言をしたんですか?

湯原 「緊張するようになったのか。それはよかったな」といってあげました。何か緊張するのが悪いことのようにいわれる風潮がありますが、私はそうは思いません。“緊張をどうコントロールするか”で成長するのですから。

GD ゴルフを始めたばかりの人だったら、スタートホールのティショットは緊張するでしょうし、ベテランだって大勢が見ているコンペの朝イチは緊張します。プロゴルファーも、初めてのメジャーとか、優勝争いとか、いろいろと緊張するケースがあるでしょうけど、一般アマチュアの持つ緊張感とは、やっぱり質が違うのでしょうか。

湯原 同質ではないでしょうね。タイガー・ウッズも、初めてマスターズに出たときは手が震えたといいます。それと初心者の初ラウンドを比較してはね(笑)。

画像: 「緊張感があるから、あり得ないミスも、神業も生まれる。心堪財羨が直に現れるのがゴルフの醍醐味です」(タイガーが初出場した95年マスターズ。緊張する初日のスコアは72。3日目は同組で尾崎将司とラウンド。結局、41位%でローアマに輝いた)

「緊張感があるから、あり得ないミスも、神業も生まれる。心堪財羨が直に現れるのがゴルフの醍醐味です」(タイガーが初出場した95年マスターズ。緊張する初日のスコアは72。3日目は同組で尾崎将司とラウンド。結局、41位%でローアマに輝いた)

わざと緊張状態を
作り練習する

GD 緊張に対する有効な対策はあるんでしょうか?

湯原 指導している東京国際大学ゴルフ部の学生たちに「緊張するとどうなる?」と聞くことがあります。「手に汗をかく」「心拍数が上がる」「筋肉が硬くなる」「呼吸が早くなる」などの答えが返ってきますが、どれも正解。緊張感が肉体に起こす現象は、みんな知っているのです。だったら、その状態を人工的に作って練習してみろと指導しています。

GD ということは?

湯原 たとえば、「思い切り体に力を入れてボールを打たせる」のです。ゴルフのレッスンでは、「カを人れるな」という注意をよく受けるでしょう。私もそういう教え方をすることもあります。でも、入りすぎた力をどうやって抜くのかは、本人にしかそのコッはつかめません。だから、あえて力をいっぱい入れた状態で振ってみるんです。そうすると、自分の体の状態がどうなるかがわかって、「その範囲でやれることは何なのか」を考えさせるのです。

画像: わざと緊張状態を 作り練習する

GD 緊張した状態だと筋肉が硬くなって動きづらくなるというのを、練習であらかじめ体験しておくのですね。

湯原 ええ。緊張すると心臓がドキドキするというのなら、その辺を走り回って、心拍数を上げてから打席に入ったり、パッティングしたりという練習をすれば、試合中にその状態になったときの対処方法が身につきますよ。

GD しかし、ビギナーの緊張は、やはり場数を踏むのがいちばんでは?

湯原 もちろん、場数が解決してくれるでしょうが、何らかの方法で緊張状態を作って体験しておくというのもあると思います。

GD 練習場の隅のほうばかりで打っていないで、いちばん目立つ中央の打席で練習するというのもいいかもしれませんね。

湯原 自分にプレッシャーをかける方法はきっとあるはずです。オフに後輩を連れてタイで行ったゴルフ合宿では、(永野)竜太郎や(大堀)裕次郎たちに、「今日は1日中喋らずにラウンドしろ」という指導をしました。その狙いは、日常ではない状態を作って、そのなかでどう対処するかを体験させるためです。ゴルフのレッスンではよく「リラックスしなさい」という指導があります。しかし、リラックスできない状態がほとんど。そのとき、どうすればいいかも、体験しておけば役立ちます。

GD 練習と同じ状態でプレーするのは、無理ですからね。よく「練習ではできるのに、どうして本番ではできないのか」と首を傾げている人がいますものね。まあ、他人事ではありませんが……。

スコアという数字に
価値を感じるか

GD 稀にですけど、試合でプレッシャーを感じたことがない、と豪語するプロもいます。緊張しない気質の人もいるんでしょうか?

湯原 それは価値観の問題だと思います。そこでプレーすることに価値を感じなければ、日常と何ら変わらないのだから、緊張はしません。

GD なるほど。タイガーも初めてのマスターズに価値を感じていたから震えたということですね。昔、日本オープンで勝ったあるプロが、「オレにとっては日本オープンも他の試合も一緒。だからプレッシャーなんかなかった」といっていました。

湯原 思い入れの問題なのです。日本一のゴルファーになるための貴重な機会なのか、それとも、仕事としてお金を稼ぐ日常生活の場なのか。そこに、どれぐらい価値があるのかというね。しかし、そういう緊張感があるから、大変なミスをしてしまう一方で、神業のようなスーパープレーも生まれるのだと私は思います。

GD でもアマチュアがコンペの朝に感じる緊張感は、あまり価値観とは関係ないように思えますが、どうでしょう?

湯原 恥をかきたくないという心理と、自分の技術に対して高望みをしていることから生まれる緊張感ではないですか。練習場でも50発に1発ぐらいしか出ないナイスショットを見せようとか。見ている人たちは、別に何も気にしていないのに、自意識過剰になっているのです。もちろん、恥をかかないということが、ひとつの価値になっているとも考えられますが。

GD 比較するのは失礼ですけど、我々アマチュアが90切りとか、ベストスコアを更新できそうなときに迎える最終ホールと、プロゴルファーが優勝争いをして迎える終盤の緊張感は似ていると思うのですが、どうでしょうか?

湯原 プロゴルファーは優勝に価値を感じるし、アマチュアはそのスコアという数字に価値を感じるということです。だからそういう局面を迎えたところで緊張を感じるのです。ゴルフはゲームなのですから、緊張感がなかったら、面白くはないでしょう? せっかく緊張しているのに、どうしてそれを避けようとする必要があるのでしょうか。

GD 緊張感があるからこそ、目標を達成できたら嬉しいし、価値を感じられると。それが、まったく緊張もせずにやれてしまったら、達成感もないということですね。それでは、ゴルフじゃなくても、ほかのスポーツでも面白くないですよ。

湯原 そのとおりです。とりわけゴルフは反射神経をあまり使わないスポーツだから、緊張から逃れられないのです。

画像: 練習でも緊張を作り出して打つといい

練習でも緊張を作り出して打つといい

緊張するから
ゴルフは面白い

GD ゴルフほど考える時間が長いスポーツはほかにないですよね。考えれば考えるほど、プレッシャーが増幅してしまう。俗にいう“待ちチョロ”なんかは典型的ですね。

湯原 反射神経が決め手になるスポーツの場合は、考える暇もなく体が勝手に反応するように訓練されているし、スポーツによっては、号令で動くシステムを作っているものもあります。しかし、ゴルフではそれができません。だから心がダイレクトにプレーに現れてしまうのです。

GD 池越えのホールも緊張しますね。自分の飛距離を信じたいけど、内心やっぱり怖い。

湯原 ギリギリを狙って成功すれば嬉しいし、逃げて反対側のラフに突き抜けるのも嫌だし……。そういう緊張感が随所にあるから、ゲームとしてゴルフは面白いのです。それをしっかり認識すればゴルフはもっと楽しめますよ。

GD 昔は、優勝争いをしているプロが「平常心で臨みたい」とよくいったものですが、最近では「この緊張感を楽しみたい」と答えるプロ、とくに若手のプロが増えたような気がします。

湯原 緊張感とかプレッシャーちうものに対するプレーヤーの認識が少しずつ変わってきている表れでしょうか。かつては「リラックスしてやります」と言っていたけれど、呼吸法や歩き方などいろいろやっても、結局はプレッシャーからは逃れられない。それをようやく理解するようになったということです。

GD 緊張するからプレーが面白い。その緊張が高いパフォーマンスに結びつけば最高ですね。

週刊GDより

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